チタン(英語表記)titanium
Titan[ドイツ]

精選版 日本国語大辞典 「チタン」の意味・読み・例文・類語

チタン

[1] (Titan)
[一] ギリシア神話に登場する巨人の一族。ギリシア先住民から継承された原始の神々で、オリンポスの神々と戦い、敗れてタルタロスに落とされた。ウラノス(天)とガイア(地)とを父母とする。タイタン
[二] 土星の第六衛星。約一六日で土星を一周する。質量は地球の約五分の一で土星の衛星中最大。光度は八等。タイタン。
[2] 〘名〙 (Titan) チタン族元素の一つ。元素記号 Ti 原子番号二二。原子量四七・八六七。鋼に似た金属光沢をもつ灰白色の固い金属。一七八九年、イギリスのW=グレーガーが発見。天然にはルチル・板チタン石・鋭錐(えいすい)などの鉱物のほか、岩石・土壌中に酸化物として含まれ、広く存在する。空気中で安定、窒素中では激しく燃焼する。表面に酸化皮膜を形成し、海水などに対する耐食性にすぐれる。マグネシウムアルミニウムについで軽く、鋼のような強さをもち、加塑性、加工性が大のため、工業用材料とするほか、合金元素にも用いられる。チタニウム。〔稿本化学語彙(1900)〕

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デジタル大辞泉 「チタン」の意味・読み・例文・類語

チタン(〈ドイツ〉Titan)

チタン族元素の一。単体は銀白色の金属。軽くて硬く、耐食性・耐熱性にすぐれ、比強度は鉄の2倍、アルミニウムの6倍でほぼ炭素鋼に等しい。超音速航空機材・化学工業用耐食材などに利用。元素記号Ti 原子番号22。原子量47.88。チタニウム。

チタン(Titan)

ティタン

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改訂新版 世界大百科事典 「チタン」の意味・わかりやすい解説

チタン
titanium
Titan[ドイツ]

周期表第ⅣA族に属するチタン族元素の一つ。チタニウムともいう。イギリスのグレゴールW.Gregor(1761-1817)は1789年に,コーンウォール地方のメナカンMenachan産の砂鉄(チタン鉄鉱)中に新金属の存在を推定しメナチンmenachinと命名した。またドイツのM.H.クラプロートは94年にルチルから新元素を見いだし,ギリシア神話の巨人族ティタンにちなんでチタンと命名,97年にはメナチンと同じものであることを明らかにし,グレゴールのプライオリティを認めて,以後この元素がチタンと呼ばれるようになった。初めは金属をとり出すことができなかったが,1825年J.J.ベルセリウスがフルオロ錯塩を金属カリウムで還元して分離した。1925年,オランダのファン・アルケルA.E.Van Arkelがヨウ化チタンの熱分解法で比較的純粋なチタンをつくり,きわめてすぐれた性質をもつことが明らかにされてから,多くの研究が重ねられたが,高温で酸素や窒素,空気中の水分と結合しやすいため単体金属を得ることは困難であった。40年ドイツのクロルW.J.Kroll(1889-1973)が塩化チタン(Ⅳ) TiCl4のマグネシウム還元法,いわゆるクロル法を発明してから,炭素,窒素および酸素の含有量の少ない金属チタンが工業的に利用されるようになった。

古くは希元素に分類されていたが,地殻中の存在度が高く,しかもきわめて広く分布し,土壌中には酸化チタン(Ⅳ) TiO2として約0.6%含まれている元素である。自然界に存在する鉱石は,ルチル,板チタン石,アナターゼ(いずれもTiO2が主成分),チタン鉄鉱(イルメナイト),砂鉄(鉄とチタンの酸化物を含む)などである。なおアポロ11号が持ち帰った〈月の石〉にはチタンが10%余も含まれていることが判明し,注目を浴びた。

銀白色の金属。マグネシウム,アルミニウムに次いで軽く(比重4.50),展延性に富み,機械的性質にすぐれる。比強度(強度/比重)は普通鋼の約2倍,アルミニウムの約6倍もある。耐熱性もよく,500℃くらいまで降伏強さが高い。きわめて耐食性にすぐれ,酸,海水などに耐える。とくに海水に対しては白金と同程度で,これはチタン表面に形成される酸化皮膜によるものである。空気中では安定であるが,酸素中で強熱するとTiO2となる。ハロゲンと熱すると反応するが,酸には鉄よりも溶けにくい。

単体金属は前述のようにクロル法によって製造される。イルメナイトを原料とする場合にはあらかじめ鉄を分離する。これには,電気炉で鉄を還元してTiO2を主成分とするチタンスラグをつくる方法,硝酸で鉄を溶出する方法,選択塩素化によって鉄だけを塩化物として除去する方法などがある。クロル法では,まずTiO2を炭素とともに塩素ガスと反応させ,塩化チタン(Ⅳ) TiCl4とする。

