精選版 日本国語大辞典 「ぞう」の意味・読み・例文・類語
ぞうざう
- 〘 連語 〙 ( 「…に候」の意の「にそう」の変化したもの。一説に、助動詞とも ) …でございます。…です。
- [初出の実例]「その舟漕ぐ櫂のことざうよ」(出典:謡曲・自然居士(1423頃))
- 「御成りぞふと呼はって、襖披かせ立ち出る御大将時政公」(出典:浄瑠璃・源頼家源実朝鎌倉三代記(1781)六)
翻訳|elephant
哺乳(ほにゅう)綱長鼻目ゾウ科に属する動物の総称。この科Elephantidaeの現存する仲間には2属2種がある。
アフリカゾウ属LoxodontaのアフリカゾウL. africanusは、サハラ砂漠以南のアフリカ全域に分布しているが、その分布域は狭められてきている。アフリカゾウL. a. africanus、マルミミゾウL. a. cyclotisの2亜種が知られ、体長6~7.5メートル、体高3.5メートル、体重6.5トンに達する。これまでに知られる最大の個体は、1955年にアンゴラで捕獲されたもので、体高4メートル、体重10トンとされている。牙(きば)は雄で3.58メートルのものも知られている。亜種のうち、アフリカゾウはサバナややぶ地にすむが、マルミミゾウは森林地帯に分布し、前者に比べて体は若干小さい。このほかアフリカ大陸には、ピグミーゾウといわれるさらに小形のゾウの記録がみられるが、個体変異と考えられている。
アジアゾウ属ElephasのアジアゾウE. maximusは、インド、スリランカ、インドシナ半島、マレーシア、インドネシア、中国南部に分布し、4亜種が知られている。体はアフリカゾウに比べてやや小形で、体長5~6.4メートル、体高2.5~3メートル、体重4~5トンほどである。亜種のうちセイロンゾウE. m. maximusはスリランカに分布する。雄の牙は最大2.1メートル、52キログラムの記録があるが、長い牙を有する個体は全体の10%であるのが特徴で、大陸に産するアジアゾウより体は小さい。インドゾウE. m. bengalensisはネパール、アッサム、ベンガル北部、南インドに分布する。雄の多くが牙を有し、最大で3.17メートルのものが知られている。一般にアジアゾウ全体をインドゾウとよぶ場合が多いが、これは正確ではなく、分類学上はこの亜種のみをさす。スマトラゾウE. m. sumatranaはスマトラ島に分布する亜種で、ほとんどの雄が長い牙を有する。マレーゾウE. m. hirustusはマレー半島に分布し、雄は長い牙を有し、他の亜種に比べて皮膚が肉色を呈しており、黒く長い体毛が生えている。
[齋藤 勝]
ゾウは陸上に生息する動物のうち、もっとも大きなものである。その大きな体を支えるための四肢は太く、それぞれの足には5指があり、それらの指は共通の肉塊の中に収まって、指を包む肉塊全体がクッションの役割を果たしている。体の表面には太い毛が全体に粗雑に生え、尾の先端には房状の長い毛が生える。特徴といえる鼻は、上唇とともに長く伸びて2メートルにも達し、4~5万ほどの筋肉からなっていて、人間の手と同様の働きをする。餌(えさ)を口に運ぶばかりでなく、飲み水も鼻の中に吸い上げて口に入れるが、その量は1回に5.7リットルにも及ぶ。耳は大きく、とくにアフリカゾウが顕著で、放熱器官の役割を果たす。歯式は
で、上顎(じょうがく)の門歯は無根で終生伸び続け、牙いわゆる象牙(ぞうげ)になる。臼歯(きゅうし)は上下1対ずつ生えており、新しい歯が後方から古い歯を押し出す形で生え換わり、幼時に3回、成獣で3回、計6回の生え換わりがみられる。
