日本大百科全書(ニッポニカ) 「中華そば」の意味・わかりやすい解説
中華そば
ちゅうかそば
中国料理のなかで軽食に属する点心(てんしん)の一つ。中国大陸はムギの栽培に古い歴史をもち、華北では麦類を主食とし、しかも粉にして加工して食べたという。後漢(ごかん)の劉煕撰(りゅうきせん)『釈名(しゃくみょう)』のなかには「蒸餅(チョンピン)も餅で、溲麺(ソウミエン)もまた同じ」と記してあり、この溲麺は水と小麦粉を混ぜて発酵させたものといい、漢時代にこれを食べたという。当時の麺(ミエン)は現今のものと多少異なるとも思うが、そうめんやうどん類の代表とみられる麺類は、東アジアがつくりあげた特徴的な食べ物で、日本のそうめんも中国の溲麺からきたのではないかと思われる。
中華そばは、日本人の味覚にもあい、庶民的な食品としてさまざまな形で民衆の生活に溶け込んでいる。麺の上にのせる具やかけ汁、調理法によって種々の名称があり、現在はインスタント食品として広範な地域に普及し市販されている。中華そばといっても、日本のそばのようにそば粉が原料ではなく小麦粉を使う。口当りがうどんと違うのは、梘水(かんすい)を加えて麺をつくるので、梘水のアルカリ性により麺質が収縮強靭(きょうじん)になり、特殊な風味になるからである。このとき小麦粉のフラボン色素がアルカリの影響を受けて、麺が多少黄色を帯びる。
[野村万千代]
麺の製法と種類
小麦粉に温湯を加えてよくこね、麺棒で伸ばして手打ちにする切麺(チエミエン)と、麺棒を用いずに両手に持って細く引き伸ばしてつくる拉麺(ラーミエン)がある。拉麺づくりは特殊技能とされている。これらの麺は、ゆでる場合と蒸す場合があり、蒸して1人分ずつ玉にしておいたものは、夏でも2、3日保存できる。生麺のゆで方は、熱湯の中に麺をほぐし入れ、沸騰してきたら冷水を入れ、3回ぐらいこれを繰り返して冷水にとり、ただちに水切りする。麺の芯(しん)まで柔らかくしたものは、ゆですぎである。(1)湯麺(タンミエン) 熱湯で熱くした麺に焼き豚、ネギ、青菜などをのせて、スープをかけたもの。ラーメンは湯麺の一種で、しょうゆ味の汁を用い、焼き豚、干したけのこ、ネギなどを散らしたもの。叉焼麺(チャーシャオミエン)は同様であるが、焼き豚をたっぷり入れたものである。(2)伊府麺(イーフーミエン) 伊という富豪の家の麺が美味であったことに由来する。水を用いず卵で小麦粉をこねた高級麺を使い、多くは湯麺にする。(3)涼麺(リヤンミエン) 冷水で洗い、水を切って十分冷やした麺。豚肉、キュウリ、卵、エビなど好みの具をのせ、冷たいスープを少量かけ、酢、ラーユーなどを添えて出す夏向きの麺。(4)炒醤麺(チャオチヤンミエン) 1人分ずつ皿に盛った麺に、種々の具をのせ、炒醤、(豚ひき肉、みじん切りのネギ、ショウガをいっしょに炒(いた)め、酒、みそと少量のスープでどろりとさせたもの)をのせて、箸(はし)で混ぜながら食べる。(5)什景炒麺(シーチンチャオミエン) 蒸した麺を熱湯でもどし、水を切って、静かに麺の表面に焦げ目がつくくらい焼く。上に五目炒菜(チャオツァイ)(豚肉、シイタケ、タケノコ、金糸卵、ネギなどを炒め、とろみをつける)をかけ、酢を添えて供する。
[野村万千代]