オージェ効果(読み)オージェコウカ(その他表記)Auger effect

デジタル大辞泉 「オージェ効果」の意味・読み・例文・類語

オージェ‐こうか〔‐カウクワ〕【オージェ効果】

Auger effect電離現象一つ電子捕獲内部転換によって励起した原子もと基底状態遷移するとき、余ったエネルギーX線などの電磁波として放出するかわりに、原子内の電子に与えて外部に電子を放出する。1925年、フランスの化学者P=V=オージェ発見

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「オージェ効果」の意味・わかりやすい解説

オージェ効果
おーじぇこうか
Auger effect

電子線やX線を当てることによって原子の内殻に孔(あな)をつくると、外殻の電子がそこへ落ち込んで、余ったエネルギーを使ってもう1個の外殻電子を原子から放出させることがある。この現象は1920年代初頭にフランスの物理学者オージェPierre Victor Auger(1899―1993)およびオーストリア出身の物理学者L・マイトナーによってそれぞれ独立に発見されたが、原子物理学的な見地から現象を観測、説明した前者にちなんでオージェ効果、オージェ遷移などとよばれる。内殻にできた孔を外殻の電子が埋める過程としては、このほか、余ったエネルギーを電磁波の形で放射する現象があり、特性(固有)X線放射とよばれる。一般に原子番号の大きい元素では、特性X線放射のおこる確率のほうがオージェ効果のおこる確率より大きいが、原子番号の小さい元素では、オージェ効果のおこる確率のほうが大きい。

 オージェ効果の種類は、始めの孔の殻記号と終わりに生ずる2個の孔の殻記号を並べて書き表す。たとえば、始めK殻に孔ができ、オージェ遷移ののちL1殻とL2殻に孔のある状態が残ったとすると、これをKL1L2オージェ過程とよぶ。オージェ効果により放出される電子はオージェ電子とよばれ、この運動エネルギーは、始状態と終状態のエネルギーの差により決まる一定の値をもつ。電子衝撃によるオージェ電子のエネルギースペクトルは元素の種類によりほぼ定まるので、元素分析の手段としても応用されている。この手段を用いた分析法をオージェ電子分光法といい、特性X線分析法と並んで金属材料表面の元素分析に広く応用されている。

 ちなみに、オージェは第二次世界大戦中ナチス・ドイツによる祖国フランスの占領に対する抵抗運動を続け、大戦後CERN(セルン)(ヨーロッパ原子核研究機構)の創設(1954)に指導的な貢献をした科学行政の指導者としても知られている。

[鈴木 洋・中村信行 2015年3月19日]

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改訂新版 世界大百科事典 「オージェ効果」の意味・わかりやすい解説

オージェ効果 (オージェこうか)
Auger effect

原子の基底状態では詰まっている内殻の電子が,励起状態において何らかの原因で抜けていることがある。このとき励起状態にある原子が再び基底状態に戻る過程には二つある。一つは浅い準位にある電子がこの内殻の空席に落ちるとともにエネルギー差分をX線として放出する過程であり,もう一つは,このエネルギー差分をさらに別の電子に与え,その電子を原子外に放出する過程である。後者の現象をオージェ効果と呼び,この効果で原子外に飛び出す電子をオージェ電子という。この現象は,1925年にフランスのオージェPierre Augerによって,アルゴンで見いだされた。内殻準位Sの結合エネルギーES,浅い準位Tの結合エネルギーをETとし,このエネルギー差ESETが,結合エネルギーEUの準位Uにある電子をオージェ電子として原子外に飛び出させるのに使われるとすると,オージェ電子がもつ運動エネルギーTは,TESETEUと表される。オージェ過程で原子外に飛び出す電子のエネルギーは,ほぼ原子の種類によって一定になるので,オージェ電子のエネルギー分布を調べることにより,元素分析を行うことができる。これを利用したのがオージェ電子分光である。オージェ電子分光では,超高真空装置内に入れた試料に3~10keVの電子ビームを当て,試料内の原子の内殻の電子をはじき飛ばした結果,オージェ過程により飛び出てくる電子のエネルギー分析を行って,元素分析を行う。他の分析法と大きく異なる点は,試料外に飛び出てくるオージェ電子は,試料表面のわずか0.5~1nmという浅い部分のみから出てくるので,試料表面のきわめて薄い部分の元素組成を知ることができることである。またアルゴンイオンビームによって試料を少しずつ削りながら,オージェ電子分光を行うことにより,深さ方向の組成分布を調べることも,広く行われている。
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化学辞典 第2版 「オージェ効果」の解説

オージェ効果
オージェコウカ
Auger effect

原子の内殻電子が外部から入射した光子や荷電粒子との相互作用により放出されるか,あるいは原子核からのγ線による内部転換により放出されるとき,内殻電離とよばれる過程が起こり,原子は一種の励起状態になる.その励起状態は,より外殻の電子の内殻空孔への遷移により基底状態に移るが,そのとき光子が放出される場合が特性X線放出であり,光子のかわりに,同じ大きさのエネルギーを外殻電子がもらって放出される場合のことをオージェ効果という.特性X線放出過程とオージェ過程は競争過程であり,高原子番号の原子では特性X線過程が,低原子番号原子ではオージェ過程が主成分となる.P. Augerが1925年,ウィルソン霧箱を使ってアルゴン原子についてはじめてこの過程を発見した.オージェ効果は,その後,原子だけでなく,固体中や固体と原子との間でも起こることがわかってきて,最近では電子線,X線衝撃によるオージェ電子のエネルギースペクトルを測定して分子や固体表面状態の物性を研究する重要な分析機器が開発され,その分野はオージェ電子分光とよばれている.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「オージェ効果」の意味・わかりやすい解説

オージェ効果
オージェこうか
Auger effect

電子線照射,X線照射,放射性核種における軌道電子捕獲などによって,原子内殻 (原子核に近い電子軌道) の電子が失われるとき,その空孔を外側の殻の電子が埋めて両殻の結合エネルギーの差を光子として放出する場合 (特性X線放射) と,原子内光電効果によって他の軌道電子を放出する場合とがある。後者の現象をオージェ効果,放出電子をオージェ電子という。 1925年 P.オージェが霧箱で発見した。オージェ電子の運動エネルギーは元素に固有な値をもち,これを測定して特に軽元素の元素分析に利用される。

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法則の辞典 「オージェ効果」の解説

オージェ効果【Auger effect】

原子核の軌道電子捕獲,あるいは外部からのX線や粒子線の照射の結果,内殻に空孔が生じたとき,外の殻にある電子がこの空孔へと遷移して空孔を埋め,そのときに放出されるエネルギーを外殻の他の電子に与えて放出する.この現象をいう.1923年にフランスのオージェ(P. Auger)がはじめて観測したのでこの名がある.なお彼の姓は第二音節にアクセントがあるので「オジェー」のほうが原発音に近いはずであるが,わが国では以前から「オージェ」と呼びならわしている.

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