母親の子宮内で十分に成熟しないうちに生まれた乳児をいう。最終月経第1日から数えて第40週(280日)が出産の予定日であるが,それより3週間以上早く(妊娠第37週未満で)生まれた乳児は未熟児とみなされる。ところが出産の予定日がわからなかったり,妊娠期間が不正確なことも多いので,未熟児の目安として生まれたときの体重が使われ,ふつうは出生体重2500g未満のものを未熟児という。このなかには予定日より早く生まれた本当の未熟児のほかに,予定日前後に生まれたのに体重の少ない小柄な児や,子宮内で栄養失調になってしまったやせた児も含まれている。そこで,出生体重2500g未満の乳児は,未熟児という代りに低出生体重児とも呼ばれる。いずれにせよ,生まれたときに体重の少ない児は,育てるのに特別な取扱いが必要である。日本の低出生体重児の頻度は,男児で約6%,女児で約7%である。
未熟児として生まれる原因には,予定日より早く分娩が始まること,および子宮内で胎児の発育が遅れることの2種類が考えられる。早産の原因には,妊娠中の母親の病気(急性熱性疾患,外科手術など)と妊娠の異常(前置胎盤,胎盤早期剝離(はくり),妊娠中毒症,多胎など)がある。しかし,はっきりした原因がないのに早産してしまうことも多い。早産の誘因には,高年または若年の妊娠,妊娠中の栄養不足,不摂生などがある。次に,子宮内で胎児の発育が遅れるのは妊娠中毒症のときに多い。また,胎盤の働きが悪いために胎児に栄養が十分に行かない場合や,母親が妊娠中にタバコをたくさん吸った場合は胎児の発育が遅れる。さらに多胎妊娠のときは早産することも多いし,胎児の発育も劣る。そのほか,胎児自身に奇形や病気があるときも小さく生まれることがある。
未熟児の特徴として次のようなものがあげられる。まず肺がふくらみにくいため,肺でのガス交換は不良であり,呼吸中枢の発達も不十分で,呼吸を止めてしまうことがある。したがって酸素欠乏の状態になりやすい。次に体内での熱産生が少ないうえに,熱喪失が多いので,低体温になりやすい。感染に対する抵抗力も弱いので,感染を受けやすく,感染すると重くなりがちである。乳を吸う力が弱く,吸いついてもすぐ疲れて眠ってしまう。非常に小さい未熟児では,乳を吸うことも飲み込むこともできない。肝臓の働きが不十分なため,黄疸が強くなりやすい。生後1ヵ月前後から貧血になりやすい,などである。
未熟児施設には,保育器を備えた部屋,未熟児用ベッドを置いてある部屋,非常に小さな未熟児や重い病気の児に強力な治療を行う部屋(NICU),感染性の病気にかかった未熟児を治療する隔離室などが設けられている。未熟児施設の温度は25℃前後,湿度は約60%に保たれている。取扱い上,以下の諸点に注意する必要がある。(1)保温 保育器を用いて保温する。体温が36~36.5℃に保たれるように,自動的に保育器の温度が設定される保育器もある。(2)呼吸管理 未熟児は酸素欠乏になりやすく,このときはチアノーゼといって皮膚が紫色になる。酸素不足になるといろいろな障害が起こり,死亡したり,生き延びても脳性麻痺になったりすることがあるので,チアノーゼや呼吸障害のある未熟児には酸素吸入が行われる。動脈血の酸素分圧や,皮膚の毛細管血の酸素分圧を測って,酸素が不足しないように,また多すぎないように注意しながら酸素吸入が行われている(動脈血の酸素分圧が高すぎると未熟児網膜症を併発することがある)。自分で呼吸ができないような小さな未熟児には人工呼吸が行われる。(3)栄養 未熟児にも母乳が最も優れた乳汁であり,母乳で栄養することが望ましい。ただ,非常に小さい未熟児には,母乳栄養ではタンパク質,カルシウム,ナトリウムが不足し,体重増加が悪かったり,骨の発育不良が起こったりする。この場合は母乳に母乳強化用の市販の栄養素粉末を添加したり,未熟児用ミルクと混合栄養にする。自分で乳を飲むことができない場合は,カテーテルを鼻から胃まで入れておいて,注射器で乳を注入する。小さい未熟児は生後数日間乳を与えることができないことが多い。その場合は,ブドウ糖液や食塩水,アミノ酸製剤や脂肪乳剤を静脈内に点滴注入して,栄養と水分を補給する。(4)感染予防 未熟児室に入るときには,ブラシを使って手を洗い,消毒した帽子と白衣をつける。未熟児を取り扱う前と後には必ず手を洗う。衣類,おむつ,シーツなどは完全に消毒したものが使われている。(5)監視 未熟児は病気にかかりやすく,状態が急変しやすいので,絶えず注意深く観察されている。呼吸,心拍,血圧,体温,皮膚の毛細管血の酸素分圧などの自動監視装置も用いられている。
