脳を含めた身体臓器の構造や機能が障害されたとき、その状態を疾病(病気illness)とか疾患(disease)、あるいは障害(disorder)ということばで表現する。疾患ということばは、原因、症状、経過や予後、ならびにそれに相当する病理的所見などから、ひとまとめの疾病概念として用いられる。それに対し、障害とは、原因にかかわらずその働きが障害されて症状が出現している状態を述べる広い概念である。
したがって、精神障害とは、さまざまな原因により精神の正常な働きが障害され、そのためにいろいろの精神症状や行動の異常が出現したり、本人が苦痛を覚える場合を総称していうことばである。
精神活動は脳の働きによって保たれているので、脳の構造的、機能的障害がおこると、その結果として精神障害が出現する。たとえば加齢に伴う脳の老化や脳の血管の異常、脳の外傷、脳腫瘍(しゅよう)などによって脳が侵されると、その結果として、記憶の障害、判断の誤り、感情の障害、ときには幻覚や妄想の出現といった、さまざまな精神機能の障害が生ずる。このほかにもアルコール、大麻(たいま)、アヘンといった脳の刺激物質や、ときには治療に用いる薬物など、体の外部からの物質によって、あるいは腎臓(じんぞう)疾患、肝疾患、内分泌疾患などで体内に有害物質が増えて、その結果、脳の機能が障害されて、精神障害が出現することもある。
このほかにも、精神的な困難や過酷な環境の下などで生じた精神的負荷が脳の働きを障害し、その結果として精神障害が出現することもある。また、脳が働く際に重要な役割をしている神経伝達物質の異常によって精神障害が出現することもある。
このように、さまざまな原因によって精神の障害が引き起こされるが、出現する精神症状も多彩である。また、同じ状況に置かれても、人によって精神症状を呈するかどうかが異なることもあり、精神障害の発現には前述したような原因のほかにその人の性格や成育環境、素因なども多因子的に関連していると考えられる。
いずれにせよ、精神障害ということばは精神の機能の障害をすべて含む広い概念であり、ときにはその時代の文化や流れのなかで障害かどうかの判断が異なる場合もある。
[山内俊雄]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…正常ではない病的な精神(心理的)状態をさす一般的な表現。精神医学の対象となる精神の異常状態としては,心理的な原因によるとされる神経症や心因反応,性格の著しい偏りである性格異常,身体的(器質的)原因による精神の障害,薬物依存症や薬物中毒による精神異常,癲癇(てんかん)の精神症状や精神分裂病,躁鬱(そううつ)病,そして老年期および児童期の精神障害や精神遅滞などをあげることができる。精神異常を広義に解釈するならば上記のすべてがこれに含まれることになるが,ふつう精神異常という場合には,成人にみられる明らかな精神病的状態の持続,たとえば精神分裂病にみられるような状態を意味していることが多い。…
…これらが〈精神病〉という総称のもとに体系化されるのは,精神医学がやっと自立の活動をみせる19世紀になってからで,〈精神病Psychose〉の語も1845年にウィーン大学のフォイヒタースレーベンE.von Feuchterslebenがその著《心の医学の教科書》で初めて使ったとされる。この概念は今でも〈精神障害〉と類似の総称として使われるが,狭義には,生まれつきの片よりである精神遅滞と性格異常(異常人格),正常心理から追体験できる各種の神経症(ノイローゼ)などは除外し,ふつうには了解できない異質の精神症状を示し,しかも〈自分は病気だ〉という意識(病識)ないし自己批判力を失っている状態に限定される。 こうした精神病の全体は表に見るとおり原因によって3種に分かれるが,(1)は〈心因性〉,(2)は〈内因性〉,(3)は〈外因性〉と呼ばれることもある。…
※「精神障害」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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