餌香市(読み)えかのいち

精選版 日本国語大辞典 「餌香市」の意味・読み・例文・類語

えか‐の‐いちゑか‥【餌香市】

  1. 〘 名詞 〙 古代河内国で開かれていた市の一つ大和川石川(衛我川)の合流点に位置し、宝亀元年(七七〇)に市司(いちのつかさ)がおかれたという。現在の大阪府藤井寺市国府にあたる。会賀市。
    1. [初出の実例]「天皇歯田根命をして資財(たからもの)を露(あからさま)に餌香(ヱカ)の市(いち)の辺(へ)の橘本の土(ところ)に置く」(出典日本書紀(720)雄略一三年三月(前田本訓))

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百科事典マイペディア 「餌香市」の意味・わかりやすい解説

餌香市【えがのいち】

河内(かわち)を流れる餌香川(現在の石川)左岸にあった古代の市。所在地は確定できないが,現大阪府藤井寺市の国府(こう)とする説が有力。国府は石川の舟運のほか東西に大津道(のちの長尾街道),南北に東高野(こうや)街道が通る要所で,河内国府(国衙(こくが))が置かれていた。《日本書紀雄略天皇13年3月条に〈天皇,歯田根命をして,資財を露に餌香市辺の橘の本の土に置かしむ〉,顕宗天皇即位前紀に〈旨酒餌香の市に直以て買はぬ〉とみえ,770年には由義(ゆげ)宮造営に関連して〈会賀市司〉が任命されている。餌香は会賀のほか恵賀,恵我,衛我とも書かれ,雄略13年物部氏に与えられた〈長野邑〉を含み,現大阪府松原市の東部から羽曳野(はびきの)市の北端にかけての地域をよんだと推定される。一帯は古来渡来人の集住地であり,ミサンザイ古墳仲哀天皇陵),市野山古墳允恭天皇陵),誉田御廟山(こんだごびょうやま)古墳応神天皇陵)などがある。平安時代後期には後院領〈会賀牧〉〈会賀庄〉が成立していた。

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改訂新版 世界大百科事典 「餌香市」の意味・わかりやすい解説

餌香市 (えがのいち)

日本古代の市の一つ。会賀,恵我とも記される。応神陵など恵我を冠する陵名や現存地名からみて,古くは藤井寺市~羽曳野市北部一帯を広く〈恵我〉と称したと考えられる。餌香市はこの地域に所在したことは明らかであるが,より具体的には大津道丹比(たじひ)道の石川渡河点付近,すなわち現在の藤井寺市国府付近と羽曳野市古市付近の2ヵ所が考えられるが,にわかに決めがたい。《日本書紀》顕宗即位前紀の新室寿(にいむろほぎ)の詞章〈旨酒(うまさけ)餌香の市〉を,《釈日本紀》が高麗人(こまびと)が餌香市に来住して良酒を醸造したと注しているのは,この地域が古来渡来人の集住地であったことと関係する。また雄略13年3月条に,天皇が歯田根命(はたねのみこと)の贖罪のための資財を〈餌香市辺の橘の本〉に置かしめたとある。文字どおりとすると,海柘榴市(つばいち)の椿,阿斗桑市(あとのくわのいち)の桑とともにこの市にも橘が植えられていたことになる。770年(宝亀1)会賀市司の官人が任じられたが,これは前年,由義宮(ゆげのみや)を西京としたのに伴い,その東西市として位置づけた結果であろう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「餌香市」の意味・わかりやすい解説

餌香市
えがのいち

日本古代の市。『日本書紀』雄略(ゆうりゃく)天皇13年3月条に「餌香の市辺の橘(たちばな)の本(もと)」とあるので、海柘榴市(つばいち)の椿(つばき)、阿斗(あとの)桑市(くわのいち)の桑のごとく、橘の木が植えられていたのであろう。その所在地は、大阪府の藤井寺市、羽曳野(はびきの)市北部の古名「恵我(えが)」からみて、その範囲内にあたり、藤井寺市国府(こう)付近もしくは羽曳野市古市(ふるいち)付近が考えられる。770年(宝亀1)「会賀市司(えがのいちのつかさ)」が任命されたが、これは、前年に由義宮(ゆげのみや)(八尾市)を西京(さいきょう)としたのに伴い、餌香市を平城京の東西市(とうざいいち)に相当せしめたため、東西市の市司にあたるものとして置かれたのであろう。

[栄原永遠男]

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世界大百科事典(旧版)内の餌香市の言及

【市】より

…しかし,20世紀になると,新しい店舗が主要街路に沿ってつくられ,その比重が低下した。ギルド商人職人都市広場【坂本 勉】
【日本】

[古代]
 《日本書紀》《万葉集》などには,8世紀以前の市として〈餌香市(えがのいち)〉〈阿斗桑市(あとくわのいち)〉〈海柘榴市(つばいち)〉〈軽市(かるのいち)〉などがみえる。このうち〈海柘榴市〉は上ッ道,山辺道と横大路の交点付近に,〈軽市〉は下ッ道と山田~雷~丈六の道との交点付近など主要交通路の結節点に位置し,飛鳥の倭京の北東と南西にあって,これと密接な関係にあったらしい。…

※「餌香市」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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