中エジプトのアマルナ出土の楔形文字粘土板文書。前14世紀のオリエント世界の国際関係を知る重要な史料である。1887(一説には86)年一農婦によって偶然発見され,91年のピートリーの発掘によって,アテン大神殿の南,小王宮東の〈王の記録庫〉から出土したものであることが確認された。現在知られている総数は379,大部分はベルリン博物館(199),大英博物館(83),カイロ博物館(50)の3ヵ所に所蔵されている。内容は,前14世紀の前半から中葉にかけてのオリエントの列強(バビロニア,アッシリア,ミタンニ,アルザワ,アラシア(キプロス),ヒッタイト)およびエジプト支配下のシリア,パレスティナの臣侯国の支配者たちがエジプト王(アメンヘテプ3世およびイクナートン)にあてた外交書簡で,ヒッタイト語文書2,ミタンニ語文書1を除いて,すべて当時の国際公用語であるアッカド語(バビロニア方言)で記されている。少数の例外を除き,すべて来信である。詳しい事情は不明だが,ツタンカーメン王がアマルナを放棄したときに後に残された文書であり,当時の外交書簡のすべてではないため,この文書のみに基づく史実の復元は困難であり,誤りやすい。しかしヒッタイト王国の首都ボアズキョイ出土の文書や北シリアのウガリト出土の文書の援用により,全体的な状況についてはある程度解明できる。エジプト王と外国王とは互いに兄弟と呼んで親交を結び,贈物を交換しあっているが,外国王女(バビロニア,ミタンニ,アルザワ)のエジプト王の後宮入りにみられるように,シリア,パレスティナを支配するエジプト王が優位にある。これに対して野心的なヒッタイト王スッピルリウマは,エジプトの同盟国ミタンニを圧迫,アムル侯を先兵として着々と北シリアに対する支配権を確立していく。パレスティナではハビル(ヘブライ人であろう)の活動がはじまり,トトメス3世の完成したエジプトのアジア植民地の動揺・離反がみてとれる。
執筆者:屋形 禎亮
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エジプト、カイロの南約312キロメートルにある、第18王朝のアメンヘテプ4世(イクナートン)の都アケト・アテン(アテンの地平線。今日のテル・エル・アマルナ)の王宮跡で、東側に位置する文書庫から1887年に発見された粘土板文書。約370枚出土した粘土板文書は、当時の国際語であるバビロニア語(アッカド語)で書かれていた。紀元前14世紀初頭から中葉にかけて、アメンヘテプ3世、4世の時代に、ヒッタイト、ミタンニ、アッシリア、バビロニアの諸国王、またシリア、パレスチナ、キプロスなどエジプトと従属関係にあった小国の諸王から送付されてきた書簡であり、世界最古の外交文書とされている。文書のなかには、小アジアを完全に掌握したヒッタイトが、シリア、パレスチナのエジプトの勢力圏を脅かしていることなどを記したものがあり、当時の国際政治情勢や、小アジア、ミタンニなどとの文化交流を知るうえで重要である。
[大村幸弘]
テル・エル・アマルナ遺跡から発見(1887年)された世界最古の外交文書。アメンヘテプ3世,アメンヘテプ4世,ツタンカーメンの治世にヒッタイト,ミタンニ,バビロニア,アッシリアなどの諸王と交換した書簡,およびシリアの小王が宗主国エジプトに宛てた360通余の文書を含む。粘土板に主として当時の国際語アッカド語(中期バビロニア語)で記されている。
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…アマルナに都のおかれたイクナートンの治世および改革の萌芽のみられる先王アメンヘテプ3世の治世後半をさし,時には次王ツタンカーメン王の治世を含めることもある。また古代オリエント史上においては,アマルナ出土の楔形文字文書(アマルナ文書)によってエジプト支配下のシリア,パレスティナをめぐるオリエント諸国の国際関係を研究できる前14世紀前半から中葉にかけての時代をさす。 エジプト国内では,王権による一元支配の実現をめざして,太陽神アテンを唯一神とする〈宗教改革〉,新都の造営が断行され,これに呼応するアテン信仰に基づくアマルナ美術の出現,言文一致をめざす新エジプト語の文章語採用など,文化全般にわたり反伝統主義的な革新の気風が支配する。…
…王の治世はトトメス3世が建設したシリア,パレスティナ,ヌビアの植民地支配を軸とする〈帝国〉支配体制の絶頂期にあたる。バビロニア王国やミタンニ王国とは王女との結婚を通じて同盟関係を強化,豊富に産するヌビア黄金の贈与によって,ヒッタイト王国やアッシリアを含めてエジプトを軸とする西アジア世界の国際平和を実現,その状況はアマルナ文書に詳しい。贈物,貢納,交易によって諸国の富が大量にエジプトに流入,豪奢な宮廷生活と大規模な建築活動にむけられる。…
※「アマルナ文書」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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