ニホニウム(読み)にほにうむ(英語表記)nihonium

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニホニウム」の意味・わかりやすい解説

ニホニウム
にほにうむ
nihonium

アクチノイド人工放射性元素の一つ。原子番号113、元素記号Nh。周期表第13族に属する。新元素として認定されるまでの暫定名称はウンウントリウムununtrium(暫定元素記号Uut)。2003年にアメリカとロシアの115番元素合成の共同研究の際に113番元素生成観測したとの最初の報告があったが、理化学研究所(理研仁科(にしな)加速器研究センターの森田浩介(1957― )を中心とする研究グループが、亜鉛原子核をビスマス原子核に衝突させる実験を長期間継続して行い、2004年(平成16)に113番元素合成の成功例を報告した。その後、アメリカ、ロシアからも合成や観測の報告があったが、国際純正・応用化学連合(IUPAC:International Union of Pure and Applied Chemistry)と国際純粋・応用物理学連合(IUPAP:International Union of Pure and Applied Physics)の共同作業部会(JWP:Joint Working Party)は、理研森田グループの実験結果をもっとも確実な研究報告と評価した。IUPACは2015年12月に元素名提案権を理研森田グループに与え、2016年6月に理研が113番元素名称を日本国名にちなんでnihonium(ニホニウム)、元素記号をNhとする案を公表、2016年11月にそれらが確定した。

 日本にはニホンとニッポンの2通りの読み方があるが、1908年(明治41)に東北大学の小川正孝(まさたか)(1865―1930)が、事実上は当時未知だった第7族の75番元素レニウムを発見していながら、これもまた未知だった同族の43番元素と誤認し、それが一時期、留学先であったロンドン大学教授ラムゼーの薦めもあって、新元素ニッポニウムnipponium(元素記号Np)とされた歴史的経緯があった。それとの混同を避けるため、113番元素の名称はニホニウムとされた。ニホニウムはアジアで合成された初めての元素とされる。

 これまで質量数278、282、283、284、285、286の同位体報告例があり、いずれもきわめて短い半減期でα(アルファ)崩壊してレントゲニウムになる。

[岩本振武 2016年12月12日]



ニホニウム(データノート)
にほにうむでーたのーと

ニホニウム
 元素記号  Nh
 原子番号  113
 原子量   (278)(282)(283)(284)(285)(286)※
 融点    ―
 沸点    ―
※括弧内の数値は原子量ではなく、同位体質量数の一例

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニホニウム」の意味・わかりやすい解説

ニホニウム
nihonium

人工元素の一つ。元素記号 Nh。原子番号 113。2004年に理化学研究所仁科加速器研究センターの森田浩介(九州大学大学院理学研究院教授)らの研究グループが,亜鉛ビスマスに衝突させることで合成に成功した。このとき,4回の連続したα崩壊と,二つに分裂する自発核分裂が続いて観測された。研究グループはその後もこの元素の合成に 2度成功し,2009年には,113番元素がα崩壊を 3回起こした際に生成される元素ボーリウムを直接合成する実験から,113番元素の合成を裏づける証拠を得た。一連の実験で,国際純正・応用化学連合 IUPACによる新元素認定にあたって重要視される,既知の同位体(アイソトープ)への崩壊が確認された。一方,ロシアとアメリカ合衆国の研究グループは 2004年に,カルシウム同位体(質量数 48)をアメリシウム同位体(質量数 243)と融合させることで生成された 115番元素(→モスコビウム)が崩壊する際に,113番元素が初めてつくられたと主張したが,崩壊後に既知の同位体にいたっていないという問題点があったため,113番元素の発見は認められなかった。113番元素の化学的特性はタリウムに似ていると考えられる。名称のニホニウムは,発見国名である日本にちなんで命名された。

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