セレン(その他表記)selenium

翻訳|selenium

デジタル大辞泉 「セレン」の意味・読み・例文・類語

セレン(〈ドイツ〉Selen)

酸素族元素の一。灰色の金属セレンのほか、赤色の結晶セレン、赤色粉末の無定形セレン、黒色のガラス状セレンなどの同素体がある。地球上には硫黄に伴って広く存在するが、量はごく少ない。性質は硫黄に似る。ガラスの赤色着色剤や光電池整流器などに利用。元素記号Se 原子番号34。原子量78.96。セレニウム

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精選版 日本国語大辞典 「セレン」の意味・読み・例文・類語

セレン

  1. 〘 名詞 〙 ( [ドイツ語] Selen ) 硫黄族元素の一つ。元素記号 Se 原子番号三四。原子量七八・九六。無定形セレン、単斜(赤色)セレン、金属(灰色)セレンなど数種の同素体がある。一八一七年、スウェーデンのJ=J=ベルツェーリウスが発見。硫黄・硫化物に伴って産出し地球上に広く分布するが、量は少ない。工業的には硫化鉱物精錬時の副産物として得られる。空気中で青炎をあげて燃える。多くの元素とセレン化物をつくる。半導体・光電池・赤外線偏光子・合金元素などのほか、ガラスの脱色・着色、顔料の原料などに用いられる。セレニウム。

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改訂新版 世界大百科事典 「セレン」の意味・わかりやすい解説

セレン
selenium

セレニウムともいう。周期表第ⅥB族に属する酸素族元素の一つ。またカルコゲンの一つでもある。1817年J.J.ベルセリウスによって硫酸製造の鉛室泥中から発見された。名称は月を意味するギリシア語selēnēに由来する。先に発見された同族の元素テルル(〈地球〉にちなんで命名された)に伴って産すること,また燃焼するとき月光のような青みを帯びた光を放つことによって命名された。地殻中に広く分布するが,同族の酸素,硫黄に比べて量はきわめて少ない。独自の鉱石をもたず,銅,銀,金の硫化物鉱石中にセレン化物として微量(数ppm~数十ppm)含まれている。日本には比較的多量の遊離セレンを含む赤みのある自然硫黄が産する。

おもな同素体として,無定形セレン,単斜晶系セレン,灰色(金属)セレンがある。無定形セレンには,融解セレンの急冷による黒色(薄層では赤色)のガラス状セレンと,亜セレン酸塩の還元による赤色の粉末セレンがある。粉末セレンは二硫化炭素に可溶で,この溶液を72℃以下で蒸発結晶化すると深紅色のα形およびβ形の単斜晶系セレンが生成する。徐々に蒸発するとα形,速やかに蒸発すればβ形が得られる。二硫化炭素溶液中ではSe8分子として存在する。ガラス状セレン,粉末セレン,単斜晶系セレンを200~300℃で融解すると赤褐色となり,徐冷すれば灰色(金属)セレンが得られる。これは共有結合したセレンが無限らせん鎖構造をとっている。室温で安定,二硫化炭素に難溶。半導体であり,導電率が光の照射によって増加する光導電性が著しく,とくにオレンジ色,赤色に敏感である。

 化学的性質はいくつかの点を除いて硫黄に似ている。熱すると空気中の酸素と反応して二酸化セレンSeO2を生ずる。ハロゲン元素などの非金属元素,多くの金属元素と直接化合して,硫化物と性質の似ているセレン化物をつくる。金属セレン化物にはCdSe,ZnSe,HgSeなど,単体のセレンと同様に光導電性の大きなものがある。濃硫酸あるいは硝酸と熱すると侵される。水素化物であるセレン化水素H2Seは,金属セレン化物に酸を作用すると発生する悪臭のある有毒な気体である。二酸化セレンを水に入れると亜セレン酸H2SeO3溶液となり,これは亜硫酸より強い酸化剤である。亜セレン酸をさらに酸化するとセレン酸H2SeO4となる。セレン化合物には有毒なものが多いので取扱いには注意を要する。

