えびす

日本大百科全書(ニッポニカ) 「えびす」の意味・わかりやすい解説

えびす
えびす / 夷
恵比須

生業を守護し福利をもたらす神として、わが国の民間信仰のなかで広く受け入れられている神霊語源はさだかではないが、夷、つまり異郷人に由来すると考えられ、来訪神、漂着神的性格が濃厚に観念されている。現在一般にえびすの神体と考えられている烏帽子(えぼし)をかぶりタイと釣り竿(ざお)を担いだ神像によってもうかがえるように、元来漁民の間で、より広範に信仰されていたものが、しだいに商人や農民の間にも受容されたと考えられる。漁村では多くの地方で、海中から拾った、あるいは浜辺に漂着した丸い石をえびすの御神体と定めて祠(ほこら)に納め、初漁祝いや大漁祈願など各種の漁にかかわる行事で祭りを行う。またクジラサメ、イルカなどをえびすとよんだり、遭難者の遺体や漂着物をえびすとよんでこれをけっして粗末には扱わない風習がある。さらに漁師が海に出漁するとき、釣り糸を垂れるとき、海女(あま)が海に潜るときなどに「えびす」と唱え言をすれば漁があると伝えている所も多い。いずれも、魚群は回遊するという性質と、この神霊に観念されている属性とが結び付けられていると考えられる。

[野口武徳]

えびす信仰

えびす神は、漁師や農家あるいは商家などで、生業を守護し、福徳をもたらす福神として祀(まつ)られる。祭神は、事代主命(ことしろぬしのみこと)あるいは蛭児命(ひるこのみこと)とする両説がある。また七福神の一つとして大黒天(だいこくてん)と並び祀られる。古くより「寄り神」として海浜に祀られ、漁師が大漁を祈っていたが、海産物の売買により市(いち)の神、商売繁栄の神として、広く商家にまで信仰されるようになった。関西では1月10日を「十日戎(とおかえびす)」といって、大阪市の今宮戎(いまみやえびす)神社、兵庫県西宮(にしのみや)市の西宮神社などへ招福を祈る多数の参拝者があり、西日本の神社でも1~2月に同様の祭りが多い。農家では旧暦の1月と10月の20日に夷棚(えびすだな)や祠にタイなどを供え、豊作の祈願と感謝の祭りをする「えびす講」の行事もある。商家でも秋に「えびす講」あるいは「誓文払(せいもんばらい)」と称し、駆け引きで客を欺いた罪を祓(はら)うため、神社に詣(もう)でたり、客を供応したり、大安売りをすることがある。

[寳來正彦]


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百科事典マイペディア 「えびす」の意味・わかりやすい解説

えびす(夷/恵比寿/戎)【えびす】

(1)〈えみし〉と同語,あるいはその転訛で,古くは異民族の通称。辺境,海辺の住民をもさしたが,中世には勇猛な武士の称となり,鎌倉武士を京で東(あずま)夷,荒(あら)夷といった。(2)異郷から漂着,来臨する神。今日では右手に釣ざお,左わきにタイをかかえた狩衣(かりぎぬ)姿の夷三郎に描き,七福神の一つ。もとは漁民の神で,海底の石,漂流物,寄り鯨などを夷としてまつったが,摂津の西宮(にしのみや)神社を本拠とする〈夷かき〉と称する宗教芸能者の人形芝居により各地に普及,商売繁盛の神となった。夷三郎は生後3年たっても足が立たず,そのため海に流された蛭子(ひるこ)神で,西宮神社(戎様)の祭神。→夷講
→関連項目神棚大黒田の神客人

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「えびす」の意味・わかりやすい解説

えびす

恵比須,恵比寿,戎とも書く。福利,獲物を司る神。エビスの語は,古くはエミシとともに異民族をさす語で,辺境にある者の神とされたこともあった。のちに市場の守護神として勧請され,商業の発達とともに福利の神として広く信仰を集めることとなった。また漁民の信仰では,一般に大漁をもたらす神とされ,ところによってはクジラ,イルカ,サメあるいは海中から拾い上げた石,漁網の浮きなどをエビスと呼ぶこともある。さらに農山村にもエビス信仰はあり,狩人がシカの心臓の上部をエビス様と呼ぶ例が群馬県にある。七福神の1神として烏帽子をかぶり鯛を釣上げるエビスは,兵庫県西宮神社の祭神。なお,江戸以降の民間行事として,商家では正月と 10月の 20日に戎講を催して1年中の商売繁盛を祈るならわしができた。

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デジタル大辞泉プラス 「えびす」の解説

えびす

北陸地方の郷土料理「べっこう」の別称のひとつ。「えべす」「はやえべす」ともする。おもに正月など、ハレの日に作られる料理であることから。

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