高知県の南、東の室戸岬と西の
天候と黒潮の関係で土佐湾は波が荒く、交通の難所であった。「日本書紀」天武天皇一三年一一月三日条に「土左国司言さく、大潮高く騰りて、海水飄蕩ふ。是に由りて調運ぶ船、多に放れ失せぬ」とあり、地震のためとはいえ海難にあっている。紀貫之も承平四年(九三四)一二月帰京にあたり、
と歌にもある。とはいっても古代・中世には土佐湾は人人の往来や物資流通の重要な航路であった。上方との海上交通は
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
高知県の南岸、室戸(むろと)岬と足摺(あしずり)岬を結ぶ線以北の海域。湾口約130キロメートル、奥行約50キロメートル、湾岸延長約240キロメートルに及ぶ。水深200メートル以浅の大陸棚が約70%を占め、南東に向かって深度を増し土佐海段に至り、四万十(しまんと)川や奈半利(なはり)川沖合いの陸棚斜面には海谷の形成が明瞭(めいりょう)である。安芸(あき)市と黒潮町を結ぶ線以北は沈降傾向にあり、浦戸湾、浦ノ内湾、須崎(すさき)湾などの支湾が形成される。南側は隆起傾向にあり、室戸岬、行当(ぎょうとう)岬、足摺岬には海岸段丘が発達する。また、仁淀(によど)川河口から奈半利川河口にかけて砂浜海岸が形成されている。室戸岬と興津崎に向かって突入し湾内を西流する黒潮の分流は、古来沿岸漁業の盛衰にかかわった。泥質底の湾奥では機船底引網、湾東部や足摺岬付近では大敷(おおしき)網などの定置網、砂浜海岸では地引網が行われていたが、現在は低迷している。土佐湾を代表するカツオ一本釣りは、大正期ごろから湾外へ漁場を拡大し、現在は足摺岬沖で小型のソウダガツオを漁獲する。代表的カツオ漁港として清水(しみず)(土佐清水市)、佐賀、久礼(くれ)(中土佐町)、宇佐(土佐市)などがあり、室戸岬港、室津港(室戸市)は遠洋マグロ基地へと伸展した。また、浦ノ内湾、野見湾を中心にハマチ、タイなどの養殖も行われる。近年では湾にいるクジラやイルカを対象としたホエールウォッチングも行われている。
[正木久仁]
高知県の南,東の室戸岬と西の足摺岬を結ぶ線以北の海域。両岬間の湾口距離約130km,奥行き約60km,湾岸は弧状を呈し,延長約240km。陥没湾で,湾の東西は隆起性を示し,室戸岬,行当(ぎようど)岬,足摺岬などに海岸段丘が発達し,沈降性の中央部には浦戸湾,浦ノ内湾,須崎湾などの内湾がある。東部では仁淀川,物部川,奈半利(なはり)川からの土砂の供給により砂浜海岸が発達しているのに対し,西部は四万十(しまんと)川を除いて小河川が多くリアス海岸をなすところが多い。黒潮の分流が室戸岬と興津崎付近へ突入して湾内を西流するので,古くから沿岸でのカツオ・マグロ漁や捕鯨が盛んであったが,捕鯨は消滅し,カツオ・マグロ漁も漁船の動力化・大型化により湾外に漁場を求めるようになった。湾内では機船底引網や近海カツオ漁が行われ,浦ノ内湾,野見湾では養殖漁業が盛んである。人工魚礁の設置もすすめられている。
執筆者:正木 久仁
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