日本では銅の製錬の際の副産物として回収される。セレンは粗銅に0.01~0.05%程度まで濃縮されており,銅を電解精製する際,陽極表面上の電解スライム中に残る。スライムは脱銅処理のあと高温で酸化焙焼され,二酸化セレンを揮発する。これをバッグフィルターなどで回収する。この回収煙灰を水に溶かすとセレンは亜セレン酸として溶出し,還元剤として二酸化硫黄ガスSO2を吹き込むことによって金属セレンを得る。

 H2SeO3+2SO2+H2O─→Se+2H2SO4

金,銀,銅などの不純物を除去するためには真空中約400℃で蒸留する。また亜セレン酸溶液としてからイオン交換樹脂を用いて精製する方法,硝酸ナトリウムと混合融解して不純物をこれに溶け込ませて除去する方法などがある。電子写真の感光面には99.999%の高純度のセレンが用いられる。

窯業では古くから用いられ,とくにガラス工業で脱色剤・着色剤として重用される。ガラスに鉄の酸化物が入ると緑色となるが,ごく少量のセレンを加えると脱色効果がある。またカドミウムとともにガラスに加えるとカドミウムレッドといわれる鮮やかな赤色ガラスが得られ,信号灯,表示灯などに用いられている。半導体としての性質を利用した整流器に多く用いられたが,現在ではゲルマニウムやケイ素を用いたものに取って代わられている。セレンの著しい光導電性を利用したものにゼログラフィー法による電子複写機がある。これは帯電したセレンの薄い膜の上に画像を投映すると,光の当たった部分は電気伝導度が大きくなって電荷が失われることを利用し,これに帯電したカーボン粉末をふりかけて像を写しとり,さらに紙に転写して加熱定着するものである。最近ではヒ素,テルル,硫黄,ゲルマニウムなどとともにセレンを多量に含むアモルファスカルコゲンガラス半導体の研究が盛んである。たとえばAs-Se-Teのガラス状膜をSb2S3膜とSnO2の膜で挟んで高電圧をかけておき,これに光像を結ばせると,光の当たった部分だけに電流が流れてSb2S3膜上に光像に対応した電荷の像が得られる。これを電気信号として外部にとり出すことによって,性能のよいカラーテレビの撮像管とすることができる。その他,合金,顔料の製造原料などにも用いられる。
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化学辞典 第2版 「セレン」の解説

