セリウム

精選版 日本国語大辞典 「セリウム」の意味・読み・例文・類語

セリウム

〘名〙 (cerium)⸨セリューム・セリオム⸩ 希土類ランタン系元素の一つ。元素記号 Ce 原子番号五八。原子量一四〇・一一六。鉄灰色、鋼状の金属。六方晶系のα(アルファ)型と等軸晶系のβ(ベータ)型の二つの変態がある。一八〇三年、スウェーデンのJ=J=ベルセーリウスが発見(同年、ドイツのM=H=クラプロートも発見)。その当時発見された小惑星セレスCeres)にちなんで命名。展延性にすぐれ、押出し、圧延などの加工ができる。ライターの発火石はセリウムと鉄との合金で、非鉄合金の合金元素などに用いられる。〔薬品名彙(1873)〕

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デジタル大辞泉 「セリウム」の意味・読み・例文・類語

セリウム(cerium)

希土類元素ランタノイドの一。単体は鉄のような灰色の金属で、希土類のうちでは最も多量に存在する。空気中でたやすく酸化され、無機酸によく溶ける。鉄との合金は摩擦によって発火するので発火合金として利用。1803年に発見され、名は前々年に発見された準惑星ケレス(セレス)にちなむ。元素記号Ce 原子番号58。原子量140.1。

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化学辞典 第2版 「セリウム」の解説

セリウム
セリウム
cerium

Ce.原子番号58の元素.電子配置[Xe]4f 15d16s2の周期表3族ランタノイド元素.希土類元素セリウム族の一つ.原子量140.116(1).質量数136(0.185(2)%),138(0.251(2)%),140(88.450(51)%),142(11.114(51)%)の4種の安定同位体と,質量数119~157の放射性同位体が知られている.1803年,J.J. Berzelius(ベルセリウス),M.H. Klaproth,W. Hisingerにより発見された.元素名は1801年に発見された小惑星セレス(Ceres)にちなんで命名された.セレスは農業収穫を司るローマ神話の女神である.
希土類元素中もっとも多く存在する元素で,モナズ石[CAS 1306-41-8]の希土類元素の約半分はCeである.セル石,ガドリン石などに含まれて産出するが,モナズ石とバストネス石[CAS 68909-13-7]が資源的に重要な鉱物である.地殻中の存在度33 ppm.わが国の酸化セリウム,セリウム化合物全輸入量13000 t(2005年度)のうち中国10000 t,ついでフランス1500 t.生産量は圧倒的に中国で,バストネス石,モナズ石混合鉱床をもつ内蒙古の白雲鄂博(Baiyun Obo)鉱山だけで,セリウムなど軽希土類を中心に世界の生産量の約半分を占めているが,確認埋蔵量の順位では中国約30%,ロシア諸国22%,アメリカ15% などである.鉱石を塩酸または硫酸で処理(バストネス石)するか,水酸化ナトリウムで処理(モナズ石)した後,ばい焼して Ceにして沈殿法または溶媒抽出法で分離する.塩化物などの溶融塩電解により灰色の金属が得られる.融点799 ℃,沸点3426 ℃.α,β,γ,δ(β→γ,168 ℃)の4変態があり,α,γ,δは立方最密構造,βは六方最密構造.密度α 8.24;β 6.749;γ 6.773;δ 6.70 g cm-3.標準電極電位 Ce3+/Ce -2.34 V,Ce4+/Ce3+1.71 V.第一イオン化エネルギー5.539 eV.酸化数3,4.希土類元素でCeのみが安定な酸化数4の状態をもつ.Ce4+ の電子配置は[Xe]である.空気中で容易に酸化される.熱水と反応して水素を発生する.Ce塩は無色のものが多いが,Ce塩は黄色~赤色.標準電極電位 Ce/Ce -2.34 V,Ce/Ce1.71 V.Ceは強い酸化剤酸化還元滴定に用いられる.Ceの化合物はランタンの化合物に似ていて,フッ化物,シュウ酸塩,炭酸塩,リン酸塩などが水に難溶.Ce4+ は,電子配置が同様に閉殻の Th4+(Rn)とイオン半径がほぼ等しく(Ce4+0.109 nm,Th4+0.108 nm),性質も似ている.たとえば,リン酸塩,ヨウ化物は,ともに4 mol dm-3HNO3に不溶.セリウムの酸化物はCeO2[CAS 1306-38-3]のほうがCe2O3[CAS 1345-13-7]より安定である.
わが国におけるセリウムの最大の用途は研磨材用で,酸化セリウム(Ⅳ)CeO2(セリア)の形で液晶ガラス研磨や半導体ウェファー研磨に用いられる.このほか,CeO2は自動車排ガス浄化用の3元触媒にアルミナとともに担体・助触媒や,UVフィルターガラス(自動車用ガラス)のUV吸収用添加剤,蛍光灯・CRT用蛍光体にも用いられる.そのほか,セリウムは高温用超合金酸化防止用,アルミニウム合金用,石油精製用触媒に添加される.毒性は高くないが,「セリウム及びその化合物」は大気汚染防止法の有害大気汚染物質に指定されている.[CAS 7440-45-1]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「セリウム」の意味・わかりやすい解説

