特定の名宛人(当事者その他の訴訟関係人。なお,訴訟代理人は当事者本人と同視される)に対する法定の方式による通知の一種。原則として裁判所が職権で行う(民事訴訟法98条1項。例外は110条)。重要な訴訟上の書類(判決書,訴状等)は,確実に了知する機会を与える必要があり,しかも,この点に後日争いが生じないようにしなければならない。そこで,厳格な方式を定めると同時に,送達報告書を作成して公証することが要求されている。送達事務は裁判所書記官が管掌する(98条2項)。その実施者は原則として執行官または郵便集配人だが,書記官みずからも例外的に実施することがある(99~100条,111条)。
送達実施の方式には,交付送達,郵便に付する送達,および公示送達がある。
交付送達は,名宛人の住所,居所,営業所,または事務所において,送達書類を交付する方式であり,その確実性ゆえに原則的方式とされている(民事訴訟法101条)。このように,住所などの生活の本拠地に限定し,かつ,直接本人に送達書類を交付することを要求したのでは,送達が効率的に行われず,訴訟が遅延するおそれがある。そこで,第1に,名宛人の生活の本拠地以外においても送達書類を交付できる道を開いている。すなわち,名宛人の住所などが知れないとき,これらの場所において送達をするのに支障があるときなどには,就業場所においても送達できる(103条2項)。また,日本に住居所等がないとき,または名宛人が受領を拒まないときは,名宛人に出会った場所で送達できる(105条)。第2に,名宛人本人以外の者に送達書類を交付する道も開いている(補充送達または代人送達)。すなわち,住居所などで名宛人に出会わないときは,事務員・雇人または同居者で,事理を弁識するだけの知能を有する者に送達書類を交付すればよい(106条1項)。就業場所で名宛人に出会わないときは,雇主・委託者など,その法定代理人,事務員,または雇人で,事理を弁識するだけの知能を有する者が任意に受領するならば,送達書類を交付できる(106条2項)。第3に,名宛人本人または住居所などにおける代人が正当の事由がないのに受領を拒んだときは,書類を差し置くことができる(差置送達。106条3項)。
これに対し,郵便に付する送達と公示送達は例外的な方式である。前者は,名宛人の住居所などにあてて送達書類を書留郵便に付して発送し,発送時に送達があったものとみなすもので,交付送達ができない場合および送達受取人の届出を怠っている者に対する場合にかぎって許される(107条)。後者は,送達書類をいつでも交付する旨を裁判所の掲示場に掲示する方式の送達であって,当事者の住居所など,就業場所が知れないときや郵便に付する送達ができないときなど極限の場合にかぎって裁判長の許可を得て許される方法である(110条,111条)。公示送達は,掲示開始の日から2週間を経過するとその効力を生じる(112条1項)。しかし,あまりにも名宛人に酷な事案であれば,訴訟行為の追完の規定(97条)によって,救済する余地がある。
第1次的送達場所である住居所などに加えて第2次的送達場所として就業場所を導入した1982年の法改正は,核家族化が進行し夫婦の共働きが増加する社会状況のなかで,昼間不在の家庭が生みだす送達の停滞を克服しようとしたものである。しかし,就業場所での送達は名宛人のプライバシーを侵すおそれもある。改正規定がこの種の送達の範囲を限定しているのは,この点を考慮したものである。また,就業場所において代人が送達書類の交付を受ける場合には,これらの代人と名宛人との関係が希薄であることから,名宛人の手に送達書類が渡らないおそれもある。この危険を防止するのが名宛人に対する送達の通知であり,事後的な救済としては代人の過失を名宛人本人の過失と同視することなく訴訟行為の追完の余地を認めることが考えられてよい。
裁判所規則に特別の定めがある場合を除いては,民事訴訟に関する法令の規定が準用される(刑訴54条)。もっとも,公示送達は現実に了知する可能性に乏しく被告人の正当な利益を害するおそれがあるので,許されていない。書類の送達に関して瑕疵(かし)があった場合に判決が破棄されるか否かについては争いがある。なお,数人の弁護人がある場合,主任弁護人または副主任弁護人が書類の送達について他の弁護人を代表すること(刑事訴訟規則25条1項),名宛人の異議がないかぎり就業場所における送達ができること(63条の2)などの特則がある。
執筆者:小島 武司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
訴訟手続の円滑な進行のために、訴訟書類の交付について訴訟法の規定する形式手続をいう。すなわち送達は、一定の方式に従って当事者その他の訴訟関係人に訴訟上の書類の内容を了知させ、またはその機会を与えることを目的としている。
[内田武吉・加藤哲夫]
民事訴訟法は、かならず送達手続によって書類を交付すべき場合を定め、この手続に従うことにより一定の効果を生じさせることにしている。たとえば、訴状の送達によって、被告に対する関係において訴訟が成立し(民事訴訟法138条)、終局判決の送達によって、上訴の不変期間(法定期間のうち、裁判所が自由にその期間を伸縮できないもの)が開始される(同法285条、313条)などの効力が生ずる。民事訴訟では、送達は、特別の定めがある場合を除き、送達すべき書類を送達機関が名宛(なあて)人に、その人の住所で直接手渡す交付送達(同法101条、103条)が原則であるが、次の場合には本人以外の者に送達することにより、本人に対して効力を生ずる。
(1)訴訟無能力者に対する送達は、その法定代理人にする(同法102条1項)。
(2)刑事施設に収容されている者に対する送達は、刑事施設の長にし(同法102条3項)、その者の責任で本人に書類を交付させる。
代理人に対する送達については、数人が共同して代理権を行うべき場合においても、送達はその1人に対してすればよい(同法102条2項)との特則がある。なお、交付送達の方法をとれない場合には、出会送達(同法105条)、補充送達(同法106条1項・2項)、差置送達(同法106条3項)などがあり、これらの方法もとれない場合として、書留郵便等に付する送達(同法107条)や外国における送達(同法108条)がある。相手方の住所が不明の場合の方法としては公示送達(同法110条)の制度がある。
送達は、特別の定めがある場合を除き、職権でするものとし(同法98条1項)、受訴裁判所の書記官がその事務を取り扱う(同法98条2項)が、場合により送達地の地方裁判所の書記官に嘱託することもできる(民事訴訟規則39条)。送達手続を実施する者としては、執行官ならびに郵便集配人があり(民事訴訟法99条)、裁判所書記官が自ら実施する場合もある(同法100条、111条)。
[内田武吉・加藤哲夫]
刑事訴訟では、召喚状の送達(刑事訴訟法65条、153条)、起訴状謄本の送達(同法255条、271条、刑事訴訟規則166条、176条)、裁判書の謄本の送達(同規則34条)などがあるが、これらの書類の送達については、裁判所の規則に特別の定めのある場合、すなわち刑事訴訟規則第62条(送達のための届出)、第63条(書留郵便等に付する送達)、第63条の2(就業場所における送達)、第64条(検察官に対する送達)、第65条(交付送達)の定める場合を除いては、民事訴訟に関する法令の規定(民事訴訟法98条、99条、101条、102条、103条、105条、106条、108条、109条など。ただし公示送達に関する規定を除く)が準用されている(刑事訴訟法54条)。公示送達(裁判所の掲示場に掲示して行う送達)に関する規定が準用されないのは、被告人の利益を害さないためである。書類の発送は、裁判所書記官がこれを取り扱う(刑事訴訟規則298条)。
[内田一郎]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新