消化器系は反芻(はんすう)動物に比べて単純な構造で、胃は単一である。あるアジアゾウの成獣の計測値では、小腸20メートル、盲腸1.1メートル、大腸9.4メートル、肝臓の重量は45.5キログラムである。肺は37キログラムほどあり、胸膜腔(きょうまくこう)はみられない。心臓は14.8キログラムであるが、アフリカゾウでは25キログラムほどである。
脳はアジアゾウ、アフリカゾウともに5~6キログラムほどで頭部は大きく、頭を支える頸(くび)は短い。脳を守る頭骨は蜂(はち)の巣状の構造をしており、重量の軽減がなされている。
[齋藤 勝]
森林やサバナに雌とその子からなる群れで生活し、大きな群れではその数が60頭にもなることが知られている。雄は雌の群れの周囲で生活し、年をとった雄は単独で生活することがある。群れは早朝と夕刻に採食しながら移動するが、その速度は普通時速4~6キロメートルほどである。しかし、危険を感じたり攻撃をしかけるときには、時速40キロメートルほどの速さで走ることができる。日中は水浴を好むが、水浴後アブやサシバエなどから身を守るために体に土を吹きかける。
餌は木の葉、枝、草、竹、果実などで、1日に成獣で300キログラムが必要とされる。水は1日70~90リットルが必要で、乾期には水を求めて移動し、干上がった川底から足を用いて水を掘り当てる術をもつ。
アジアゾウ、アフリカゾウともに妊娠期間は20~22か月で、普通1産1子であるが、まれに双子の例が知られている。動物園での出産例では、アフリカゾウの新生子は体高90センチメートル、体重113キログラム、出産後15~60分で起立することができる。アジアゾウの子もほぼ同じ大きさで生まれる。生まれた子ゾウの哺乳は、鼻を使わず直接口から吸引する。子は3~4歳まで雌親とともに過ごし、雌の場合9~12歳で繁殖が可能になり、健康な雌では一生の間に6頭ほどの出産がみられる。寿命はアフリカゾウ、アジアゾウともに60~70年である。
雄のゾウとくにアジアゾウでは、目と耳の間に位置する側頭腺(せん)からタール状の分泌物を分泌するマストという時期がみられる。数時間から数か月間続くこの時期の雄ゾウは、非常に攻撃的になるため、使役に利用するゾウではこの兆しが消失するまで係留する。マストの状態は雌やアフリカゾウにもみられるが、詳しくはわかっていない。
アフリカゾウとアジアゾウの雑種は、野生の状態では考えられないが、飼育下ではごくまれにみられる。1978年にイギリスのチェスター動物園で、雄のアフリカゾウと雌のアジアゾウの間で雄の雑種が出産したが、生後10日ほどで死亡している。
[齋藤 勝]
現存するゾウは2属2種であるが、4000万年前にさかのぼることのできるゾウの進化史上には多数のゾウが現れるため、その進化の過程を知ることができる。分類学的には海牛とハイラックスはゾウに近縁の動物と考えられている。
これまでに知られているゾウの化石のうちもっとも古いものに、北アフリカの新生代第三紀漸新世の地層からみられるメリテリウムがある。体高70センチメートル、体長3メートルのこの動物は、ゾウとはほど遠い体形をしているが、上顎の門歯が犬歯より長く、ゾウの祖先であることをうかがわせる。これよりゾウに近い動物として、同じ北アフリカに同時期に生息していたと考えられるパレオマストドンは、体高1~2メートルで鼻はメリテリウムより長く、上・下顎の門歯は牙状になっており、中新世以後に現れるマストドンゾウの系列につながるものとして知られている。マストドンゾウは体高2~3メートルで多くの種が知られているが、200万年前から1万年前にかけて地球上から姿を消している。中新世後期にステゴロフォドンが出現した。ゴンフォテリウム(いわゆる長顎マストドンゾウ)とステゴドンの中間型の臼歯をもつステゴロフォドンは、体も大形で鼻も長く、現存する2種のゾウやマンモスゾウはこれから枝分れしたと考えられている。
