読本。曲亭馬琴作。国貞・北渓画。第1輯1828年(文政11),第2輯1829年(文政12),第3輯1832年(天保3),第4輯1834年(天保5)刊。一時中断の後,続編は《新局玉石童子訓》と改題し,失明後の馬琴の口授編纂にかかり,1845-48年(弘化2-嘉永1)に至るまで30巻30冊(正続ともに50巻45冊)が刊行されたが,馬琴病没のため,ついに未完に終わった。動乱の戦国に時代をかり,大内家家臣陶(すえ)瀬十郎と女歌舞伎阿夏(おなつ)との間に生まれ,のちに主君大内義隆を滅ぼす末朱之介(すえあけのすけ)晴賢(はるかた)と,厳島の戦で晴賢を破る大江杜四郎(もりしろう)成勝の,悪と善の2少年の行状を中心に物語は展開する。2少年はそれぞれ正史における陶晴賢,毛利元就に擬せられている。勧善懲悪の思想は,従来の馬琴の小説に同じく一貫したものがある。中国明代の小説《檮杌間評(とうごつかんぴよう)》の影響の下に,主役たると脇役たるとを問わず,悪人淫婦の造型が単に因果や天性によるとする決定論を超えて,新たに境遇の人間形成における重大さを描き,さらには情事の描写も奔放自在で,人情の根底をつき,馬琴文学掉尾の異色作と目されている。
執筆者:松田 修
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
江戸時代の読本(よみほん)。曲亭馬琴(ばきん)作、歌川国貞(くにさだ)・岩窪(いわくぼ)北渓・3世豊国挿絵。41巻45冊。初輯(しょしゅう)は1829年(文政12)、2輯は30年、3輯は32年(天保3)に大坂屋半蔵と丁字屋(ちょうじや)平兵衛から刊行され、続編『新局玉石童子訓(しんきょくぎょくせきどうじくん)』は、初帙(しょちつ)、2帙が1845年(弘化2)、3帙、4帙が46年、5帙が47年、6帙が48年に丁字屋平兵衛から刊行されたが未完に終わる。正史に著名な厳島(いつくしま)合戦に取材し、主君大内義隆(よしたか)を弑(しい)し毛利元就(もうりもとなり)に滅ぼされた陶晴賢(すえはるかた)を、阿夏(おなつ)と陶瀬十郎との道ならぬ子末朱之介晴賢(すえあけのすけはるかた)とし、毛利元就を大江杜四郎成勝(もりしろうなりかつ)としてこれに配し、悪と善の2少年の伝をたてた。中国清(しん)代の白話(はくわ)小説『檮杌間評(とうごつかんびょう)』に構想を借り、人情と悪の描写に精彩を放っている。
[徳田 武]
『『近世説美少年録』上下(1917・有朋堂文庫)』
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