字義上は美を成立させる意識や体験のことをいう。美しいものばかりか醜までも含む広義の美は,感性のとらえる精神的価値〈美的(ästhetisch)なるもの〉として論じられてきた。美意識とは,心理学的観点によればかかる美を支える美的態度の意識過程をさす。哲学的観点によれば美的価値をめぐる直接的体験のあり方全体をさし,このばあい心理学的把握との混乱を恐れて〈美的体験aesthetic experience,ästhetisches Erlebnis〉の語を用いることが多い。美を支える意識過程の心的要素としては,感覚,感情,表象,連想,想像,思考,意志などが挙げられるが,要するにこれら諸要素の複合体が美意識である。だがさらに美意識固有の性質を追究すれば,そこでは思考や意志の要素の縮小,感覚や感情の要素の拡大が認められる。知性や意志よりも直接ものを観る(直観)作用と直接ものに感じる(感動)作用の方が優位をとり,しかも両作用が渾然一体の調和をなすところに美意識の特性があろう。
さて真善美はつねに人間の希求する価値であるが,観る主体と観られる客体との主客関係について3者を比べると,真や善は学問的成果や道徳的規範のごとくこれらを観る人や行う人から独立に存在することもできるのに対して,美は必ずこれを観る人の前でしか顕現しない。このように厳しい主客関係に注目して美の哲学的考察は,客体の側を自然美と芸術美,主体の側を観照(享受)と創作の2作用に大別し,これら4極の結びあう関係のうちに美の所在をたずねてきた。この哲学的観点に立てば,4極の結びあう関係構造の全体が美的体験つまり美意識ということになる。意識過程ととるにせよ体験構造ととるにせよ美意識に対する学問的究明は,これまでに,快との相違,実利的関心をはなれた静観的無関心性,だがこの静観が対象をみつめる作用としては積極的な創造的静観であること,それゆえこの創造性を支える人格との関連で〈深さ〉の程度に差の生じること,ひいては天才論,また精神分析の興隆に伴い無意識との相関などの問題を際だたせてきた。美的体験における観照と創作の帰一する原理として例えば愛のごとき根源的衝動,自然美と芸術美の帰一する究極として,その衝動のあこがれてやまぬ何らかの対象を想定すれば,この主客関係には美を機縁とする人間のあり方そのものが横たわっており,美意識の究明が人間存在の特質を具体的に物語る上記の諸問題を照明することになるのは当然であろう。
→美
執筆者:細井 雄介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
美的な対象を受容し、また産出する精神の態度において働く意識。美学がバウムガルテンによって「感性的認識の学」と定義されて以来、美学のもっとも中心的な主題となった。その理由は、古典美学では超感覚的な美の理念が追究されたのに反し、近代美学では、われわれの意識に直接現象する限りの美が主題とされるようになったからである。芸術作品や自然美を享受する際のわれわれの意識は、日常的場面での意識とは違って、事物への利害関心によって動かされることなく、いわば自由な遊びの状態にある。道徳的判断の場合のように一定の目的観念によって動かされることなく、しかもある合目的性を実現している。この点を分析して、カントは美意識を「無関心性」と「目的なき合目的性」ということばで特徴づけている。
しかし、このような美意識の性格は、受動的・観照的態度にあるときにだけ析出されるものであるにすぎない。美意識は、芸術作品の美を享受する場合に限らず、美的なものを創造する場面においても積極的に働いているはずである。作品の創造の際には、われわれの精神はなんらかの目的意識に支配され、存在関心に拘束されて存在しているはずである。こうした創造行為や批評活動の面に注目するとき、美意識のうちに、感性による受容的側面ばかりでなく、理性による能動活動の面も認めなければならなくなるであろう。
[伊藤勝彦]
『カント著、篠田英雄訳『判断力批判』二冊(岩波文庫)』▽『大西克禮著『美意識論史』(1949・角川書店)』▽『今道友信著『美の位相と芸術』(1968・東京大学出版会)』
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