日本からは、鮮新世から中期更新世にかけていくつかのゾウが知られている。それらは、ボンビフロンスゾウ、エレファントイデスゾウ、アケボノゾウ、アカシゾウ、トウヨウゾウ、ムカシマンモスなどである。また、よく知られているナウマンゾウは、100万年ほど前に東南アジアから移動してきたもので、現存するアフリカゾウの系統とされているが、体高は2.5~3メートルほどでアフリカゾウより小形である。
[齋藤 勝]
人間は古くから陸上最大の動物であるゾウを利用してきた。これは、大脳の発達がよいゾウを訓練により意のままに動かし、その強大な力を利用できることに起因すると考えられる。アジアでは紀元前2500~前1500年、モヘンジョ・ダーロの出土品のなかに、アジアゾウを使用していたと考えられるものがみいだされており、アレクサンドロス大王の時代にもアジアゾウを戦象として使用したことが知られている。
アフリカゾウについては、北アフリカに分布し現在は絶滅した小形のものを、古くカルタゴ人が利用したことがよく知られている。なかでも、前254年にカルタゴ軍のハスドルバルが140頭ものアフリカゾウをシチリア島の首都パレルモを陥れるために使い、同じカルタゴの将軍ハンニバルは前218年に37頭のゾウを引き連れてピレネー山脈を越えたことなどがよく知られる。アフリカゾウの利用はその後例をみず、1909年になって旧ベルギー領コンゴ(のちザイール、現、コンゴ民主共和国)に国立のゾウ訓練所が設置されたが、アジアゾウの使用ほどには至らなかった。一方、アジアではその後もゾウは家畜として扱われ、自動車の発達に伴って利用価値が減ってはいるが、林業などに重要な働きをしている。
日本へのゾウの渡来は、1408年(応永15)にアジアゾウが1頭若狭国(わかさのくに)(福井県)にもたらされたのが最初とされ、その後も何頭かのアジアゾウの記録がある。動物園での飼育は、1888年(明治21)に東京の上野動物園にもたらされた2頭のアジアゾウが最初である。
アフリカゾウの渡来はそれよりはるかに遅く、1953年(昭和28)に1頭が巡回動物園で飼育されたのが最初で、動物園で飼育されたのは1965年に石川県の金沢動物園(いしかわ動物園の前身)の1頭が最初である。1975年以後、サファリ形式の動物園が各地に開園し、かなりのアフリカゾウが飼育されるようになった。
[齋藤 勝]
アフリカゾウは、1979年には推定130万頭がアフリカ大陸に生存していたが、国際自然保護連合(IUCN)のアフリカゾウ専門家は、1998年時点で30万1000頭から48万7000頭と推定した。一方、アジアゾウはIUCNによって14か国に3万4594頭から5万0998頭が生息しているとされた(2000年調査)。いずれのゾウも、生息地の縮小と象牙のための密猟でその生息数は減少していると考えられている。1976年より、両種ともにワシントン条約による保護の対象動物である。
[齋藤 勝]
インドやミャンマーでは、ゾウはチーク材など重い物の運搬に欠くことのできない家畜として用いられており、ゾウの調教師というのはインドではマハウト、ミャンマーではコジイとよばれて一種の専門職になっている。かつては、戦車にかわる乗り物としても広く利用されていた。宗教的な説話にもよく登場し、なかでも摩耶夫人(まやぶにん)(釈迦(しゃか)の母)が、天から降りたった1頭の白ゾウが自分の体内に入る夢をみると、しばらくして釈迦が誕生したという話は有名である。神聖な動物と考えられている白ゾウは、サマンタバダラ(普賢菩薩(ふげんぼさつ))の乗り物としても知られ、タイやミャンマーでは王位の象徴となっている。
