広くはアントラセンから誘導されるキノンをいうが、通常は9,10-アントラキノンをさす。黄色結晶。誘導体としてはアリザリンなどが知られていて、アカネ科、タデ科、マメ科の植物に広く分布している。アントラセンを酸化するか、ないしはベンゼンと無水フタル酸とのフリーデル‐クラフツ反応により合成する。熱したベンゼン、ニトロベンゼン、アニリンなどによく溶けるが、エーテルには溶けにくい。重要な染料中間体である1-アミノアントラセン、アリザリンなどの合成に用いられる。亜鉛と酸により還元するとアントラセンになるが、穏やかに還元するとアントラヒドロキノンになる。アントラキノンをさらに酸化することはむずかしい。
[廣田 穰]
アントラセン骨格をもつキノンで,いくつかの異性体があるが,特記しないかぎり9,10-アントラキノンをさす。黄色結晶で,融点287℃,沸点379~381℃。昇華性がある。熱したベンゼンやトルエンに溶ける。エチルアルコールにも比較的よく溶けるが,エーテルにはほとんど溶けない。摩擦ルミネセンス性がある。キノン類の中では最も還元されにくく,性質はむしろ芳香族ケトンに似ているが,亜鉛末,スズと塩酸,二チオン酸ナトリウムで還元すると,それぞれアントラセン,アントロン,アントラヒドロキノンになる。酸化するとフタル酸に,アルカリ融解すると安息香酸になる。工業的には,アントラセンを酸化クロムや硝酸で酸化してつくるか,無水フタル酸とベンゼンを塩化アルミニウムの存在下で反応させて得られるo-ベンゾイル安息香酸を濃硫酸と熱して合成する。実験室での合成には後者の方法がよい。その誘導体であるアミノアントラキノン,アントラキノンスルホン酸は,アントラキノン染料の重要な原料である。天然にはこの誘導体が色素として存在することが知られている。
執筆者:岡崎 廉治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
C14H8O2(208.22).広義では,アントラセンから誘導されるキノンをいい,1,2-,1,4-および9,10-アントラキノンの三つの異性体があるが,普通,9,10-アントラキノン(9,10-anthracenedione)をさす.アントラセンを酸化するか,無水フタル酸とベンゼンとのフリーデル-クラフツ縮合によって得られるo-ベンゾイル安息香酸を脱水閉環して製造される.淡黄色の結晶.融点286 ℃,沸点382 ℃.昇華性.ベンゼン,トルエンなどに熱時溶ける.還元すれば還元剤の種類によって,アントラヒドロキノン,アントロン,あるいはアントラセンを生じる.アントラキノンはいわゆるアントラキノン系染料の母体化合物で,キニザリン,アミノアントラキノン,ベンゾアントロンなど種々の誘導体を経て酸性染料,建染め染料が合成される.LD50 3500 mg/kg(ラット,腹腔内).[CAS 84-65-1]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…キノン類は,フェノール類,キノール類,芳香族アミン類の酸化によって容易に合成できる。代表的なものは,ベンゾキノン,ナフトキノン,フェナントレンキノン,アントラキノンなどであり,オルト位置,パラ位置が置換されたものをそれぞれオルトキノン(o‐キノン),パラキノン(p‐キノン)という。メタキノン(m‐キノン)は存在しない。…
※「アントラキノン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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