イシュタル(英語表記)Ishtar

精選版 日本国語大辞典 「イシュタル」の意味・読み・例文・類語

イシュタル

(Ishtar) バビロニアアッシリア女神シュメールイナンナと同一視される。愛の女神・戦争の女神であり、天の女王とも呼ばれる金星の神。メソポタミアビーナス

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デジタル大辞泉 「イシュタル」の意味・読み・例文・類語

イシュタル(Ištar)

古代メソポタミア西アジアで信仰された豊饒多産の女神。フェニキアではアシュタルテとよばれ、ギリシャアフロディテにあたる。
[補説]作品名別項。→イシュタル

イシュタル【Istar】[曲名]

《「イスタール」とも》ダンディ管弦楽曲。正式名称は「交響変奏曲イシュタル」。1896年作曲。古代メソポタミアの女神イシュタル死者の国へ下る様を描いた作品。

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改訂新版 世界大百科事典 「イシュタル」の意味・わかりやすい解説

イシュタル
Ishtar

バビロニアの代表的な女神。シュメールではイナンナInanna(〈天の女主人〉の意)と呼ばれ,カナンアスタルテギリシアのアフロディテ,ローマウェヌス(ビーナス)に相当する。イナンナ,イシュタルは楔形文書に最も頻繁に現れる女神で,その祭儀はウルク,キシュのほか多くの都市で見られた。イナンナはウルク古拙文書(前3000年ころ)に,またイシュタルはエシュダルEshdarという古名で古アッカド時代の文書に既に検証される。イシュタル(イナンナ)をアヌ(アン)の子とする伝承のほか,エンリルの子とする伝承もあり,その系譜は不明。固定した夫をもたず,一時の夫または愛人を次々に見捨てる女神として有名で,愛と豊穣の神としてばかりでなく,戦闘の神,天体(金星)の神としても知られる。神話では,イナンナとエンキ(エンキからメを奪う話,シュメール語),ドゥムジと組み合わされたイナンナ(イシュタル)の冥界下りの物語(シュメール,アッカド両語)が有名。象徴は古くは葦を束ねたもの,後には八角の星。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イシュタル」の意味・わかりやすい解説

イシュタル
Ishtar

バビロニアの女神。ギリシア神話ではアスタルテ,シュメール語ではイナンナと呼ばれる。新石器時代以後,西アジアに広く信仰された。豊穣神かつ好戦的軍神。天神アヌあるいは月神シンの娘で,太陽神シャマシュと死神エレシュキガルの妹の地位を与えられ,メソポタミアのほとんどすべての都市の守護神の配偶者として崇拝された。『ギルガメシュ叙事詩』では,英雄ギルガメシュに愛を求めて拒否され彼を殺そうとするが,彼とその友人エンキドゥの抵抗によって果たせずに終わった。ギリシア神話に影響を与えているイシュタル・タンムズ神話のヒロインで男神タンムズを愛人とする。のちに,西アジア各地の新石器時代遺跡からテラコッタのイシュタル神像が多数発掘されている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イシュタル」の意味・わかりやすい解説

イシュタル
いしゅたる
Ištar

古代メソポタミアのアッシリア・バビロニア地方で崇拝された女神。南セム人の男神アスタルと関係があると思われ、後代には西セム人のフェニキアで、アシュタルテの名で崇拝された。ギリシアの女神アフロディテともなんらかのつながりがあると考えられる。この女神はシュメールの女神イナンナ(シュメール語でニン・アンナ、「天神の奥方」の意)を引き継ぐもので、天体神としては天神アヌの娘である金星を表すものとされた。南メソポタミアのウルクが、イナンナ=イシュタル崇拝の中心地であり、ここにはこの女神に捧(ささ)げられた神殿があった。アッシリア・バビロニアの『タンムーズ神話』の、たとえば『イシュタルの冥界(めいかい)下降』では、冬に死んで春によみがえる植物神タンムーズ(シュメール語でドゥム・ジ・アブズ、「深淵の真の子」の意)を追いかけて冥界まで下る地母神的な女神として表されているが、他方『ギルガメシュ叙事詩』では、英雄ギルガメシュを誘惑して拒否されると、激怒して戦いを引き起こすという戦闘的な女神が描かれている。このように愛と豊饒(ほうじょう)の守り神であるとともに、男性的な戦士の性格をもつ女神であった。

[矢島文夫]

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百科事典マイペディア 「イシュタル」の意味・わかりやすい解説

イシュタル

バビロニアの女神。シュメール名イナンナInanna。カナンのアスタルテ,ギリシアのアフロディテ,ローマのウェヌス(ビーナス)などに相当する,愛と豊穣,また戦闘と金星を司る神。
→関連項目ギルガメシュ叙事詩守護霊シンビーナス

