百済寺(読み)くだらでら

精選版 日本国語大辞典 「百済寺」の意味・読み・例文・類語

くだら‐でら【百済寺】

  1. [ 一 ] 奈良県北葛城郡広陵町にある高野山真言宗の寺。弘仁一四年(八二三)空海が大安寺百済大寺)をしのび、その跡に建てたもの。その後廃し、鎌倉時代の三重塔だけが残る。
  2. [ 二 ] 滋賀県東近江市百済寺町にある天台宗の寺。山号釈迦山。聖徳太子により創建され、百済から来た恵聰、道欣らの僧が住んだと伝えられる。現在の堂塔は江戸時代のもの。ひゃくさいじ。久多良寺。
  3. [ 三 ] 大阪府枚方市中宮西之町にあった寺。百済王氏の氏寺といわれる。薬師寺式伽藍配置の堂塔の跡が残り、出土瓦も奈良時代のもの。国特別史跡。
  4. [ 四 ] 中世、銘酒と評された近江国百済寺の酒。百済。
    1. [初出の実例]「東洞院殿鯉一・百済寺一桶・壁一折給之」(出典:実隆公記‐大永八年(1528)五月九日)

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日本歴史地名大系 「百済寺」の解説

百済寺
ひやくさいじ

[現在地名]愛東町百済寺

湖東三山の一つで、三山の南端に位置する。釈迦山と号し、天台宗。本尊十一面観音。

〈近江・若狭・越前寺院神社大事典〉

〔創建〕

寺伝によれば、推古天皇一四年聖徳太子によって創建されたという。室町時代の勧進帳序文(百済寺文書)に「模龍雲之梵閣於三十三朝、以高麗恵慈為呪願、命道欣設供養」とあり、太子は百済国龍雲寺に模して堂を建て、高麗僧恵慈をもって呪願とし、百済僧道欣を導師として供養をしたとある。百済寺はその寺号のとおり百済くだらの人々との密接な関係を想起させる。

〔天台寺院化〕

平安時代には他の二山と同様に天台仏教文化圏に包含されるようになった。幾多の兵火をくぐり抜けた平安時代の本尊十一面観音立像がそれを示している。建暦三年(一二一三)二月日の慈鎮所領譲状案(華頂要略)に寺名がみえ、慈鎮は青蓮院門跡相伝所領の延暦寺の三塔の一つ無動むどう寺末寺である当寺などを西山宮(朝仁親王)に譲っている。これよりさき寿永二年(一一八三)上洛の途上蒲生がもう野に陣を休めた木曾義仲より兵糧米を求められ、五〇〇石を送ったので押立おしたて五郷(現滋賀県湖東町)を寄進されたという(「源平盛衰記」巻三〇木曾山門牒状事)。天福元年(一二三三)法性ほつしよう(現京都市東山区)座主慈賢が世事をいとい、逐電して当寺に居住しているが、そこは花樹を植え水・石を配した庭園のある景勝の地という(「明月記」同年二月一七日条)。翌二年八月前天台座主良快(九条兼実の子、慈鎮の甥)は無動寺領である当寺を慈源(九条道家の子)に譲っている(「慈源所領注文」華頂要略)


百済寺
くだらでら

[現在地名]広陵町大字百済

百済の二条にじよう垣内の北に位置する。春日若宮神社境内に三重塔がある。梵字池を中にして東に大職冠たいしよくかんとよばれる本堂があり、社務所となっている中之坊なかのぼうを残すだけである。高野山真言宗。本尊十一面観音。寺伝では、舒明天皇一一年、聖徳太子建立の熊凝精舎くまごりのしようじや由緒を継いで百済川河畔に創建された百済大寺といわれるが、創建・沿革についてはつまびらかでない。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「百済寺」の意味・わかりやすい解説

百済寺(奈良県)
くだらでら

奈良県北葛城(きたかつらぎ)郡広陵(こうりょう)町百済にある寺。高野山(こうやさん)真言宗に属する。本尊十一面観音。617年(推古天皇25)聖徳太子は熊凝(くまごり)村に熊凝精舎(しょうじゃ)を建て、田村皇子(後の舒明(じょめい)天皇)に将来大寺にするよう希望し託した。639年(舒明天皇11)勅命により百済川畔に移し、百済大寺と称し、九重塔を建て、封300戸、良田20丁を施入した。673年(天武天皇2)高市(たかいち)郡に移し、高市大寺、大官(だいかん)大寺と称し、さらに平城遷都(710)とともに奈良へ移され、大安寺(だいあんじ)(奈良市大安寺町)となった。一方、百済の地には823年(弘仁14)空海が三重塔と6坊を建て、百済寺と称した。鎌倉時代に源頼朝(よりとも)、熊谷直実(くまがいなおざね)に修理せしめたが、数度の火災で衰えた。三重塔は国の重要文化財。本堂には平安後期の聖観音、十一面観音像などを安置する。4月15日に練供養(ねりくよう)を行う。

[田村晃祐]


