さえ

精選版 日本国語大辞典 「さえ」の意味・読み・例文・類語

さえ さへ

〘副助〙 体言および体言に準ずる語・形容詞連用形(→語誌(1))・格助詞等をうけ、また「さえこそ」「さえなむ」「さえは」「さえも」等、係助詞と重ね用いられる。
① 既に存在する事実の上に、さらに同類の事実が添加する意を表わす。…まで(も)。→語誌(2)。
古事記(712)上・歌謡「赤玉は 緒佐閇(サヘ)光れど 白玉の 君が装し 貴くありけり」
※枕(10C終)二五「寝おきてあぶる湯は、はらだたしうさへぞおぼゆる」
② 条件句に用いられて「せめて…だけでも」の意を表わす。→語誌(3)。
※新古今(1205)雑下・一七三八「命さへあらば見つべき身の果を偲ばん人の無きぞかなしき〈和泉式部〉」
③ 程度のはなはだしいものをあげて他を類推させる意を表わす。→語誌(4)。
曾我物語(南北朝頃)四「まさしき兄弟さへ、似たるはすくなし。まして従兄弟に似たるものはなし」
※滑稽本・浮世床(1813‐23)初「とうがらしなどといふものは家毎に沢山入(い)るものぢゃアねへがあれでさへ家業になって通る」
[語誌](1)形容詞連用形をうける例は中古に現われる。
(2)語源は、「さへ(さえ)」の本源的な用法①の意味から考えて「添へ(添え)」であろうと言われる。
(3)「さえ」と類義の副助詞に「だに」「すら」がある。この三語は上代それぞれ独自の意義を有していたが、徐々に変遷し(「すら」「だに」の項参照)、結果的に「さえ」一語に収斂する。②の意義は本来「だに」の意義であったもの、③の意義は本来「すら」の意義であったものであり、いったんは「だに」がとってかわるが、更に「さえ」にとってかわられ、室町期には「さえ」が「だに」「すら」の意をも含む三つの意義をあわせもつことになる。
(4)ところが、「さえ」の本義である①は、たとえば「百二十句本平家‐一〇」で「又様をさへ替へけんことのむざんさよ」とあるのが、「天草本平家‐四」では「マタ サマヲ マデ カエタ コトノ ムザンサヨ」となるように、「まで(も)」にとってかわられ、近世以降は「さえ」本来の意①は一般に用いられなくなる。つまり、現代語の「さえ」は、上代の「すら」「だに」の意義を表わしているということになる。

さえ

(助動詞「さる」の命令形さい」の変化したもの) …なさい。
※歌謡・松の落葉(1710)三・鼠の昼寝「鼠めが産の野中に昼寝してな、猫に子取らりょと夢を見たな、守(まもり)よ懸けさへ除(よけ)の守をな」

さえ さへ

〘名〙 (動詞「さえる(障)」の連用形の名詞化) 山野に設けた鳥獣を捕えるための囲い。〔書陵部本名義抄(1081頃)〕 〔司馬相如‐上林賦〕

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デジタル大辞泉 「さえ」の意味・読み・例文・類語

さえ[副助]

[副助]《動詞「そ(添)う」(下二)の連用形「そえ」から生じたという》名詞、活用語の連体形または連用形、助詞など種々の語に付く。
すでにあるものの上に、さらに付け加える意を表す。…までも。「風が吹き出しただけでなく、雨さえ降りだした」
「霧も深く露けきに、すだれ―上げ給へれば、御袖もいたく濡れにけり」〈・夕顔〉
ある事柄を強調的に例示し、それによって、他の場合は当然であると類推させる意を表す。…だって。…すら。「かな文字さえ読めない」
「その大切な神仏かみほとけさまがたで―金銀を御信心遊ばす」〈滑・浮世風呂・四〉
(仮定表現を伴い)その条件が満たされれば十分な結果が生じる意を表す。せめて…だけでも。「これさえあれば鬼に金棒だ」「覚悟ができてさえいれば、心配はない」→すらだにまで
「一の棚―領じておいたらば(=手ニ入レテオケバ)後には何を商売いたさうともそれがしがままぢゃ」〈虎明狂・鍋八撥〉
[補説]「さえ」は、古くは格助詞の上にも下にも付き、「さへも」「さへこそ」のように係助詞にも先行するところから副助詞とする。中古から「すら」の意を吸収した「だに」との混同が始まるが、23の用法は、中世末ごろ「だに」がほとんど用いられなくなってその意をも吸収したもの。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

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