 TiO2+2Cl2+2C─→TiCl4+2CO

次にTiCl4の不純物を蒸留法により除いた後,金属マグネシウムによって金属チタンに還元する。反応温度は約900℃である。

 TiCl4(気体)+Mg(液体)─→MgCl2(液体)+Ti(固体)

金属チタンはスポンジ状に生成し,付着している塩化マグネシウム,金属マグネシウムなどを真空で取り除いた後,真空中または不活性気体中で消耗電極式のアーク溶解法によってチタンインゴットにされる。さらに高純度のものを必要とするときには,チタンをヨウ素と250~300℃で反応させてヨウ化チタンとし,その蒸気を1100~1500℃で熱分解するヨウ化物法により,99.96%の高純度チタンをつくる。

軽量で強度が大きく,耐熱・耐食性にすぐれることから,強力合金として航空・宇宙産業関係に広く用いられる。日本では工業用純チタンとして化学工業プラント,とくに反応機器,熱交換器,バルブなどの耐食材料として用いられている。また電解用電極,火力発電用復水管,海水淡水化装置,公害防止装置,海洋開発機器などへの用途も広がり,単体またはニオブなどとの合金として超伝導材料にも利用されている。
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チタン
Titan

土星の第Ⅵ衛星。タイタンともいう。1655年,オランダのC.ホイヘンスによって発見された。土星の中心から122万1790km(土星半径の20.36倍)のところを,15.945452日で公転している。半径は2575km,質量は1.346×1026g(土星の2.367×10⁻4倍),太陽系で2番目の大きさをもつ衛星で,半径は水星より大きい。平均密度は1.88g/cm3と求められる。1944年,G.P.カイパーは分光観測によりメタンを発見し,大気をもつ衛星であることが知られた。80年,探測機ボエジャー1号はその大気の主成分(99%)が窒素であり,表面での圧力が1.5気圧に達していることをつきとめた。表面重力が地球の0.14倍であることを考えると,単位表面積当りの大気の量は地球の約11倍,全大気量は地球の約1.8倍であることがわかる。チタンは本格的大気をもつ唯一の衛星で,表面温度は-180℃と求められているが,厚い雲に覆われているため表面の状態は明らかでない。
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化学辞典 第2版 「チタン」の解説

チタン
チタン
titanium

Ti.原子番号22の元素.電子配置[Ar]3d24s2の周期表4族遷移元素.原子量47.867(1).安定同位体は46(8.25(3)%),47(7.44(2)%),48(73.72(3)%),49(5.41(2)%),50(5.18(2)%).質量数38~63の同位体核種が知られる.1791年イギリスのW. GregorがCornwall産の砂鉄中に鉱物ルチルを発見したが,1795年ドイツのM.H. Klaprothは,ルチルが新元素の酸化物であることを見いだして,ギリシア神話の巨神Titanにちなみチタンと名づけた.宇田川榕菴は天保8年(1837年)出版の「舎密開宗」で知担紐母(チタンニウム)と記載している.日本語の元素名はこの元素のドイツ名による.
希元素の一種と考えられてきたが広く分布している.地殻中の存在度5400 ppm.天然にはルチル(金紅石)TiO2,イタチタン石TiO2,鋭すい石TiO2のほか,イルメナイト(チタン鉄鉱)FeTiO3,ベロブスカイトCaTiO3,チタナイトCaO・TiO2・SiO2などとして産出するが,主要な工業原料はイルメナイトとルチルである.チタン需要の9割強を担うイルメナイト確認埋蔵量(1400百万t)は中国25%,南アフリカ,インドともに15%,オーストラリア11% の順である.製錬にはKroll法あるいはHunter法が用いられる.1930年代に開発されたKroll法は,炭素とともに赤熱したイルメナイトまたはルチルに塩素を通じて四塩化チタンを生成させ,これを分別蒸留により精製したのち,ヘリウムまたはアルゴン中で800~900 ℃ に加熱溶融した金属マグネシウムで還元する.反応生成物を1000 ℃ で真空蒸発し,MgとMgCl2を除去したのちに得られるものは海綿状で,スポンジチタンとよばれ,約99.5% のチタンを含む.スポンジをプレス成形後,溶接して電極とし,真空アーク溶解法によって溶解してインゴットとする.高真空下の電子ビーム溶解法,不活性雰囲気下のプラズマビーム溶解法も用いられる.還元剤として金属ナトリウムを用いるのがHunter法で,1910年にこの方法によりはじめて工業的に純金属が得られた.この方法によるスポンジは鉄,ニッケルなどの不純物が少ないため,電子工業用製品原料生産の小規模プラントのみが稼働しているが,大規模化によるコストダウンに適したKroll法にほとんど取ってかわられた.きわめて純度の高いチタンを得るには,ヨウ化チタンTiI4の蒸気を1300 ℃ のタングステンフィラメント上で分解するVan Arkel-de Boer法による.Kroll法はバッチ法で連続運転に適さない.金属チタンは銀灰色,α,βの2型があり,α型は六方晶系,転移点882 ℃ 以上で等軸晶系のβ型になる.常磁性.密度4.54 g cm-3(20 ℃).融点1660 ℃,沸点3287 ℃.強度,耐熱性,耐食性にすぐれ,熱伝導率,熱膨張率が小さい.金属結合半径0.145 nm,イオン半径0.081 nm(Ti3+,六配位),0.075 nm(Ti4+,六配位).第一イオン化エネルギー6.82 eV,酸化数-1,0,2~4.Ti化合物がもっとも多い.低温では安定であるが,高温では非常に活性となり,多くの非金属と直接化合する.空気中では室温でも徐々にきわめて薄い酸化皮膜をつくる.200~500 ℃ では温度上昇にともない皮膜が厚くなり,厚さに応じて褐色,濃青色,紫色などに変色する.さらに高温では表面がまず灰白色に曇り,銀白色,濃灰色層状に変化する.酸素中では610 ℃ で炎をあげて燃えTiO2となる.窒素とは800 ℃ 以上の温度で直接化合して窒化チタンTiNとなる.フッ素とは150 ℃ でTiF4を,塩素とは300 ℃ でTiCl4をつくる.ケイ素とも高温でTiSi2を生じる.粉末状チタンは水素を吸収する.多くの金属と合金をつくる.希塩酸,希アルカリには侵されないが,フッ化水素酸には [TiF6]3- となってよく溶ける.
金属チタンは比重が小さく(スチールの約半分),強度,耐食性にすぐれているので,石油および化学産業の配管,反応塔のほか,ジェットエンジン,航空機,潜水艦の構造材料などとして利用される.種々のチタン合金がつくられ,人工骨・関節,眼鏡フレーム,ゴルフクラブなどスポーツ用品に用いられる.金属としての需要は,わが国では全需要の1/10以下である.[CAS 7440-32-6][別用語参照]チタン化合物