アフリカでは、18世紀のダオメー王国で女性戦士の戦車としてゾウが用いられたことが知られているが、家畜として用いられることはほとんどなく、もっぱら象牙を目的とした狩猟の対象であった。とくに東アフリカ産の象牙はインド産のものに比べて大きく、しかも軟らかいため細工に適し、9世紀ごろからは本場であるインドへも輸出されていたという。19世紀に象牙の需要が急増すると、東アフリカ内陸部には、ゾウ狩りを専門とする部族も現れた。これらの首長国の多くではゾウは首長位と結び付き、領内で狩られたゾウの牙(きば)2本のうち1本は首長に権利があるとされていた。このようにゾウが尊重されたのは、動物の王としてばかりでなく象牙交易をめぐる経済的利権も関係していた。
[濱本 満]
『アラン・ソーントン、デイヴ・カリー著、内田昌之訳『アフリカゾウを救え』(1993・草思社)』▽『実吉達郎著『アフリカ象とインド象――陸上最大動物のすべて』(1994・光風社出版)』▽『イアン・ダグラス・ハミルトン、オリア・ダグラス・ハミルトン著、伊藤紀子・小野さや訳『象のための闘い』(1995・岩波書店)』▽『クローディーヌ・コーエン著、菅谷暁訳『マンモスの運命――化石ゾウが語る古生物学の歴史』(2003・新評論)』
広義には長鼻目Proboscideaに属する哺乳類の総称であるが,狭義には長鼻目ゾウ科ゾウ亜科Elephantinaeに属する動物のみを指す。
狭義のゾウは頰歯(きようし)が歯冠部の高い長歯で,下あごに切歯がなく,頭骨が高く短い。英名はtrue elephant。アフリカゾウ属Loxodonta,ナウマンゾウ属Palaeoloxodon(ナウマンゾウ,ナルバダゾウなど。ときに前属の異名とされる),アジアゾウ属Elephas,マンモス属Mammuthus(マンモス,テイオウマンモスなど)の4属があり,アフリカゾウ(マルミミゾウを含む)とアジアゾウだけが現生する。ゾウ亜科は中新世に現れたステゴドン科からアフリカで分かれ出たものと考えられ,鮮新世に姿を現している。アフリカゾウ属はアフリカにとどまったが,ナウマンゾウ属とアジアゾウ属はユーラシアの中・南部で栄え,マンモス属はしだいに寒冷な気候に適応してその北部に分布を広げ,一部のものは北アメリカに達した。ステゴドン科のものは頰歯が歯根部の長い短歯で,下あごにも切歯があり頭骨が低い。
狭義のゾウは現生の陸生動物中最大であるばかりか,古今を通じても奇蹄目のインドリコテリウム(バルキテリウム)に次いで大きく,長く自由に動く鼻(英語ではtrunkとよぶ)をもつ。体は巨大で大きなものは肩の高さ4mに達し,食物を大量に集めるのに適応した鼻とそれをそしゃくするのに適した巨大な頰歯をもつ。鼻は他の哺乳類の吻(ふん)が長くのびたもので,その下面の横溝のある部分は口唇の内側に当たり,内部には骨も軟骨もなく,約4万本の筋肉があり,三叉神経の一部が密に分布していて自由自在に動かすことができる。2本の鼻孔が先端まで通り,鼻端には指のように動く突起があり,触覚が鋭いだけでなく化学的な刺激をも感知し得るといわれ,ごく小さな果実も選び出して摘み口に運ぶことができる。鼻は水を吸い込んで口に運び,あるいは体にかけるのにも使うが,においの方向を探り,果実のついた木を見つけるのにも役だつ。そのような木を見つけると,鼻で木を揺すり果実を落として食べ,次に鼻と頭で木を倒して葉や柔らかい枝を食べる。このとききばを使って硬い樹皮をはがすことがある。