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「イシュタル」の解説

イシュタル
Ishtar

古代メソポタミアの大母神。美と愛と戦いの女神。オリエントで最も古く最も広く信仰される。イシス,アスタルテ,アフロディテなどと同系の地母神信仰のメソポタミア型。

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旺文社世界史事典 三訂版 「イシュタル」の解説

イシュタル
Ishtar

バビロニア・アッシリアの豊穣・愛欲・戦争をつかさどる女神
アッシリアの勢力増大にともなって各地に広がり,セム語族系民族の神話にも影響を与えた。シリアのアシュタルテ女神,ギリシアのアフロディテの原型とされる。

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世界大百科事典(旧版)内のイシュタルの言及

【アスタルテ】より

…古代セム人の豊穣多産の女神。バビロニアではイシュタル。旧約聖書ではこの女神の豊穣儀礼を批判して〈恥〉の母音を読み込んだアシュトレト,またはアシュタロト(複数形)。…

【ウシ(牛)】より

…そのアピス牛は彫刻として残っているが,新月形の角をもち角の間に満月をはさみもっている。バビロニアの月神シンもまた2本の牛角をもち,セム系の大地母神のイシュタルは雌牛の姿で表現されることもある。は満ち欠けする点で,死と成長を象徴するとともに,女性の月経のリズムとも合致する。…

【エタナ】より

…古代バビロニアの伝説上の王。人間界に支配者がいないため,混沌としているのを見かねた女神イシュタルは,エタナの妻に子が生まれて王となるよう,豊穣の薬草を天から取ってくることを許してやってくれと,主神シャマシュに祈る。シャマシュはエタナに,山の鷲に乗せてもらって天へ昇れ,と告げる。…

【木】より

… インドでは,樹液は地母神の乳であり,すべての女性の乳房を満たし,すべての木を流れ果実をみのらせる〈ソーマ〉あるいは〈アムリタ〉である。古代西アジアでは大地の女神イシュタルの恋人は植物神たる木で,女神と木の聖婚(ヒエロス・ガモス)によって,大地は春の再生と冬の種子ごもりを繰り返す。古代ローマでも,大地と豊饒の女神キュベレは,アッティスと聖婚し,これを殺して松に変える。…

【ギルガメシュ叙事詩】より

…こののち2人は杉の森の怪物フンババḪumbaba征伐に行き,やっとのことでフンババを倒した。美の女神イシュタルはギルガメシュの雄々しさを見て,夫になってくれるよう頼むが,ギルガメシュはこの女神の移り気を知っているので,あざけってその願いを退けた。イシュタルは怒り,父の天神アヌに〈天の牛〉をウルクへ送ってここを滅ぼすよう求める。…

【聖婚】より

…J.G.フレーザーによると,キプロスにおけるこのような儀礼は,地母神をまつるすべての神殿に共通にみられ,女性は神殿において,しばしば神にみたてた見知らぬ客人に処女を捧げる役割を演じたという。 地母神の名は地域によって変化し,キュベレ(小アジア),イシュタル(バビロニア),イシス(エジプト),アフロディテ(ギリシア),アスタルテ(フェニキア)など呼称は大きく相違しているが,基本的性格はまったく変わらない。バビロニアにおいては,すべての女性はイシュタルの神殿に参籠し,貧富の別にかかわりなく,生涯に一度見知らぬ客人に身を任せ,そこで得た報酬を地母神に奉献することが義務づけられていた。…

【ドゥムジ】より

…アラム語文献や旧約聖書ではタンムズTammuzの名で呼ばれた。牧夫エンキドゥと争ってイナンナ(イシュタル)の愛を勝ちとりその夫となる神話,冥界に下り再び地上に戻ったイナンナの身代りとして冥界に送られ人々を悲嘆にくれさせる神話などが知られる。また王がドゥムジの役を,女大祭司(ときには王妃?)がイナンナの役を演じて豊穣を祈願する聖婚の儀式も行われていたと思われる。…

【ビーナス】より

…これはもとは総計400行以上あったと推定される複雑な構成をもつ物語で,イナンナが冥界に下りて地上に戻れなくなり,ドゥムジ(ここではイナンナの夫)が身代りに冥界に連れてこられ,それを求めてドゥムジの姉ゲシュティンアンナが冥界へ下るというテーマを含んでいる。この神話はバビロニア,アッシリアへ伝えられ,アッシリア語文書《イシュタルの冥界下り》では,女神イシュタルが男神タンムズ(シュメールの〈ドゥムジ〉がなまったもの)を探し求めて冥界へ下る物語(約140行)となっている。イナンナ=イシュタルを地母神,ドゥムジ=タンムズを大地の所産である植物の神とする見解に従えば,冬季に入って地下に消えた植物神を母である女神が探し求めるという神話とみなすことができる。…

【指輪∥指環】より

… いうまでもなく,結婚指輪はもっと多様な呪術的意味を暗示する。バビロニア神話における愛と豊饒の女神イシュタルが左手に指輪をはめていることから,〈多産・豊饒〉の祈りをそこに読みとることもできる。しかし主たる意味はやはり〈誠実・貞節〉の誓いであろう。…

※「イシュタル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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