百済寺(滋賀県)
ひゃくさいじ

滋賀県東近江(おうみ)市百済寺町にある天台宗の寺。山号釈迦山(しゃかざん)。久多良(くだら)寺ともいい、湖東三山の一つ。本尊は十一面観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)。推古(すいこ)天皇時代、百済(くだら)からの移住者が山麓(さんろく)に住し、聖徳太子が百済僧道欣(どうきん)、観勒(かんろく)、高句麗(こうくり)僧恵慈(えじ)などのために建立したと伝える。中世、僧兵を擁し、多くの塔頭(たっちゅう)を構え、勢威を振るったが、1573年(天正1)近江(おうみ)守護大名六角氏を後援したため、織田信長に焼き尽くされた。のち豊臣(とよとみ)秀吉、徳川氏、井伊氏により復興され、1650年(慶安3)本堂、仁王門、山門が建立された。絹本著色日吉山王(ひえさんのう)神像(鎌倉時代)、紺紙金泥妙法蓮華経(みょうほうれんげきょう)、金銅唐草文磬(けい)(平安時代)、銅鑼(どら)、鈸子(はっす)など国の重要文化財がある。本坊喜見院(きみいん)庭園は池泉回遊かつ観賞式庭園。

[田村晃祐]


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百科事典マイペディア 「百済寺」の意味・わかりやすい解説

百済寺【ひゃくさいじ】

滋賀県愛東(あいとう)町(現・東近江市)にある天台宗の寺。〈くだらでら〉とも。本尊十一面観音聖徳太子の創建,百済(くだら)僧道欣(どうごん)が導師に招かれたといい,百済人の関与が想起される古刹。鎌倉期〜戦国期には多数の僧兵を要していた。1492年足利義材(よしき)に焼かれ,1503年にも兵火で本尊を除き,寺中僧坊・古記録類など全てを焼失。1573年には城砦化していた当寺を織田信長(おだのぶなが)に焼かれた。その後徳川家康から寺領を寄進され,1652年に現本堂ほかが再建された。絹本着色日吉山王神像ほか重要文化財も多い。

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改訂新版 世界大百科事典 「百済寺」の意味・わかりやすい解説

百済寺 (くだらでら)

滋賀県東近江市の旧愛東町にある天台宗の寺。山号は釈迦山。〈ひゃくさいじ〉とも呼ぶ。聖徳太子の創建で,本堂に安置する観音は太子の作と伝える。百済の僧慧聡,道欣,観勒などが住したので,いまの寺名が付いたとされる。木曾義仲が近江に兵を進めたとき,兵糧を出して寺領を寄進されたという。1573年(天正1)織田信長の兵火にかかったが,徳川家康は寺領を寄進し,のち明正天皇の命で,1650年(慶安3)までに復興した。
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デジタル大辞泉プラス 「百済寺」の解説

百済(ひゃくさい)寺

滋賀県東近江市にある天台宗の寺院。山号は釈迦山。聖徳太子が百済の僧のために建立したと伝わり、久多良寺(くだらでら)ともする。本尊は十一面観世音菩薩。本堂は国の重要文化財、境内は国の史跡に指定。

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事典・日本の観光資源 「百済寺」の解説

百済寺

(滋賀県東近江市)
湖国百選 社/寺編」指定の観光名所。

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世界大百科事典(旧版)内の百済寺の言及

【大阪[市]】より

…大阪府中央部にある府庁所在地。近畿地方のほぼ中央を占める大阪平野にあって,淀川河口の大阪湾岸に位置する。大阪の〈阪〉の字は,江戸時代まで坂を使うのが一般的であったが,明治以後阪に統一された。日本では東京に次ぐ経済力をもつ大都市で,西日本の地域経済活動の中枢をなし,大都市圏は大阪府下をはるかにこえて広がり,京都,神戸の都市圏と複合している。24の行政区からなり,市域の面積は212km2,人口260万2421(1995)。…

【枚方[市]】より

…かつて東洋一といわれた公団の香里(こうり)団地などの大規模な住宅建設に続いて,鉄道沿線を中心に住宅地化が進み人口増加が著しい。市域には渡来人の氏寺といわれる百済(くだら)寺跡(特史)や片埜(かたの)神社,交野(かたの)天神社などがある。【秋山 道雄】
[牧方宿]
 近世には牧方と書くことが多い。…

【百済寺】より

…滋賀県愛知郡愛東町にある天台宗の寺。山号は釈迦山。〈ひゃくさいじ〉ともよぶ。聖徳太子の創建で,本堂に安置する観音は太子の作と伝える。百済の僧慧聡,道欣,観勒などが住したので,いまの寺名が付いたとされる。木曾義仲が近江に兵を進めたとき,兵糧を出して寺領を寄進されたという。1573年(天正1)織田信長の兵火にかかったが,徳川家康は寺領を寄進し,のち明正天皇の命で,1650年(慶安3)までに復興した。【菊地 勇次郎】…

※「百済寺」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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