カピラ(読み)かぴら(英語表記)Kapila

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カピラ」の意味・わかりやすい解説

カピラ
Kapila

前6世紀頃のインド,ベーダ聖仙六派哲学の一つであるサーンキヤ学派開祖の一人とされる。ヒンドゥー教の文献では,カピラは人類の始祖であるマヌの末裔で,創造主ブラフマーの孫,あるいはビシュヌ化身とされる。ヒンドゥー教の重要な聖典バガバッド・ギーター』には,ヨーガの達人(シッダ)と親交のある隠遁者として描かれている。カピラが開いたサーンキヤ学派はヒンドゥー教全体に多大な影響を与えたが,なかでもカピラの禁欲主義に象徴されるヨーガとの密接な関係によるものが大きい。神話では厳しいヨーガ修行の模範として描かれ,修練を積んだカピラは体内に蓄えた強烈な熱によって,ベーダ王サガラの 6万人の息子たちを灰にしたと伝えられている。仏教の文献には名高い哲学者と記されており,ある一派ではブッダ(→釈迦)生誕の地とされるカピラバストゥの町は,カピラの弟子たちが築いたとされている。ブッダとカピラの思想には,苦悩を除く方法として瞑想を重視する,ベーダの神々には一定の限界や条件があるとする,儀式やバラモン教教義を嫌うなど多くの類似点がみられるものの,カピラ自身は教団を設立することはなかった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カピラ」の意味・わかりやすい解説

カピラ
かぴら
Kapila

生没年不詳。伝説的にインド六派哲学サーンキヤ学派の開祖とされる。彼は自説をアースリ Āsuriに教え、アースリはパンチャシカPañcaśikhaに伝え、これによって教えが広められたという。後代の作品『タットバ・サマーサ』(8世紀?)と『サーンキヤ・スートラ』(15世紀?)は彼に帰せられる。紀元前3世紀ころの『シュベーターシュバタラ・ウパニシャッド』にはサーンキヤ学派の人物であることを暗示して、カピラの名をあげてあり、それが文献上の最初である。前2世紀から後2世紀ごろの『マハーバーラタ』第12巻には、彼の名はサーンキヤ師として言及され、またベーダの祭式(供犠(くぎ))を批判し、出家遁世(とんせい)によって知による解脱(げだつ)を説く行者としても出ている。梵天(ぼんてん)の七子の一ともいう。提婆(だいば)の『百論』に対する婆藪開士(ばすかいし)の注釈(404年漢訳)には迦毘羅(かびら)の言としてサーンキヤ説が引かれており、カピラに比定される。しかし彼の実在を疑う学者も多く、また実在としても複数の人物を想定することになろう。

[村上真完 2018年5月21日]

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