日本大百科全書(ニッポニカ) 「豆腐料理」の意味・わかりやすい解説
豆腐料理
とうふりょうり
豆腐を単独であるいは主材料として調理した食物。豆腐は、それ自身すでにそのままでも食べることのできる加工食品で、単に薬味としょうゆをつける程度で食べる冷ややっこや、湯豆腐などがある。しかし、豆腐は味が非常に淡泊で、どんな材料ともよくあうため、古くから多数の豆腐料理が生まれ、1782年(天明2)刊の『豆腐百珍』、翌年刊の『続豆腐百珍』に、すでに200余種の料理が記されている。
また、大豆タンパク質の健康上の効用が知られるにつれ、アメリカなど生活習慣病(成人病)予防に対する関心から、豆腐料理がよく食べられるようになった。このため、いままでの伝統的な豆腐料理に加えて、洋風の豆腐料理なども多くなってきている。おもな豆腐料理をあげると、次のようなものがある。
[河野友美・大滝 緑]
冷ややっこ
よく冷やした豆腐を2センチメートルくらいの角に切り、氷水を張った鉢に浮かしたものを、たれ、薬味を添えて食べる口あたりのよい料理。切った豆腐の形が、江戸時代の奴(やっこ)(武家の下僕)の衣装につける方形の紋所に似ているところから奴豆腐の名がある。たれは、土佐じょうゆあるいはしょうゆに花がつおを加え、薬味として刻みねぎ、青じその細切り、おろししょうが、七味唐辛子などを添える。豆腐は、絹漉(きぬご)しが口あたりがよい。
[河野友美・大滝 緑]
湯豆腐
大坂では湯やっこともよんでいた。鍋(なべ)にだし昆布を敷き、中央にしょうゆと酒をあわせたつけじょうゆを器に入れておく。鍋にたっぷりと湯を入れ、木綿豆腐を3センチメートル角くらいに切って入れる。このとき湯に塩を一つまみ入れておくと、加熱によって凝固剤がさらに働いて固くなったり、豆腐に鬆(す)がたつのが防げる。豆腐が浮き上がってきたらすくい取り、つけじょうゆをつけて熱いうちに食べる。薬味としては、花がつお、ねぎのみじん切り、もみ海苔(のり)、七味唐辛子を添える。昆布のほか、タラ、焼干しのアユやハゼを用いることもある。また、ハクサイ、白ネギ、シュンギクなど野菜を加えて煮る方法もある。
[河野友美・大滝 緑]
いり豆腐
豆腐をゆでて、よく水をきる。これにニンジンやシイタケをせん切りにして下煮したものを加え、鍋に入れてほぐし、砂糖、しょうゆ、酒で調味し、箸(はし)でよくかき混ぜていり上げる。
[河野友美・大滝 緑]
揚げだし豆腐
豆腐の水けをきって適当な大きさに切り、かたくり粉をまぶして油で揚げる。一方、だし汁をしょうゆ、みりんなどで吸い物よりやや濃いめに調味し、ひと煮立ちしたら大根おろしを加え、揚げたての豆腐にたっぷりかける。または、大根おろしとしょうゆで食べる。
[河野友美・大滝 緑]
麻婆豆腐
中国の豆腐料理。豆腐は水けをきり、賽(さい)の目に切る。中華鍋(なべ)に油を熱し、みじん切りのショウガ、ニンニクを炒(いた)め、豆瓣醤(トウパンチャン/ドウバンジャン)(唐辛子みそ。豆板醤とも書く)とひき肉を加えて炒める。肉に火が通ったらスープを加え、豆腐を加える。かたくり粉の水溶きでとろみをつけ、器に盛ってネギを散らす。
[河野友美・大滝 緑]
豆腐ステーキ
水けをよくきった豆腐をフライパンや鉄板、ブロイラー(焼き物用具)などで両面をこんがりと焼き、ソースを添える。ソースは、しょうゆ、ケチャップ、タルタルソース、マヨネーズにカレー粉を加えたカレーソースなど適宜用意する。ダイエット料理としてアメリカで人気のある料理の一つである。
[河野友美・大滝 緑]
その他
田楽(でんがく)、いり物(いり豆腐その他)、けんちんなどは一般によく知られた豆腐料理である。田楽は、豆腐に串を刺した形が田楽舞の鷺足(さぎあし)に似ているための命名という。祇園豆腐は京都の名物料理の一つで、豆腐の木の芽田楽である。すりみそをのせた上に花がつおをかけたものを蓑(みの)田楽という。けんちんは、せん切り野菜、豆腐などを油で炒めて湯葉(ゆば)で巻いたもので、中国名の捲煎(ケンチェン)に由来する(けんちん汁もこれから出る)。空也(くうや)蒸し、南禅寺(なんぜんじ)蒸しは豆腐を材料にした茶碗(ちゃわん)蒸しである。また、豆腐、ヤマノイモとタイの身、卵白を擦り混ぜ型に入れて蒸した伊勢(いせ)豆腐、葛湯(くずゆ)で煮る小笠原(おがさわら)豆腐、棒状に切った豆腐をごま油で転がし焼きにする織部(おりべ)豆腐、昔宮中で行われたという焼き豆腐の一種おきじ豆腐、豆腐と卵をすり混ぜて煮て卵そぼろをかける女郎花(おみなえし)豆腐、豆腐を切るか砕いて油で炒める雷豆腐(南京(ナンキン)豆腐)もある。擬製豆腐は、肉食を禁じられた寺院でつくられた料理で、豆腐をつぶしたものに卵を加えてすり混ぜ、ふたたび豆腐状に固めたものである。
郷土料理としては、ウナギの頭(鰻面(うずら))をだしにして焼き豆腐を煮る「鰻面豆腐」(大阪府)、豆腐をうどんのように細く切って料理する「うどん豆腐」(島根県)、マツバガニの身と豆腐をすり混ぜて焼いた「かに豆腐」(鳥取県)、鍋に藁(わら)を敷き薄切りの豆腐を並べて煮る「座豆腐(ざどうふ)」(奈良県)などが珍しい(詳しくは、それぞれの項目を参照)。
[河野友美・大滝 緑]
『何必醇著、福田浩訳『豆腐百珍』(1988・教育社)』▽『礒本忠義著『豆腐料理――豆腐・おから・豆乳・湯葉・油揚げ・高野豆腐』(1996・柴田書店)』▽『福田浩・杉本伸子・松藤庄平著『豆腐百珍』(1998・新潮社)』▽『仲田雅博著『新・からだ思いの「豆腐百珍」――豆腐料理100+α』(2004・淡交社)』▽『米田祖栄著『京都・竹之御所流 新豆腐百珍』(中公文庫ビジュアル版)』