天然には存在しない元素で、人工的につくりだされた元素をいう。ただしこの語は、俗に用いられているもので、かなりあいまいな点を含んでいる。すなわち、一般に天然に存在しないと考えられていた元素は、それらが放射性元素で寿命が短いためこれまでに崩壊しつくして、現在は存在せず、そのため発見されなかったと考えられるものである。したがって、核反応によって人工的に初めてつくりだされれば人工元素といえる。しかし、分析技術の向上などにより天然にも微量は存在することがわかった元素もあるし、また寿命は短くても、天然放射性元素から崩壊したり、あるいは天然の中性子などによって核反応をおこした結果つくられるなどして、つねに微量は天然に存在している元素もある。たとえば85番元素のアスタチンは、1940年ビスマスをヘリウムイオンで照射して人工的にアスタチン211がつくられ、人工元素とされたが、その後アスタチンのいろいろな同位体がポロニウムの崩壊で生成し、したがって天然にも存在することがわかった。また同じように超ウラン元素のネプツニウムやプルトニウムも1940年に初めて人工的につくられたが、その後ネプツニウム237、プルトニウム239もピッチブレンド中に微量存在することがわかった。
2016年(平成28)の時点で、93番以降で人工的につくられている元素は、93番ネプツニウム、94番プルトニウム、95番アメリシウム、96番キュリウム、97番バークリウム、98番カリホルニウム、99番アインスタイニウム、100番フェルミウム、101番メンデレビウム、102番ノーベリウム、103番ローレンシウム、104番ラザホージウム、105番ドブニウム、106番シーボーギウム、107番ボーリウム、108番ハッシウム、109番マイトネリウム、110番ダームスタチウム、111番レントゲニウム、112番コペルニシウム、113番ニホニウム、114番フレロビウム、115番モスコビウム、116番リバモリウム、117番テネシン、118番オガネソンが認められている。
天然元素の放射性同位体(ラジオ・アイソトープ)の多くは、人工的につくられ、これは人工放射性同位体とよばれる。
[中原勝儼]
天然に存在せず,人工的方法(核反応)によってのみ作り出される元素をいう。ふつう,周期表上原子番号43のテクネチウムTc,61のプロメチウムPm,85のアスタチンAt,87のフランシウムFr,および93のネプツニウムNp以降の諸元素(超ウラン元素)を人工元素とみることが多い。しかし,この定義は厳密なものとはいえない。たとえばテクネチウムやプロメチウムのような元素は,原子番号が小さいのに,たまたま不安定な原子核をもつ放射性元素であったため,地殻中にかつて存在していたとしてもいち早く消失してしまい,1940年前後に核反応の技術が急速に進歩するようになってから,初めて人工的に得られるようになった元素と考えられる。したがって,はるかな以前にさかのぼれば,これらは天然元素として存在した時期があったかもしれず,また宇宙のどこかでは現在も存在しているかもしれない。また実際,分析技術の進歩とともに,これら人工元素の中には天然にもきわめて微量に存在するものがいくつも見いだされている。たとえばアスタチンは1940年にビスマスとヘリウムイオンとの核反応で作られた質量数211のもの(211At)が最初に発見されたが,その後アスタチンのいろいろな同位体が天然の放射性元素であるポロニウムのいろいろな同位体からの分岐崩壊で生ずることがわかり,したがってアスタチンは自然界につねに微量に存在することが知られた。また超ウラン元素のうち最初に発見されたネプツニウム(ウランの中性子照射による239Np)やプルトニウム(ウランの重陽子D照射による238Pu)も,その後まもなく天然のピッチブレンド中に237Np,239Puのような同位体の形で存在することがわかり,これらはウランが宇宙線中の中性子によって自然に核反応を起こした結果であると考えられるようになった。このように人工元素の定義には明確でない点があるので,〈天然には現在のところまったく見いだされてないか,きわめてわずかしか見いだされず,その研究には主として人工的手段によって作り出したものが用いられる元素〉と考えたほうがよいであろう。このような元素の大多数はいわゆる超ウラン元素であるが,そのうち現在までに原子番号105のものまではその存在が確かめられ,さらに原子番号の大きいものについても,109までの数種のものの核反応による生成が報告されている。したがって人工元素の数は,今後もつぎつぎに増加していくことが予想される。このように原子番号が増加していくと核はますます複雑な構造になり,したがって不安定,短命な放射性元素になりそうに思われるが,理論的計算では原子番号114,質量数298のあたりで核が非常に安定になる領域があるという結果も出ている。これらの元素の予想位置を含めた〈未来の周期表〉も工夫され,原子番号122からは5g(定員18)と6f(定員14)の軌道が電子によって充てんされていく超アクチノイドと総称される32個の元素から成る系列が生ずることが予想されている。
執筆者:曽根 興三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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