【Ⅰ】硫黄の酸化物の総称.一酸化二硫黄S2O,一酸化硫黄SO,三酸化二硫黄S2O3,二酸化硫黄SO2,三酸化硫黄SO3,七酸化二硫黄S2O7,四酸化硫黄SO4の7種類が知られている.このうち,通常の条件で安定に存在するのは二酸化硫黄と三酸化硫黄だけである.一酸化二硫黄は低圧下で気体として存在する化合物であり,熱力学的に不安定である.一酸化硫黄は二酸化硫黄を硫黄の存在下にグロー放電をしたときに短寿命で生成する.中間体であり,不均化しやすい.
3SO → SO2 + S2O
また,熱分解により硫黄と二酸化硫黄を生成する.また,四酸化硫黄はβ-SO3の過酸化物である.【Ⅱ】大気汚染物質としての硫黄酸化物(通称ソックスSOx)は,二酸化硫黄,三酸化硫黄などをさす.石油や石炭など硫黄分を含んだ燃料が燃焼して生じる汚染物質で,一般に燃焼過程で発生する大部分が二酸化硫黄である.SO2は大気中で酸化されてSO42-になる.この変換はNOxや O2 の共存下における光酸化や接触酸ですみやかに進行し,自己核化により硫酸ミストか,微粒子(粒径1 μm)の表面に吸着され,(NH4)2SO4,CaSO4,PbSO4,CdSO4として存在する.窒素酸化物とともに酸性雨の原因物質の一つであり,ヒトの呼吸器に影響を与え,森林や農作物などの植物を枯らす原因ともなっている.こうした環境負荷の軽減対策として,低硫黄燃料の使用や排煙脱硫装置の設置が進められている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
硫黄の酸化物は酸化硫黄といい、各種の酸化物(たとえばS2O、SO、S2O3、SO2、SO3、S2O7、SnOmなど)があるが、硫黄酸化物というときは、やや異なる意味をもつことが多い。通常硫黄酸化物というときは、公害用語で、含硫黄物質の燃焼ガスに含まれる酸化硫黄のことで、二酸化硫黄SO2、三酸化硫黄SO3および硫酸ミストの総称。大気汚染物質の一つ。普通SOxで表し、通称ソックスという。その大部分は重油などの燃焼ガスに原因があり、一部は硫酸工場、金属製錬工場などの廃ガスによるものである。発生の際はほとんどが気体の二酸化硫黄であるが、水分があると大気中でしだいに酸化されて硫酸の微粒子(ミスト)となるので被害が大きくなる。そのため、大気汚染防止法などで、環境基準と排出基準が定められている。大気中の二酸化硫黄(亜硫酸ガス)含量を抑えるため重油の直接脱硫、また燃焼ガスや廃ガスの吸収液による脱硫(排煙脱硫)が行われる。硫黄酸化物は動物よりも植物に対して影響が大きいといわれる。
[守永健一・中原勝儼]
硫黄の酸化物の総称であるが,おもに,硫黄Sを含んだ化石燃料の燃焼により二酸化硫黄SO2(亜硫酸ガス)や三酸化硫黄SO3の形で発生し,エーロゾルに吸着したり硫酸などの酸化物となって大気中に存在する。SO2は300~500ppmの濃度で短時間のうちに胸痛,意識混濁などの中毒症状を生じさせ,1.6ppmで健康人の上気道粘膜を刺激して可逆的な気管支収縮を発生させる。ぜんそく患者では0.25ppm2時間で影響が認められている。粒径が1μm程度のエーロゾルと複合した硫黄酸化物は細気管支にまで到達し,相加・相乗作用による毒性を強め呼吸器疾患の一因となる。ロンドンスモッグ,足尾,別子の鉱毒事件,四日市ぜんそくなどの大気汚染事件の重要な原因物質である。日本では〈大気汚染防止法〉によって規制され,1970年に430万t(SO2換算)だった排出量は,燃料の低硫黄化と排煙脱硫技術の採用により大幅に減少し,80年には105万tとなった。
→大気汚染
執筆者:塚谷 恒雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(畑明郎 大阪市立大学大学院経営学研究科教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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[大気汚染の影響]
栃木県の渡良瀬川に沿って足尾町に入ると,赤茶けた岩山が姿を見せる。明治時代から続いた銅の製錬により,硫黄酸化物を含むばい煙が山を荒らし,坑木や燃料として森林が伐採された結果である。山火事も広範な山林を奪い,その後の新芽はばい煙のために育たず,土も酸性化してはがれ落ち,岩山の緑化も困難である。…
※「硫黄酸化物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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