日本大百科全書(ニッポニカ) 「チタン(元素)」の意味・わかりやすい解説
チタン(元素)
ちたん
titanium
周期表第4族に属し、チタン族元素の一つ。原子番号22、元素記号Ti。チタニウムともいうが、それは学術用語としては正式名称ではない。
[岩本振武]
歴史
1795年ドイツのクラプロートは鉱物ルチルから新しい金属元素を発見し、ギリシア神話のティタンTitanにちなんで命名した。のちに彼は、これが1791年イギリスのグレーガーWilliam Gregor(1761―1817)がチタン鉄鉱からすでに発見していた元素メナチンmenachin(発見地Menachanに由来する命名)と同一の元素であることを明らかにしたが、元素名としてはチタンが採用された。単体の金属は1825年スウェーデンのベルツェリウスがヘキサフルオリドチタン酸カリウムのカリウム金属還元によって得た。
[岩本振武]
存在と製法
地殻中に広く分布しており、ルチル、板チタン石、鋭錐石(えいすいせき)などの酸化チタン(Ⅳ)鉱物があり、砂鉄中にもチタン鉄鉱FeTiO3が含まれている。鉱石中の酸化チタンをコークス、木炭などの炭素および塩素で処理して塩化チタン(Ⅳ)とし、これを蒸留精製(沸点136.4℃)してマグネシウム還元すると金属チタンを得る。これを加熱して不純物を除くと、スポンジチタンとよばれる純度99.6~99.85%の金属となる。これをヨウ素と250~300℃で反応させてヨウ化チタン(Ⅳ)とし、その蒸気を熱分解すると99.96%程度の高純度チタンを得る。
[岩本振武]
性質と用途
単体金属は銀白色、常温では六方晶系のα(アルファ)形、882℃の転移温度で立方晶系のβ(ベータ)形に転移する。高純度金属には展延性があり、耐食性がある。通常の金属は冷時にもろく、容易に粉末化できる。炭素、窒素、酸素などの非金属元素不純物は加工性に大きく影響するので、融解、鋳造、熱処理などは真空中あるいはアルゴン気流中で行う。自重に対する機械的強度比は鉄の約2倍、アルミニウムの約6倍に達し、熱伝導率、熱膨張率が小さいので、航空機、船舶その他の軽量構造材に使われ、化学工業用耐食性容器にも利用される。耐海水性も高い。冶金(やきん)技術上の問題から高価格にはなるが、性能面ではとくに重要な金属材料となっている。
常温の空気中では安定であるが、25気圧の酸素中で自然発火し、新しい表面は常温でも自然発火する。窒素中でも800℃で燃え、窒化チタンTiNとなるが、窒素中で激しく燃焼する唯一の元素であるといわれている。酸化数+Ⅳ、+Ⅲ、+Ⅱの化合物が知られ、+Ⅳが安定であり、+Ⅲがこれに次ぐが、3価の化合物は一般に強い還元剤となる。
[岩本振武]