上あごにだけ1対あるきばは第2切歯で,しばしば長くのびてきばとなる。きばの先端部は初めエナメル質でおおわれているが,まもなく磨滅してなくなり,比較的柔らかい象牙質(歯質)だけになる。きばは一生のび続ける。犬歯はなく,その奥に大きな頰歯が上下ともふつう1対ある。頰歯は一生に上下とも6対現れるが,初めの3対は前臼歯(ぜんきゆうし),後の3対が臼歯である。これらは他の哺乳類と異なり,上下のあごに1対ずつ現れ,それらが擦り減って前後に短くなるにつれて前方に移動し,後方により大きな次の歯が現れ,やがて前の歯は抜け落ちる。頰歯は前後に長く,口の中のほとんど全長を占め,その咬面(こうめん)にはそれを横切るエナメル質の横稜があり,前と後をセメント質で境される。この横稜は後の頰歯ほど多く,インドゾウでは第1頰歯では4~6本,第6頰歯では20~24本である。四肢は円柱状で,上腕骨と大腿骨が他の有蹄類に比して長く,とくにひざが下方にあるため,ひざをついて座ることができる。中手骨と中足骨は有蹄類として短いが,指骨の端節で体を支えるところは奇蹄類や偶蹄類に似ている。皮膚でつながった5本の指は円錐を縦断したような形に広がり,クッションの働きをする柔らかい組織をおおう。ひづめの数は前・後足とも5本の指の数とは一致せず,前足が5~4個,後足が4~3個である。
皮下に毛細血管が密に分布する大きな耳介には,それをうちわのように動かすことによって,そこを流れる血液を冷却する働きがある。聴覚は鋭いが視覚は鈍く,敵の接近などの探知は主として嗅覚(きゆうかく)に頼る。味覚はあまり発達せず,鼻で運んだ食物を口に入れる前に舌先で調べる程度である。脳は大きく6700mlに達するが,大脳は比較的小さく小脳をおおわない。盲腸は長いが胃と腸は単純で,植物食への特殊な適応は見られない。精巣は陰囊に降下することなく腹腔内にとどまり,胎盤は帯状である。
現生のゾウはアフリカ中部,東部および南部(アフリカゾウ)と,インド,アッサム,ミャンマー,マレーシア,スマトラ,スリランカ(インドゾウ)に分布し,草原や森林に群れですみ,広大な地域を移動しながら生活する。群れは雌とその子からなる家族が3~4組に雄のグループが加わった30~40頭のものが多く,リーダーは年とった雌である。強力な敵には群れのものが協力して当たり,傷ついた仲間を助ける。老雄はふつう単独で生活する。子は成長が遅くふつう4歳,ときに7歳まで乳を飲み,多くのことを学習する。雄は12~16歳で家族群から去るが,雌はその後もとどまり子たちの世話をする。妊娠期間は22ヵ月,1腹1子。食物は木の葉,草,竹,果実などで,成獣では1日当り平均300kgを食べる。食事はふつう早朝と夕方に行い,次いで水場を訪れ水を飲み水浴びをする。水浴びのあと泥を体にかけ,アブ,サシバエ,ダニなどから皮膚を守る。日中は木陰で休み,立ったまま4~5時間眠る。睡眠は夜のほうが深く,横たわって眠ることもある。寿命は60~70歳である。
ゾウは大量の食物と水を必要とする。アフリカゾウは1頭が1日で平均260haの植物を食い荒らし,一つの群れが食べ荒らした地域の植生が回復するには40年が必要だといわれる。そのためゾウの生存には広大な面積の土地がいるが,そのような土地は年々減少しつつある。また象牙を目的にした密猟が絶えないこともあって,絶滅が心配されている。
→アフリカゾウ →インドゾウ
執筆者:今泉 忠明
