翻訳|caldera
大型の火山性円形くぼ地をいう。原義はスペイン語で大鍋。地下からマグマが上昇する通路(火道)が地表に開口する部分(火口)は縁が崩落してすり鉢状になり,火道の直径より大きいのが普通である。しかし,縁の崩落によって直径2km以上になることはまれであるため,直径2km以上の火山性のくぼ地は他の営力で生じたものと考えられており,このような大型の円形くぼ地を火口と区別してカルデラと呼ぶ。多くの場合,カルデラは急な崖で取り囲まれている。その内部は平たんな場合もあれば,後カルデラ火山(中央火口丘)などが生じている場合もある。また内部に水を蓄えた場合(カルデラ湖)もある。カルデラの大きさは,地球上では直径約2~数十kmである。月や火星や金星の表面には,もっと大きな,径200kmを超える円形くぼ地が存在しており,その多くは隕石が衝突してできた隕石孔(クレーター)であるが,火山活動によって生じたものも少なくない。それらはカルデラと呼ばれることもあるが,隕石孔と区別せずクレーターと呼ばれることが多い。
地球上のカルデラは次の3種に大別される。
(1)浸食カルデラ 火口が長年月の浸食作用により拡大されて生じた円形ないし馬蹄形のくぼ地(たとえば天城山)。
(2)爆発カルデラ 大規模な水蒸気爆発により山体の一部が崩壊して生じた馬蹄形のくぼ地(たとえば磐梯山,鳥海山)。
(3)陥没カルデラ 大規模なマグマの噴出に伴って火口周辺が陥没して生じたくぼ地。
陥没カルデラは,さらに次のように細分される。(a)キラウェア型カルデラ ハワイのキラウェア火山の山頂カルデラ(3km×4km)がその例で,玄武岩質の流動性に富んだ溶岩が側噴火により多量に流出した直後に山頂部が陥没して生じる。山頂直下3~4kmに存在するマグマ溜り内部にあったマグマの一部が側方に流出するため天井部が陥没するもので,溶岩は必ずしも山頂火口から流出する必要はない。たとえば伊豆大島では,約1300年前に起こった大噴火により大島火山の山頂部が陥没し,5km×4km,深さ300m以上のまゆ形のカルデラを生じている(なお,その後の噴火によってカルデラ底は溶岩で埋められ,中央火口丘の三原山が成長した)。(b)じょうご形カルデラ 軽石や火山灰の大規模な噴火に伴って火口周辺が陥没して生じる。日本にある大型カルデラのほとんど全部はこの型に属する。クラカタウ型カルデラあるいはクレーター・レーク型カルデラと呼ばれていたものの多くが含まれる。デイサイト質や流紋岩質のケイ酸SiO2に富むマグマの大規模な噴出に伴って生じるもので,噴出物の一部分は高度に発泡し,軽石や火山灰として火口から放出される。その量が数km3以下の場合は直径数km以下のじょうご状の開口を生じ,開口部はそののちカルデラ壁が崩壊し後退するため直径が著しく増大する。この種の小型カルデラでは,火口縁の陥没の積極的な証拠が認められない場合が多く,大型の火口へ移行するタイプといえる(たとえば北海道濁川カルデラ)。噴出物が10km3を超えると明りょうな円形くぼ地を生じ,屈斜路,支笏,洞爺,十和田,阿蘇,姶良(あいら)の各カルデラのように直径が10~20km程度の規模となる。大型カルデラに伴う噴出物の量は100km3を超えるが,その大部分は火砕流としてカルデラ周辺の広大な地域に堆積する。また,火砕流噴出に先行して大規模な降下火砕堆積物を生じる場合が多い。たとえば約2万2000年前に生じた姶良カルデラ(直径20km。鹿児島湾奥部)の周囲には厚さ最大200mの軽石質火砕流堆積物が3000km2の面積を覆い,シラス台地を形成している。噴出した火山灰のうち細粒の部分は1200km以上離れた地点にまで到達し,東京でも,厚さ10cmの火山灰層として現在でも観察される。(c)バイアス型カルデラ じょうご形カルデラより一般にさらに大型のカルデラで,ピストンシリンダー状の陥没構造をもつ(図)。地下数km以浅に天井をもつ大型のマグマ溜りの真上に環状の割れ目が生じ,そこから大量のフェルシックマグマが地表に噴出する。じょうご形カルデラの場合と同様,広い地域を火砕流堆積物が埋めつくす。