セレン
セレン
selenium

Se.原子番号34の元素.電子配置[Ar]3d104s24p4の周期表16族非金属元素.原子量78.96(3).質量数74(0.89(4)%),76(9.372(9)%),77(7.63(16)%),78(23.77(28)%),80(49.61(41)%),82(8.73(22)%)の6種の安定同位体と,質量数64~94の放射性同位体が知られている.1817年スウェーデンのJ.J. Berzelius(ベルセリウス)により鉛室泥中からはじめて分離された.テルルがローマ神話の“地球の女神”を意味するラテン語tellusにちなんで命名されたことに対応して,ギリシア神話の“月の女神”Σεληνη(Selènè)seleneからseleniumと命名した.宇田川榕菴は天保8年(1837年)に出版した「舎密開宗」で,攝列紐母(セレニウム)としている.
地球上に広く分布しているが,その量は硫黄よりずっと少ない.少量は遊離の形で産出するが,おもに銅,銀,鉛,鉄の硫化鉱中に含まれて産出する.地殻中の存在度0.05 ppm.銅電解精錬でできる陽極スライムから,貴金属回収の際に副産物として得られる.日本のセレン生産量は世界主位で,銅精錬会社が生産している.セレンには種々の同素体が存在し,硫黄化合物に似た多くの無機・有機化合物をつくる.セレンを融点以上に加熱して冷却すると,赤色ガラス状の塊となるが,これは同素体の混合物である.この赤色ガラス状セレンを二硫化炭素かベンゼンに溶かし,72 ℃ 以下でゆっくり蒸発させると赤色の単斜晶系のα相セレンを生じ,72 ℃ 以上で急速に蒸発させると赤色の単斜晶系のβ相セレンが得られる.どちらもジグザグ環状 Se8 を含む.Se-Se0.234 nm.∠105.7°.密度4.4 g cm-3.赤色ガラス状セレンを150 ℃ 以上に加熱すると,熱力学的にもっとも安定で金属性を示す六方晶系の灰色セレンに変化する.らせん無限構造.Se-Se0.2373 nm.∠103.1°.融点217 ℃,沸点684.9 ℃.密度4.79 g cm-3.光伝導性がある.亜セレン酸水溶液をSO2で還元するか,セレン蒸気を急冷すると赤色の無定形同素体ができる.密度4.26 g cm-3.灰色セレンのような導電性がない.セレン融液を急冷すると黒色ガラス状セレンが得られる.密度4.285 g cm-3.もろく半透明,大環状構造を含む.室温で徐々に,高温で急速に灰色セレンにかわる.第一イオン化エネルギー9.752 eV.陽性の元素とは-2の酸化数で化合物(例:H2Se)を,陰性の元素とは2,4,6の酸化数で化合物(例:SeCl2,SeO2,SeO3)をつくる.普通,4および6の酸化数をとる.灰色セレンはH2Oと160 ℃ で徐々に酸化される.F2,Cl2,Br2,Sと直接反応する.希塩酸,希硫酸に不溶,酸化性の濃硝酸,濃硫酸に可溶.
ガラスに,鉄分による緑色を打ち消すためと熱線遮断の目的で添加される量が多い.そのほか,青色顔料,赤色顔料の原料,ゴム添加剤,ガラス・陶磁器の着色剤として使用されている.光の強度に応じて導電率が変化するため,光電池や光電管にも利用されている.新しい用途として,アモルファス・セレン利用のX線のデジタル検出装置などがある.乾式コピー機の感光体としての用途はほぼ消滅した.「セレン及びセレン化合物」は,PRTR法・第一種指定物質.経口クラス2(水質基準値0.01 mg L-1 以下).毒物劇物取締法毒物指定.水質汚濁防止法排水基準値0.1 mg L-1 以下.土壌汚染対策法特定第二種有害物質で土壌含有量150 mg/kg 以下.大気汚染防止法 有害大気汚染物質.[CAS 7782-49-2]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「セレン」の意味・わかりやすい解説

セレン
せれん
selenium

周期表第16族に属し、酸素族元素の一つ。俗称セレニウム。1817年、スウェーデンのベルツェリウスが硫酸工場の鉛室泥中の赤色物質から発見し、ギリシア語の月を意味するseleneにちなんで命名した。すでに発見されていたテルル(ラテン語で地球の意味)との対応によるものといわれ、また、燃えるとき月光に似た青白い炎をあげることによったともいわれる。

 単体で産出することはほとんどなく、金属のセレン化物として硫化物に伴って産出することが多く、これら金属製錬の副産物として得られる。たとえば、銅の電解精錬のときの陽極泥をソーダ灰とともに焼いて亜セレン酸ナトリウムとして分離し、二酸化硫黄(いおう)で還元しセレンを得る。粗セレンは水素中で熱してセレン化水素とし、これを1000℃に強熱して分解すると純セレンが得られる。さらに純度の高いものは帯域融解法で得られる。市販のガラス状セレンを加熱してからゆっくりと冷却すると灰黒色の金属セレンが得られ、二硫化炭素溶液から結晶させると赤色の結晶セレンが得られる。

 酸素中では青色の炎をあげて燃え二酸化セレンとなる。金属セレンに光を当てると著しく導電性を増し、遮るとただちにもとに戻るので、光電装置として用いられる。電子写真用、感光材料、コピー機(複写機)に用いられる。またガラス工業での脱色、着色剤、整流器として広く用いられるほかに、顔料、薬品、触媒、ゴム硬化剤、マグネシウム合金防食用などに用いられる。セレンおよびセレン化合物は有毒である。

[守永健一・中原勝儼]



