日本の伝統的家族の一形態である家は,かつて商家においても農家においても親族以外の成員を含むことが,とくに経営規模が大きく大家族的傾向の顕著な家にしばしば見られた。日本の家族構成において非親族の同居人の占める比率は0.02%(1960),また全世帯のうち非親族を含む世帯の比率は0.1%(1980)ときわめて小さいが,日本の家族構造を理解する上でこれらは重要な意味をもっていた。非親族的成員の多くは契約にもとづく奉公人,名子(なご),番頭,丁稚(でつち)などであったが,これ以外にも居候とよぶ同居人がある。居候とは多くの地方で不意の食客を意味し,カンナイド,ケンナイド,ケイナイヤツ,ケナイドなどの民俗語彙でよばれていた。ケはハレに対する日常の意味であり,とくに大和地方ではケナイドは〈招かざるに来て食事などをする客〉の意味であり,ここでは居候の存在は喜ぶべきものではなかった。公的には居候は江戸時代初期に公文書に親族関係以外の同居人の戸主との関係を記述する場合,臨時に〈これこれのものがおります〉という意味で書き出したのが始まりといわれる。
日本の農村の伝統的家族のうち,とくに東北地方や北陸地方においては農業労働力確保の必要性から,家族員数が多く大家族的構成をとることが顕著に見られたが,こうした家族には奉公人,子守,名子などが含まれることが多く,この居候もしばしば認められた。しかし家族内部に労働力を確保する必要性が,農業の機械化や賃労働の増加に伴って減退するにつれて,居候の存在もほとんどなくなってしまった。
→食客
執筆者:上野 和男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
食客、つまり無為な同居人で、厄介(やっかい)も同じ。居候とは「居(お)ります」の意で、近世に同居人を公文書に記す際の肩書に用いたことに始まる。都会には、求めに応じて雇い人を周旋する人入れ稼業がおこり、常時多数の同居人を抱える者があった。この種の同居人が食客のイメージを形成したが、農村ではかならずしも同じではなかった。当時、大規模な農業を行う旧家、大家では、名子(なご)、下人(げにん)などの奉公人だけでなく、一時的、あるいは半永久的な同居人を擁して労力の補充にあてなければならなかったのである。岩手県では居候をカタリトとよぶ。カタルとは共同する、参加することを意味し、労働組織の一員に加わるのがカタリトの原義であった。近畿地方では広くケンナイド、ケナイドが食客をさす語である。このケは晴(はれ)に対する褻(け)のことで、普段づきあいの人、つまり身内がケンナイドで、元来食客だけをいう語ではなかった。近世中期以降、大農経営が衰えて小さな家が分立するとともに、居候による労力提供の必要が失われ、その存在意義が薄れた。
[竹田 旦]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…日本では他人の家に寄食する人,たとえば師匠の家に住みこみ,雑用をしながら食事と勉学の機会を与えられている書生などを含めて,ひろく食客という。中国では有力者の門に召しかかえられる寄食者,居候をさし,門客,門下客などともよばれる。春秋戦国時代の社会変動の中から放出された多数の浮動的な士や遊民は,一定の生業をもたないために,個人の才能だけをたよりに有力者に仕えざるをえず,他方,諸侯や貴族も彼らを集めて勢力をのばす必要があった。…
…〈まず食物をふるまってから,ものを尋ねよ〉〈パンと塩は盗賊の心も和らげる〉などのことわざはロシア人のもてなしのあり方を示している。ロシア革命前のロシアの貴族や裕福な商人の家庭は絶えず大勢の食客や居候(いそうろう)を抱えているのがつねで,現在に至るまで客好きと歓待はロシア人の民族的特性の一つをなしている。【中村 喜和】
【イスラム社会】
もてなしは,イスラム教徒の主要な人倫の一つでアラビア語でディヤーファḍiyāfaという。…
※「居候」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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