今日,アフリカゾウとインドゾウの2種のみが,地球上のきわめて限られた地域で生き残っているが,前3世紀には,アフリカゾウは北アフリカにもいたし,前8世紀ころにはインドゾウがシリアや中国の南部にも広く分布していたことが知られている。アフリカゾウとインドゾウは,同じゾウでも形態は異なり,系統も遠くはなれている。ゾウの仲間は哺乳類の長鼻目に属するが,この分類群には化石としてのみ知られている350種以上の動物が含められている。長鼻類の起源は6000万年前より古く,白亜紀末ないし暁新世の原始的な有蹄類である髁節(かせつ)類に求められる。しかし,化石で知られる最古のものは,始新世後期,4000万年前のメリテリウムMoeritheriumである。化石としてエジプトのファユームで最初に発見されたこの動物には,その地域の湖の古名であるメリ湖の名がつけられた。肩高70cmでブタ大,体は細長く,四肢は短く,短頭で上下の第2切歯がきば状にのび,臼歯は瘤状の隆起が横に列をつくる。水陸両生とされ,頭骨の諸形質から長鼻目に含められるが,カイギュウ類や束柱類(デスモスチルスなど)にも類縁性がある。メリテリウムは他の長鼻類との系統関係はなく,独立のメリテリウム亜目をつくる。
今日のゾウにつながる先祖は,マストドン亜目の長鼻類の中に求められるが,メリテリウムと同じくファユームで発見されたパレオマストドンPalaeomastodonとフィオミアPhiomiaがその中でもっとも古く,3500万年前の漸新世前期のものである。マストドン亜目のものは,頭骨が低く,胴が長く,四肢が短いことで,長鼻類の他のグループであるデイノテリウム亜目やゾウ亜目のものと区別され,上下のあごの切歯は左右それぞれきば状の1本を除いては退化し,犬歯は失われ,吻はのびている。またマストドン亜目は,臼歯の幅が狭く,低歯冠で瘤状の隆起が列状に並び,正中溝のあるゴンフォテリウム科と,幅が広く横に稜がつながり正中溝のない高歯冠のマンムト科のものに大別される。今日のゾウを含むゾウ亜科のものは前者のゴンフォテリウム科の系統につながる子孫にあたるものである。
メリテリウムもパレオマストドンもフィオミアも,みな,北アフリカの各地から化石が知られていることから,長鼻類は北アフリカに起源したとされている。マストドン亜目は,中新世から鮮新世にユーラシア,北アメリカ,アフリカに分布を広げ,多種多様のものに分化したが,時間とともにその形態変化に次のような傾向性が見られた。(1)体が大きく巨大化する,(2)四肢骨は長くなり,四趾は幅広く指骨は短くなる,(3)頭骨が大化する,(4)頸部(けいぶ)は短くなる,(5)下顎骨が長くなる,(6)吻が発達し,鼻が長くのびる,(7)第2切歯がきば状に発達する,(8)臼歯は大型になり,構造が複雑化した。500万年前の鮮新世以降には,体が巨大化し,頭骨が二次的に高くなり,あごが短縮して,四肢が長くなることにより,ゾウ亜目のものとして発展するようになり,マストドン亜目のものは北アメリカ大陸を除いて衰退した。根本的な変化は,歯の交換様式がそれまでの二生歯性(垂直交換)から一生歯性(水平交換)へと転換したことであり,それに伴う食性の変化は,ゾウ亜目のものが森林生活から草原生活へと適応したことを示している。また,暖帯におけるアフリカゾウの系統とインドゾウの系統,温帯におけるナウマンゾウ(パレオロクソドン)の系統,寒帯におけるマンモスの系統というように気候帯に沿うすみわけがあり,さらに各地域ごとで種の分化が認められる。アジアでは,このようなゾウ亜目の分化と並行して,マストドン亜目ステゴドン科のステゴロフォドンの子孫で森林生活者のステゴドンが更新世に繁栄した。更新世末の3万年前より以降には人類の活動の飛躍的な発展により,このうち温帯および寒帯のゾウは滅び,今日,暖帯の限られた地域に系統を異にする2種のゾウが生きのびているにすぎない。
執筆者:亀井 節夫
