透過係数(読み)トウカケイスウ

化学辞典 第2版 「透過係数」の解説

透過係数
トウカケイスウ
permeability coefficient, transmission coefficient

】permeability coefficient.膜を透過する気体の流速は次式で定義される.

JD・Δp/l

ここで,Jは透過する流速 mol s(m2 s)-1,Δpは膜の両側の圧力差 Pa,lは膜厚 m,Dが透過係数である.それゆえ,透過係数の単位は mol m(s m2 Pa)-1 になるが,溶液のときは圧力差のかわりに溶質濃度差が用いられる.工業的には種々の実用単位が用いられている.【】transmission coefficient.遷移状態理論反応速度を評価するときの補正係数.遷移状態理論では反応速度を活性錯体の濃度と,代表点がポテンシャルエネルギー曲面の活性点を通過する頻度の積として表すが,トンネル効果による頻度の増加や曲面の屈曲による反射のための減少などが考慮されていない.透過係数κはこれらに対する補正係数である.反応速度の実際の計算ではκ=1とおかれることが多い.粒子が一次元のポテンシャル障壁を通過するときのトンネル効果の計算は,種々の形の障壁について行われているが,放物線型の障壁についてはE.P. Wignerが1932年に計算しており,次式が提出されている.

ここで,νt は障壁の形によって定まる虚の振動数hプランク定数kボルツマン定数Tは絶対温度である.遷移状態理論の透過係数としてこの値がときおり使われているが,水素原子などの軽い原子やイオン移動が律速になる反応では,透過係数が室温においても1よりも大きいことが示され,遷移状態理論の見直しが行われはじめている.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

法則の辞典 「透過係数」の解説

透過係数【coefficient of permeability】

(1) 半透膜による透析の速度の指標となる係数.溶質が半透膜を通過して除かれていくとき,諸濃度 C0 が,時間とともに Ct まで減少する過程は,多くの場合には時間 t関数として

CtC0 exp (-kt

で近似できるが,この k を透過係数という.

(2) 地層多孔質岩石の単位断面積当たり単位時間に水(地下水)が通過する量は,断面に直角方向の水頭勾配に比例するが,この比例係数を「透過係数」または「透水度係数*」という.同じように多孔質の濾材流体が通過する(加圧濾過)ときの同様な値を透過係数という.

透過係数【transmission coefficient】

(1) 核反応において,ポテンシャル障壁を通り抜けて原子核内に侵入する粒子の数 n入射粒子数 N に対する比.

(2) 透過率に同じ.光や粒子が物質を透過する割合.

(3) 化学反応速度論において,遷移状態理論より反応速度を求める際の補正係数.原型と生成系との間のポテンシャル障壁を越える実際の粒子数と理論的な数との比である.

(4) 通信回線において,特性の異なる2種類の線路を接続したとき,接続点で一部の信号は反射されて先へ進まない.そこで接続点に入射した信号と,透過した信号の比(強度比)をとって,これを透過係数という.

出典 朝倉書店法則の辞典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「透過係数」の意味・わかりやすい解説

透過係数
とうかけいすう
transmission coefficient; transmission factor

(1) 化学反応速度を絶対反応速度論により求める際の補正係数。すなわちポテンシャル障壁を越えて活性錯化合物がすべて生成系に移るとはかぎらないので,実際に生成系に移る確率を考慮した係数。
(2) 透過率ともいう。粒子線または波が物質層やポテンシャル障壁に入射したときの透過強度と入射強度の比をいう。

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