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「チタン」の意味・わかりやすい解説

チタン
titanium

元素記号 Ti ,原子番号 22,原子量 47.867。周期表4族に属する。主要な天然鉱物はチタン鉄鉱およびルチル (→金紅石 ) であるが,工業的資源としてはチタン鉄鉱が主原料である。地殻に豊富に存在し,平均含有量 0.57%,海水中の存在量は1 μg/l 。 1795年ドイツの M.クラプロートによって発見された。チタンの精錬はクロール法が採用され,四塩化チタンをマグネシウムで還元する方法が主要なものである。単体は銀灰色の鋼に似た金属で,融点 1677℃,比重 4.5。炭素鋼と同程度の強度をもち,熱伝導率,熱膨張係数が小さく,電気抵抗が非常に大きい。耐食性にすぐれ,ほぼ 18-8ステンレス鋼に匹敵する。特に海水耐食性は白金に次いですぐれている。航空機,船舶などの構造材料,化学工業における耐食性容器材料などの用途があり,軍用機構造材料として重用されている。二酸化チタンはチタン白として用途が広い。

チタン
Titan

土星の最大の衛星。ティタン,タイタンともいう。1655年クリスティアーン・ホイヘンスが発見。平均光度は 8.4等,直径 5150km,公転周期 15日23時間15分32秒。太陽系の衛星中でも最大の部類に属する。地球よりも濃い大気が存在し,大気中には水分が含まれることが確かめられている唯一の衛星である。

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世界大百科事典(旧版)内のチタンの言及

【軽金属工業】より

…金属工業のうち,比重の比較的小さい金属,すなわち軽金属を扱う工業。軽金属には,アルミニウム,マグネシウム,チタン,ベリリウム,リチウムなどがあるが,とくにアルミニウムは鉄に次いで生産量が多く,軽金属の代表であるので,ここではアルミニウム工業を中心に述べる。
[アルミニウム]
 原鉱石(ボーキサイトなど)からアルミナAl2O3を製造する化学的工程と,その電解工程(アルミ1t当り約1万5000kWhを要する)の2過程を要する高度な電気化学工業で,その発達には苛性ソーダ,フッ化物,電力など関連工業の発達,高品位の原鉱石ボーキサイト(Al2O350%以上含有)と,豊富で安価な発電地帯を有することが条件となる。…

【土星】より

…望遠鏡の分解能がたりなかったため,耳のある惑星と記した。1655年C.ホイヘンスは衛星チタンを発見し,あわせて土星の耳が薄い平らな環であることを示した。環の面は土星の赤道面と一致しており,軌道面と26.゜73傾いているため,地球から見ると軌道上の位置によって開いたり消失したりする。…

※「チタン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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