セリウム
せりうむ
cerium

周期表第3族に属し、希土類元素のうちランタノイド元素の一つ。1803年、スウェーデンのベルツェリウスが同国産の鉱物(のちにセル石と命名)から発見し(ドイツのクラプロートも同年、独立に発見している)、1801年に発見されたばかりの小惑星セレス(ケレス)Ceresにちなんで命名した。希土類元素中でもっとも多量に存在する。主要鉱石はモナズ石、バストネス石、セル石など。工業的には、原料鉱石から硫酸塩として希土類元素の混合物を取り出し、分別沈殿その他の方法で分離する。セリウム(Ⅲ)は、他の希土類元素M3+イオンと異なり、4価に変えることができるので分離は比較的やさしい。金属またはミッシュメタル(軽い希土類元素、セリウム、ランタンなどの合金)を得るには塩化物の融解電解法が用いられる。

 鉄灰色の金属でスズより硬く亜鉛より軟らかい。α(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、δ(デルタ)の四つの変態があり、室温ではα型、263Kでβ型、γ型は730℃以下、それ以上ではδ型である。空気中で徐々に酸化され、粉末では約160℃で発火して強い光と熱を発し、酸化セリウム(Ⅳ)になる。熱水、酸に溶けて水素を発生する。フッ素とは四フッ化物、塩素、臭素とは三ハロゲン化物をつくる。化合物の酸化数は+Ⅲと+Ⅳが普通で、+Ⅲのものは無色であるが、+Ⅳのものは橙赤(とうせき)色である。後者は酸化作用があり、鉄(Ⅱ)の酸化剤としてセリウム滴定に用いられる。酸化物がガラスの色消し、研摩用に用いられるほか、触媒、ミッシュメタル(発火合金、鉄鋼用添加物)、磁性材など合金としての用途も広い。

[守永健一・中原勝儼]


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改訂新版 世界大百科事典 「セリウム」の意味・わかりやすい解説

セリウム
cerium

周期表第Ⅲ族に属する希土類元素の一つ。1803年ドイツのM.H.クラプロートおよびスウェーデンのJ.J.ベルセリウスが互いに独立にスウェーデン産の鉱石から新元素を発見し,これをベルセリウスはそれより2年前に発見された小惑星セレスCeresにちなんでceriumと命名することを提案し,これが一般に通用することになった。しかし後にこれは純粋なものではないことがわかり,これからさらにランタン,ネオジムなどが分離された。希土類元素中最も多量に存在する元素で,主要鉱石はバストネサイト,モナザイト,セル石,ガドリン石など。無水塩化物を塩化ナトリウムなどと融解塩電解するか,フッ化物を金属カルシウムなどで還元して得られる。灰色の金属。-150~-10℃で安定なα型(六方最密格子)と,-10~730℃で安定なβ型(面心立方格子)の2変態がある。展性,延性があり,スズより硬く,亜鉛より軟らかい。熱水と作用して水素を発生し,冷無機酸によく溶ける。化合物の酸化数はⅢとⅣで,Ⅲ価は通常無色で安定であるが,Ⅳ価は酸化剤(ただし酸化物ではⅣ価が安定)。金属は空気中(室温)で徐々に酸化され,160℃で発火し,著しい光と熱とを放つ。このため発火合金として用いられたが,最近では各種合金として,またセラミックス,超電導材料などに用いられる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「セリウム」の意味・わかりやすい解説

セリウム
cerium

元素記号 Ce ,原子番号 58,原子量 140.116。周期表3族,希土類元素ランタノイドの一つ。 1803年にイエンス・ヤコブ・ベルセーリウスとウィルヘルム・ヒンジンガーが,続いてマルチン・クラプロートがスウェーデン産のセル石からセリウムを発見し,1801年に発見された小惑星 (発見当時の分類。 2006年以降準惑星に分類) ケレス (セレス) にちなんでセリウムと命名した。モナズ石が主要な資源鉱物。地殻平均存在量 60ppm,海水中の存在量 0.0012 μg/l 。単体は鉄灰色で,展延性に富む金属。乾燥した空気中では安定であるが,湿気があると表面が酸化される。微粉は自然発光することもある。比重 6.75,融点 815℃。四価セリウム塩は黄色ないし橙色,三価セリウム塩は白色が普通である。四価セリウムは強酸化剤であり,三価セリウムの化学的性質は他のランタノイド元素と酷似している。ガスライター用フェロセリウム,アンモニア製造用の触媒として用いられる。

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百科事典マイペディア 「セリウム」の意味・わかりやすい解説

セリウム

元素記号はCe。原子番号58,原子量140.116。融点799℃,沸点3426℃。希土類元素の一つ。1803年クラプロートとベルセリウスが発見。スズよりかたく亜鉛より柔らかい金属で,空気中約160℃で発火。熱水に溶けて水素を放つ。酸によく溶ける。発火合金など各種合金としての用途大。希土類元素中存在量は最も多い。
→関連項目原子力電池

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