少なくとも仏陀の時代(前6~5世紀)には象を飼いならし戦闘に用いていたインドでは,多くの象にまつわる神話が流布していた。中世にはそうした神話から実用的な飼育法までを記した《マータンガリーラー》《ハスティアーユルベーダ》といった〈象百科〉まであらわされた。象は,梵天の世界創造のとき,ガルダが生まれた後の卵の殻に,梵天がサーマン(呪文)をとなえることによって,その殻から生まれたといわれる。左右に割れた卵から雌雄8頭ずつ生まれ,彼らは宇宙を8方位で支える〈方位の象〉ディグガジャDiggajaとなった。また最初に生まれた雄はアイラーバタAirāvataと呼ばれ,神々の王なるインドラの乗物となったともいわれる。アイラーバタはまた別の伝承では,神々とアスラの乳海かくはんの際,妻のアブラムーAbhramūとともに吉祥天と同時に現れたとされる。アブラムーは〈雲を生ずる〉の意で,このため象,とりわけ乳海の色を残した白象は雨を降らせる力をもつとされ,諸王はこれを求めたという。これと結びついて,象はむかし羽をもっていて雲のように空を飛んでいたともいわれる。太初に生まれた8組の象の子孫は,羽を有し雲のように自由に空を飛んでいたが,あるときヒマラヤの山中で巨木の枝に止まろうとしたところ,その枝が折れて落ちてしまった。折あしく下ではディールガタパスという苦行者が生徒を集めて教えていた。多くの生徒が圧死してしまい,怒った苦行者は象たちとその子孫が羽を失い飛べなくなるようのろった。そのため現在の象は羽を失い地上を歩いているといわれる。
またシバとパールバティーの息子とされるガネーシャは,身体は人間,頭は象の姿をしている。彼は人間の姿で生まれたが,シバの怒りにふれ,首を切られてしまった。パールバティーの怒りをしずめるため,シバはその場に最初に来あわせた者の首をガネーシャにつけることにしたが,そこに最初に現れたのは象だったという。
仏典の中にも象はさまざまに登場する。摩耶夫人は白象が体内に入る夢を見て釈尊を身ごもったとされ,仏陀自身もけしかけられた狂象をしずめたとされる。仏陀の前生物語の一つ,〈ベッサンタラ本生〉では,主人公の王子は雨を呼ぶ白象を隣国の王のまわし者にこわれるまま布施したため,自国は雨が降らず困窮し,ついには国を追われる。また日本にも多くの像が見られる普賢菩薩は6牙の白象に乗った姿であらわされる。
執筆者:高橋 明
多種の象がほぼ世界中に生息した2万年前まで,人類は猟獣としてこれを食用にし,洞窟壁画にマンモスなどの姿をかき残した。この当時から象牙はすでに彫刻や装飾の対象となり,前1000年ころにはエレファンティネ島ほかのナイル川流域およびインダス川流域に大きな象牙交易地が栄え,象の大量捕殺も行われた。軍用にインドゾウを使役する習慣はアレクサンドロス大王の東方遠征を通じてギリシアに伝えられたといわれ,カエサルも敵に恐怖心を与える心理的武器として象を用いる効用を認めた。一方,エジプトではアフリカゾウを戦闘に利用しだし,地中海周辺では2種の象が知られることになった。大プリニウスは《博物誌》においてインドゾウのほうを〈より巨大でどうもう〉と記述した。今日の常識と正反対の見解であるが,前217年のラフィアの戦いでエジプトとセレウコス朝シリアの象部隊が対決した際,インドゾウ側が勝利したという伝説などを通じ,これは古代西洋人の定説となった。ハンニバルが指揮したピレネーとアルプスの両山脈越えの大行軍には50頭の象が参加したが飢えと寒さで次々に倒れ,カルタゴに戻ったのは1頭だけだったという。
