緊張(読み)キンチョウ(英語表記)tension

翻訳|tension

デジタル大辞泉 「緊張」の意味・読み・例文・類語

きん‐ちょう〔‐チヤウ〕【緊張】

[名](スル)
心やからだが引き締まること。慣れない物事などに直面して、心が張りつめてからだがかたくなること。「緊張をほぐす」「緊張した面もち」
相互の関係が悪くなり、争いの起こりそうな状態であること。「緊張が高まる」「緊張する国際情勢」
生理学で、筋肉やけん一定の収縮状態を持続していること。
心理学で、ある行動への準備や、これから起こる現象・状況などを待ち受ける心の状態。
[類語]張り詰める引き締まる気を張る箍を締める襟を正すテンション

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精選版 日本国語大辞典 「緊張」の意味・読み・例文・類語

きん‐ちょう ‥チャウ【緊張】

〘名〙
① 心やからだなどがゆるみなくひきしまること。多く、失敗を恐れたりして心をはりつめ、からだをかたくすることをいう。
※百物語(1911)〈森鴎外〉「どの顔を見ても、〈略〉緊張(キンチャウ)した表情をしてゐるものはない」
両者間柄が悪くなり、いまにも、争いが起こりそうな様子。「国際間の緊張が強まる」
③ 生理学で、筋肉や腱(けん)が一定の張力または短縮の状態にあること。強直と異なり疲労は少ない。トーヌス。筋緊張。〔医語類聚(1872)〕
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉九「此位皮膚が緊張するとあばたも眼につかん」
④ 心理学で、ある行動への準備、または、これから起こる現象、状況などを待ちうける特殊な感情状態。衝突への潜在的意識傾向
※あそび(1910)〈森鴎外〉「ヘルマン・バアルが旧い文芸の覗ひ処としてゐる、急劇で、豊富で、変化のある行為の緊張なんといふものと、差別はないではないか」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「緊張」の意味・わかりやすい解説

緊張
きんちょう
tension

心理学用語。元来、力学や生理学で用いられていた緊張という概念を、心理学の用語として用いることを始めたのは、ジャネフロイトなど、人間の心理的機能や意識を力動的に把握しようとする医学・心理学者たちで、ほぼ20世紀の初頭のことである。同じころ正統的な心理学の世界でも、ブントは、生理的緊張に伴う緊張感覚や、感情を構成する次元の一つとして、「緊張―弛緩(しかん)」の軸について記述している。1920年代にドイツに勃興(ぼっこう)し一世を風靡(ふうび)したゲシュタルト心理学の諸理論のなかで、レビンは、前述のフロイトの力動的パーソナリティー理論の影響を受けたと思われるパーソナリティーの力学説を展開した。以下レビンの学説のなかで、緊張という用語がどのように用いられているかを説明する。

[細木照敏]

レビンの説

レビンは個体の行動を、個体内に生じる欲求と、環境内にあってこれらの欲求の目標となる誘因との間に成立する心的力のベクトルの力動的合成として表現することを試みた。つまり、個体のなかになんらかの欲求があり、環境の側にそれに対応する誘因があるとき、その個体を含む心理的な場に力学的不均衡が生じ、そこから均衡を回復しようとする傾向が生じる。これが緊張であり、このような力の場を緊張体系という。緊張は、行動が解発され欲求が充足されれば解消するが、もしそれが障壁のため阻止されれば、いつまでも体系内に残存して欲求不満状態(フラストレーション)を発生する。慢性的なフラストレーションは白昼夢などの代償や、怒り、攻撃などの情動暴発など、なんらかの病理的行動に陥ることが多い。

 以上がレビンによる緊張の説明であるが、このような構成概念としての緊張と、われわれが日常常識的なレベルで用いる緊張との間には多少の隔たりがある。

[細木照敏]

一般的な意味

われわれは、公衆の面前で話をする際の緊張、長上や権威のある人と面接する際の緊張、さらには選抜試験受験の際の緊張などを口にする。これらの緊張ないし緊張感は複雑な感情の合成体で、かならずしも画一的に論じることは無理であるが、共通する因子として、成功・失敗に関する強い自意識、周囲の人々のまなざしに対する過敏なとらわれ、それに不安感などが複雑に絡み合った感情コンプレックスが考えられる。性格類型的には、完全癖が強く、一方では自分のすることに自信がもてない「自己不確実性格者」は、このような緊張感をもちやすいといわれている。

 社会心理学においては緊張を衝突への傾向としてとらえている。それが高まることにより、家族、種族、国家、体制などの内部や相互の間に有害な結果が発生するので、緊張解消のための早期の介入が必要である。

[細木照敏]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「緊張」の意味・わかりやすい解説

緊張
きんちょう
tension

(1) 筋が伸長し続けている状態ないしそれに伴う感覚 (緊張感覚) のこと。 (2) 弛緩とは反対に,張りつめて注意を集中している際の感情状態の一つ。 W.ブントは快・不快,興奮・鎮静とともにこの緊張・弛緩を感情の主要な次元と考えた (→感情の三方向説 ) 。 (3) さらに注意や意志などにより,行動に統一性をもたせながら選択や判断を行う精神活動を可能にさせる心的な働き。 P.M.F.ジャネはこれを心理学的緊張 tension psychologiqueと呼んだ。 (4) K.レビンの行動的,力学的な心理学説における基本概念の一つ (→緊張体系 ) 。 (5) 敵対的な情緒を容易に生じさせ,かつ友好的な協調関係が困難な対人関係ないし集団間の関係を,特に社会的緊張と呼ぶ。

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普及版 字通 「緊張」の読み・字形・画数・意味

【緊張】きんちよう

緊迫。

字通「緊」の項目を見る

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