未熟児医療の進歩に基づき,生存率は著しく向上した。主要未熟児施設では,出生体重1500~2000gのものは約90%,1000~1500gのものは約80%,800~1000gのものでさえ約50%は生存させられるようになった。脳性麻痺やてんかん,視力障害などの後遺症も少なくなり,生存児の5%程度にみられるにすぎない。
体の発育には個人差があり,1年くらいで標準に追いつくこともあれば,小学校に入っても小柄な体格のこともある。一般に生まれたときに非常に小さかった児は,なかなか標準に達しないことが多い。知能や運動機能の発育は,生後1~2年は早く生まれた分だけ遅れがみられる。出生予定日から数えた月齢で比較するとほとんど遅れはない。
未熟児が生まれたら,母子健康手帳にとじ込んである出生票に必要な事項を記入し,所轄保健所長に届ける。急ぐときは口頭または電話でもよい。保健所では必要に応じて,保健婦その他の所員を派遣して相談にのってくれる。未熟児の指定医療機関が各地に設けられており,その施設に収容された未熟児には,保護者の収入によって医療費の全額または一部が給付される。
執筆者:奥山 和男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
未熟児とは、胎外生活に適応するだけの成熟度を備えていない新生児という臨床的表現で、ほぼ早産児(在胎37週未満で出生した児)を意味する。古くは出生時体重2500グラム以下(2500グラムも含む)の新生児を未熟児とよんだが、体重が軽くとも成熟している児が含まれてしまうため、現在は、出生時体重2500グラム未満(2500グラムは含まない)を低出生体重児とよぶようになった。また、出生体重1500グラム未満の新生児が極小未熟児、1000グラム未満が超未熟児とよばれているが、同様な理由で、それぞれ極低出生体重児および超低出生体重児とよばれる。
未熟児は自分の体温を保つことができず、低体温になる。呼吸が十分に確立されず、無呼吸や肺拡張不全をおこす。心血管系の循環が胎児循環から新生児循環に適応できず、動脈管開存症などにより心不全になる。独立した代謝系が確立できず、低血糖症や高ビリルビン血症になるなど種々の問題がおこるため、専門の施設で新生児専門医による治療、管理を受ける必要がある。
近年の新生児医療の進歩は目覚ましく、1000~1500グラムの新生児の95%が生存し、さらに、単に生存するばかりでなく予後も良好で、未熟児生存者全体の90%以上は後遺症のない新生児である。
[仁志田博司]
『仁志田博司編『超未熟児――超低出生体重児の管理指針』(1999・メジカルビュー社)』▽『仁志田博司編著『未熟児看護の知識と実際』改訂3版(2003・メディカ出版)』▽『中村肇著『低出生体重児Q&A』(2000・メディカ出版)』▽『山内逸郎著『未熟児』(岩波新書)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報
…妊娠24週未満の児の生存が不可能な出産は流産とし,24週から37週未満を早産preterm delivery,37週から42週未満を正期産term delivery,42週以上を過期産postterm deliveryという。1978年までは出産体重2500g以下を未熟児と呼んでいたが,体重と未熟性とは必ずしも平衡しないことから,出産体重2500g未満を低出産体重児low birth weight infantと呼ぶことになった。平均妊娠期間は,ヒトでは平均280日であるが,動物では表1のとおりである。…
…その後,オハイオ・メディカル社製アームストロング型保育器や,それらをモデルにした国産の保育器が輸入,生産されるようになり,細部の改良が重ねられながら,現在に至っている。
[新生児保護の原則と保育器]
新生児とくに未熟児は,体温調節中枢の未成熟,皮下脂肪の未発達に加えて,容積に比して体表面積が相対的に大きいため,自力での体温調節が十分にできないので,環境温度の影響を受けやすい。そして体温の低下,上昇はともに体力の消耗や疾病の誘発につながる。…
※「未熟児」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新