象に関する奇妙な伝説に〈関節がない〉というものがあり,前4世紀にクテシアスの《ペルシア史》に,バビロニアのインドゾウは肢に関節がなく座ることも立ち上がることもできず,立ったまま眠ると紹介された。以来,象を殺すには,眠るとき寄りかかっている木を切り,これを横倒しにすればよいという俗信が生じた。また象は体表のしわに昆虫を誘い込み,これを押しつぶすので昆虫を恐れないとする説が大プリニウスの《博物誌》などで語られ,ルネサンス期には〈無敵〉の寓意(ぐうい)として標章にとり上げられた。象はまた帝王とその英知のシンボルとされ,知恵の女神ミネルウァ(ギリシアのアテナ)とも同一視され,象が引く車に乗るミネルウァが美術の主題となった。キリスト教世界では〈力〉と〈勝利〉の象徴とされ,またユニコーンや雄ジカとともに処女にだけ従順であるところからマリアの隠喩(いんゆ)に用いられ,塔または城を背負う象が〈マリアに庇護(ひご)される教会〉の寓意図となった。また象はつがいになるとき東方のエデンへいき,雌がマンドラゴラをとって雄に食べさせるといわれ,アダムとイブの隠喩あるいは人間の堕落の象徴ともされる。象の天敵は蛇,また豚を恐れるといわれ,そのために《イソップ物語》では動物の王とするにふさわしからぬ性質と指弾されている。
執筆者:荒俣 宏
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…ふつう沖縄本島のヤンバルクイナや西表(いりおもて)島のイリオモテヤマネコのように,島に孤立化している地理的に分布の狭いものが例にあげられているが,いろいろなカテゴリーのものが含まれている。すなわち,アメリカのバイソンのように,かつては個体数が豊富であったのに少数しか残存していないもの(数量的遺存種),メタセコイアのようにユーラシアの広い地域に分布していたものが,現在は中国四川省の限定された狭い地域にだけ生き残っているもの(地理的遺存種),シャミセンガイのように5億年もの間,ほとんど変化することなく例外的にゆっくりと進化したもの(系統的遺存種),ゾウのようにかつてはたくさんの類縁種があったのに,現在では2種しか存在せず類縁種の数が少なくなったもの(分類的遺存種)などである。これらのカテゴリーは互いに関連しあい,シーラカンスなどの場合はすべての意味での遺存種といえるが,ゾウのような場合は系統的遺存種とはいえないし,よく遺存種として扱われているオーストラリアの有袋類は,厳密にはそうはいえない面もある。…
…マムシ,ハブ,ガラガラヘビなどの管牙は中空で,毒液はきばの中を通り,先端近くの穴から出るが,コブラ,ウミヘビなどの溝牙では毒液はきばの表面の溝を伝わって流れる。哺乳類のきばには,ゾウのきばのように切歯(門歯)が変形したものもあるが,食肉類,霊長類,翼手類のきばのように多くは犬歯が大きくなったもので,上顎と下顎で同時に発達し,相手に傷を与える武器となっている。しかしサーベルタイガー(剣歯虎)の類では,下顎の犬歯は多くは退化し,上顎のものだけが短刀状に変化し,これを相手に突き刺して血管を切断する。…
…中新世~更新世に広く分布したマンムト科(マンムトまたはアメリカマストドンMammut,ジゴロフォドンZygolophodon)は前科に似てしばしば同科とされるが臼歯の乳頭状突起が横列を形成する。中新世に現れたゾウ科(ステゴドンStegodon,マンモスMammuthus,現生のゾウ)は下のきばを欠き,臼歯の歯冠部が高く,咬面に多数の横畝があり,草その他の硬い植物を食べるのに適する。 アフリカの始新世~漸新世のバリテリウム科(バリテリウムBarytherium)は下の切歯が大きく,臼歯がメリテリウムに似るが,化石が貧弱で詳しいことがわからない。…
※「ぞう」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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