〈糊付け〉を意味するフランス語で,20世紀に現れた美術の一技法およびその作品を指す。1912年にピカソやブラックが新聞紙の断片,壁紙,レッテル,切手,マッチ箱などを画面に貼り付けたもの,すなわちパピエ・コレpapier collé(〈糊付けされた紙〉の意味)が最初の作例である。これ以前にも,題名や署名を書いたラベルをあたかも貼り付けられているかのように描く(トロンプ・ルイユ)ことが行われていたが,それはあくまでも実際に描かれたものであった。ところがキュビストたちはほんものの新聞紙などを二次元の絵のなかに導入したのである。この段階を〈総合的キュビスム〉の時期と呼ぶ。ごく卑近な,日常的な現実の物体が断片ながらコラージュされることで,画面のリアリティがあらたに問題とされるようになったわけである。現実の物体の画面への導入は非常に画期的なことではあったが,キュビスムのコラージュはいまだ二次元の画面に収まるパピエ・コレの枠内にとどまっていた。しかし,三次元的な物体を寄せ集めて画面にくっつけて立体的作品が構成されるようになり,それにもコラージュの語が適用されるに及んで,コラージュは後のアッサンブラージュにつながる概念をになうようになる。20年代以降イタリア未来派やダダ,シュルレアリスムにあっては,二次元平面のパピエ・コレおよび三次元的な物体のコラージュの両方の意味でのコラージュが,カラ,セベリーニ,ハウスマン,レイ,エルンスト,ミロらにみられるし,シュウィッタースの《メルツ絵画》《メルツ彫刻》もその一例と言ってよいものである。コラージュは20世紀美術の生み出した幾多の技法の中でもとくに重要なものであり,今にいたるまで広く用いられている。また写真やデザインなど,美術の周辺領域でも使われていることも言うまでもない。コラージュはまた,デコラージュdécollage(はがす),デクーパージュdécoupage(切りとる),デシラージュdéchirage(引き裂く)などの技法を派生させた。
→フォトモンタージュ
執筆者:千葉 成夫
既成曲を引用した音楽。しかし古典曲にみられるそのような表現とは区別すべきだろう。こうした用語は1960年代になって登場してきたもので,もともとは美術用語からの転用である。たとえばL.フォスの《バロック変奏曲》では,第1楽章ではヘンデルの合奏協奏曲,第2楽章ではスカルラッティのソナタ,第3楽章ではバッハのパルティータの断片を引用して奏する。それに弦楽器のグリッサンドなどの現代的な手法を重ねたりして,集積し,コラージュしながら,原曲をまったく異なった世界へとかたちづくる。プースールとアンチ・ロマンの作家ビュトールの協作によるオペラ《あなたのファウスト》(1967)では〈ただの1音といえども引用によらないものはない〉(作曲者)といわれ,コラージュ・オペラと呼んでいいものだろう。モーツァルト,モンテベルディ,グルック,ビゼー,ベルディ,ワーグナーらの古典曲から,ウェーベルン,ブーレーズらの現代曲にいたるまで,多様な引用によるコラージュ形式のオペラを試みている。20世紀初頭のアイブズの《弦楽四重奏曲第2番》(1913)をはじめとする数多くの作品は,こうした傾向をすでにみせており,賛美歌や民謡,チャイコフスキー,ブラームスなどの古典曲が引用,コラージュされている。ケージの《クレド・イン・US》(1942)では,器楽演奏とともに,レコードにより既存の音楽をコラージュする。
1948年にシェフェールによって創始された現実音を録音テープの上に構成し,モンタージュしていくミュジック・コンクレートの手法による音楽も,一種のコラージュ音楽といえよう。またシュトックハウゼンのテープ音楽《ヒムネン》(1967)では40にちかい国歌をコラージュし,電子音響で変調されていく。この場合,断片の集積ということでは,むしろコンバインド音楽,あるいはアッサンブラージュ音楽と称したほうが,より適切だろう。事実,こうした呼び方もされることがある。たとえば落語やポピュラー音楽などの素材を重ねている一柳慧の電子音楽《Tokyo1969》はアッサンブラージュの音楽,《乙女の祈り》を引用し,それを断ち切る現代的なスタイルの音楽との交互の展開がみられる松平頼暁のコンボのための《オルタネーション》(1967)は,コラージュ音楽と呼ぶべきかもしれない。
執筆者:秋山 邦晴
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現代絵画技法の一つ。本来「糊(のり)付け」を意味するが、1912年にピカソやブラックが画面上に種々のものを貼(は)り付けたこと(パピエ・コレ)に始まる。現実の物体の導入という画期的な技法の発明であり、キュビスムではまだ紙などを貼り付けるだけで、二次元の絵画からはみだすことはなかった。しかし次いでダダのクルト・シュビッタース、ラウール・ハウスマン、マン・レイら、イタリア未来派のカルロ・カッラ、ジーノ・セベリーニら、シュルレアリスムのマックス・エルンスト、ホアン・ミロらがさまざまな物体を寄せ集めて立体的な作品を実現するに至り、コラージュの概念は拡大され、これが第二次世界大戦後のアッサンブラージュにまでつながってゆくことになった。コラージュは20世紀美術技法上最大の発明の一つで、美術ばかりでなく写真やデザインなどの分野にも多大の影響を与えているが、なによりも現実の物体の導入によって従来の美術作品の概念を根底から変えた点に、最大の意味が求められる。
[千葉成夫]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…〈集合,集積,寄集め〉を意味するフランス語で,さまざまな物体を寄せ集めて美術作品を制作する技法およびその作品を指す。コラージュとアッサンブラージュの違いは,ひとつは歴史的に前者が第2次大戦以前のものである点,もうひとつは語の原義から前者は糊付けた(貼り付けた)もの,後者は寄せ集めて集積したものとの意味からかけ離れた使い方はできないという点にある。したがって,前者は基本的には二次元平面上に現実の物体を貼り付けることを指し,後者は二次元,三次元を問わず,物体を寄せ集めることを指す。…
…1914年ケルンでアルプと出会う。19年互いに関係のない写真や印刷物を貼りあわせて意外な視像を現出させる〈コラージュ〉を試み,ケルンでダダ運動をおこす。翌年ブルトンらと交友し,やがてシュルレアリスムに加わる。…
…〈分析的〉段階では対象が線と面の要素に解体されて色彩が抑制され,無味乾燥な抽象化の道をたどるが,その一方,絵画は三次元的空間の再現を捨てて一個の自立的存在としての新しい価値を獲得する。〈総合的〉段階では絵画に現実性と日常的な親しみを回復する努力がなされ,トロンプ・ルイユ,新聞紙やラベルを画面に貼りつけたパピエ・コレpapier collé(コラージュ)が導入され色彩も徐々に復活された。ここでは前段階で十分に吟味された色彩,形態,空間,対象の解体によって得られた象徴的言語,といった個々の造形的要素が,意図された構想を達成するために〈総合〉された。…
…しかし木口木版画の芸術性についてはビウィック,W.ブレーク,E.カルバート,ラファエル前派の一部,H.ドーミエ,G.ドレ,V.ユゴーなどの作品のほかにはみるところが少ない。しかし,この実用的な木版画の切抜きの中から20世紀にはM.エルンストの超現実的なコラージュがつくられたことも付記しておこう。芸術的な退潮期にあった木版画を世紀末のジャポニスムの刺激の下に再生させたのはE.ムンク,P.ゴーギャン,F.É.バロットンらであった。…
※「コラージュ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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