セレン(データノート)
せれんでーたのーと

セレン
 元素記号  Se
 原子番号  34
 原子量   78.96±3
 融点    金属セレン,217℃
       結晶セレン,144℃
 沸点    684.9℃
 比重    金属セレン,4.79
       結晶セレン,4.4
 結晶系   金属セレン,六方
       結晶セレン,単斜
 元素存在度 宇宙 70.1(第28位)
          (Si106個当りの原子数)
       地殻 0.05ppm(第66位)
       海水 0.2μg/dm3

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百科事典マイペディア 「セレン」の意味・わかりやすい解説

セレン

元素記号はSe。原子番号34,原子量78.971。元素の一つ。1817年ベルセリウスらが発見。同素体が多く,金属セレンは灰色で,融点220.2℃,沸点684.9℃。二硫化炭素に微溶。結晶セレンは比重4.4,融点170〜180℃,準安定で金属セレンに変わりやすい赤色結晶。二硫化炭素に可溶。ガラス状セレンは比重4.2〜4.3,黒色固体。二硫化炭素に難溶で60〜80℃で金属セレンになる。セレンの化学的性質は硫黄に似る。広く存在するが量は少なく,硫化物に伴って産し,銅の電解精錬などの副産物として得られる。光学特性をもつ半導体材料として,セレン光電池が露出計などに用いられるほか,コピー機用の感光材料として重要。ガラスの着色剤や顔料などにも使用。
→関連項目セレン整流器ゼログラフィー光電池

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「セレン」の意味・わかりやすい解説

セレン
selenium

元素記号 Se ,原子番号 34,原子量 78.96。周期表 16族,酸素族元素の1つ。 1817年に J.ベルセーリウスによって発見された。地殻存在量 0.05ppm,海水中の存在量 0.090μg/l 。硫化鉱に伴われて産出するので,硫酸製造,銅製錬工業の煙塵や電解槽の陽極泥などが主要原料であり,正鉱石はほとんどない。単体には多くの同素体があるが,定融点を示すものは赤色セレンだけである。液体は褐赤色,685℃で沸騰し,暗赤の蒸気を出す。水酸化アルカリ溶液,シアン化カリウム溶液,亜硫酸カリウム溶液に可溶。空気中で燃焼し,特有の腐敗臭を発する。酸化数-2,4,6。赤ガラス製造用,整流器,セレン光電池,半導体,電池,ゴムの加硫剤,有機化合物の脱水素などに使用される。ある種の有機セレン化合物は写真の増感剤となる。

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漢方薬・生薬・栄養成分がわかる事典 「セレン」の解説

セレン【Selen】

微量ミネラルのひとつ。元素記号はSe。過酸化脂質を分解する強力な抗酸化作用をもつミネラル。魚介類、肉類、穀類などに多く含まれる。活性酸素など酸化物質を処理する作用をもつほか、有害物質の毒性除去、免疫力向上、ビタミンE吸収の促進、精子の合成、感染症・がんの予防、動脈硬化症などの生活習慣病予防などに効果があるとされる。

出典 講談社漢方薬・生薬・栄養成分がわかる事典について 情報

食の医学館 「セレン」の解説

セレン

抗酸化作用があり、老化やがん、動脈硬化を防ぎます。精子の形成、有害金属の毒性弱化、免疫強化にも関与しています。不足するとフケや抜け毛がふえ、老化の進行や発がんのリスクが高まります。ワカサギ、イワシ、カレイ、ホタテガイ、ネギ、カキ、玄米などに多く含まれています。成人1日あたりの推奨量は男性30μg、女性25μg、上限は男性400~460μg 、女性330~350μgです。

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栄養・生化学辞典 「セレン」の解説

セレン

 原子番号34,原子量78.96,元素記号Se,16族(旧VIa族)の元素.微量必須元素の一つで,過酸化物を分解するグルタチオンペルオキシダーゼの構成元素.第六次改定日本人の栄養所要量では15〜29歳の男性で1日60μg,女性で45μgとされている.

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