マグマ溜りの頂部が空になり,天井が環状の割れ目に沿って陥没しカルデラを生じる。直径は20kmかそれ以上のものが多く,アメリカのイェローストーン国立公園のものは2個のカルデラが連なって75km×50kmの面積が陥没している。カルデラ形成後さらにマグマの圧力が増加すると,ピストン状の陥没ブロックを押し上げる(これを再生コールドロンという)。またマグマが環状割れ目などに沿ってカルデラ内に噴出し,後カルデラ丘(溶岩円頂丘など)をつくることが多い。バイアス型カルデラはアメリカ西部に多く知られているが,日本の第四紀火山地域には知られていない。
カルデラ湖などの火山景観が日本の自然環境の主要なハイライトの一つになっており,後カルデラ火山の生成はカルデラの景観をいっそう美しくしている。一方,カルデラ生成の際発生する高温の火砕流は広範囲に広がるため大災害をもたらす可能性がある。日本では歴史時代にそのような大災害は起きていないが,インドネシアでは1883年クラカタウ・カルデラが大噴火し数万人の死者を生じた。しかし日本でも大型カルデラの生成は数千年に1個の割合で起きており油断はできない。また過去に噴出した火砕流堆積物は,鹿児島湾沿岸のシラス台地のように農業や交通に大きな制約を与える要因となる場合がある。
執筆者:荒牧 重雄
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火山地域に存在する直径1.5キロメートル以上の窪地(くぼち)。地下に空洞ができて陥没した結果生じる陥没カルデラ、火山爆発で火口壁や火道上部が大規模に吹き飛ばされて生じるじょうご形の爆発カルデラ、火山体が崩壊して生じる馬蹄(ばてい)(U字)形の崩壊カルデラなどがある。このほかに、火山活動に直接関係なくてできる侵食カルデラもある。スペイン語で鍋(なべ)の意で、カナリア諸島の火山島の窪地に名づけられたのがおこりである。世界のおもなカルデラは、大噴火、とくに大規模な火砕流が発生し、多量のマグマが一挙に噴出された直後、山頂部が陥没して生じた陥没カルデラである。日本で最大の屈斜路(くっしゃろ)カルデラや阿蘇(あそ)カルデラなども陥没カルデラと考えられる。2000年(平成12)の三宅(みやけ)島噴火では、地下でマグマが移動したために、火山体の中に空洞ができて陥没カルデラが生じた。
[諏訪 彰・中田節也]
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(井田喜明 東京大学名誉教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…台地の中央部にはふつう,大噴火のあとに陥没してできたカルデラ(陥没カルデラ)が見られる。
[カルデラ]
火山体の中央部にあって,火口よりはるかに大きいくぼみをカルデラcalderaといい,爆発によるもの,浸食によって火口が広がったもの,火山体の一部が陥没してできたものなどがある。とくに火砕流の発生を伴う大噴火のあとにできた陥没カルデラが多い。…
…高温岩体系では水の流れる割れ目が少ないので,人工的に水を圧入して割れ目を作り,水を流して高温岩体の熱を地表に取り出す技術開発が進められている。アメリカのニューメキシコ州バイヤス・カルデラでの実験は有名。富山県黒部川上流の仙人谷は小規模ながら日本の高温岩体系である。…
…単に地球内部から地表へマグマが噴出する地点という意味にも火山ということばが使われる。火山の大多数は火口周辺に火山噴出物が堆積した結果として形成されるが,カルデラやマールのように陥没や爆発などにより既存物質が失われてその形態ができたものもある。現在われわれが見る火山体の地形は,その構造が形成される途中,あるいは完成後の浸食の途中の一段階を示している。…
※「カルデラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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