中国,新疆ウイグル自治区の東部天山山脈南麓を占めるトゥルファン地方を中国が名づけた地名ないし国名。《漢書》に〈高昌壁〉として初現し,漢は戊己校尉(ぼきこうい)を置いて車師前国に勢力を及ぼした匈奴をおさえた。327年(建興15)前涼が高昌郡を置き,その後西涼,北涼も勢力範囲とした。柔然が北涼の残余政権を滅ぼすと,闞伯周(かんはくしゆう)を高昌王とし,ついで張・馬・麴(きく)姓の漢人が王を称した。麴氏は498-640年に麴氏高昌国を建て,西突厥(とつくつ)が天山北方に勃興すると姻戚関係を結び,一方,北周・隋とも連和した。640年(貞観14,高昌延寿17)唐は麴氏を滅ぼして西州都督府を置いた。9世紀中葉以後ウイグルがトゥルファンを制圧してボグドオーラ南北にまたがるウイグル王国(西州回鶻(かいこつ),高昌回鶻)を建てた。この時代には,本来おもにマニ教徒だったウイグル人は在来の漢人・アーリヤ系仏教徒と混交し急速に仏教徒化し,ウイグル新文字による東西典籍の翻訳など特異な文化国家を現出した。12世紀にはカラ・キタイ(西遼)の制圧下に苦しんだが,13世紀初頭,新興モンゴルに通じて保護国となり,王家はチンギス・ハーン家の駙馬家となった。同国出身者はその先進性を生かし,膨張期のモンゴル帝国の文化・行政・経済に活躍,モンゴル人に次ぐ準支配層として世界帝国を内側から支えた。1270~80年代以降フビライ派とハイドゥ派の軍事対立に巻き込まれ,同地方は両属の形をとり,緩衝地帯となって生き延びた。通説は王家が甘粛永昌に完全後退したというが,残留した可能性が濃い。15世紀には東進したチャガタイ系モグーリスターン・ハーン国の根拠地となり,その支配下でしだいにイスラム化するとともに,高昌城も1520年ごろを境に文献から姿を隠し,やや西方のトゥルファン(吐魯番)に中心が移り,現在に及ぶ。
車師前国は交河城に都したが(交河古城址),前涼以後の治所は,今日カラホージョと呼ばれる吐魯番県東方約50kmの都城址にあてられている(高昌古城址)。都城址は東西・南北とも1.5kmほどの規模をもち,内城,外城,その他に城壁で区分されている。内城は1辺約1kmの,南壁が外湾した方形を呈し,これを中に包んで外城がある。外城南東・南西に仏寺址があり,後者は多層龕(がん)を付けた塔を中心にする大寺院。現況の各城壁や建築地が上の歴史に照らし,どの時期のものか比定は困難であるが,内城中央で北涼の沮渠(そきよ)安周造寺功徳碑やマニ教壁画,ウイグル文仏典が出土している。都城外側にある墓地は,北東方のカラホージョ村以東,北西のアスターナ村以北,南東方の3区に墳丘を伴って営造され,数基ないし数十基を垣で囲む同姓の墓園から成り,その一部は1915年にスタインによって発掘され,1959-75年には晋代から唐代に至る400基が発掘された。墓誌,紙本・絹本の絵画,俑(よう),錦綾,鞋靴(あいか),衣物疏,地券,功徳録,契約文書,紙棺,枕衾(ちんきん),冠帯などが出土し,またビザンティン帝国やササン朝ペルシアの金・銀貨が,遺体の口に含ませたり,両眼を覆う含銭・覆眼といった独特の風習に使われて出土した。カラホージョ周辺ではムルトゥク,ベゼクリク石窟,東にトユク石窟など石窟寺院も歴代に造営された。
執筆者:桑山 正進
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中国、新疆(しんきょう/シンチヤン)ウイグル自治区、トゥルファン盆地に栄えたオアシス国家。且渠(そきょ)氏より麹(きく)氏に至る5王朝の漢人王国(442~640)と、ウイグル人が支配者であった王国(西ウイグル国、9~13世紀)とがある。前者は突厥(とっけつ)などの遊牧勢力下に国を維持しつつも入植漢人がこの王国の指導権を握り、政治、社会諸制度の基幹に中国のそれを導入して漢文化とイラン風文化などが混有する特異な文化圏を形成した。カラ・ホージョは当時の都城址(し)。アスターナなどの古墳群も当時の漢人官僚の墓区で、そこからは大量の漢文文書、墓誌を出土している。後者は遊牧ウイグル帝国の崩壊後その遺民が建国したもので、高昌回鶻(こうしょうウイグル)、阿厮蘭回鶻(アルスランウイグル)などともよばれ、トルコ人が中央アジアに定着化する端緒を開いた。ベゼクリク千仏洞の仏教芸術などに高度な文化がうかがえる。
[白須浄眞]
『山田信夫著「トルキスタンの成立」(『岩波講座 世界歴史6 古代6』所収・1971・岩波書店)』
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