ニホニウム(読み)にほにうむ(英語表記)Nihoniumu

デジタル大辞泉 「ニホニウム」の意味・読み・例文・類語

ニホニウム(nihonium)

超アクチノイド元素超ウラン元素の一。平成16年(2004)、日本理化学研究所の森田浩介らのチームが線形加速器亜鉛ビスマス原子を衝突させて生成に成功したと発表。ウンウントリウム(ununtrium、元素記号Uut)の暫定名で呼ばれていたが、2016年にIUPAC国際純正・応用化学連合)により正式名とされた。日本で初めて発見された元素として、同名称が採用された。元素記号はNh 原子番号113。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニホニウム」の意味・わかりやすい解説

ニホニウム
にほにうむ
nihonium

アクチノイド人工放射性元素の一つ。原子番号113、元素記号Nh。周期表第13族に属する。新元素として認定されるまでの暫定名称はウンウントリウムununtrium(暫定元素記号Uut)。2003年にアメリカとロシアの115番元素合成の共同研究の際に113番元素の生成を観測したとの最初の報告があったが、理化学研究所(理研)仁科(にしな)加速器研究センターの森田浩介(1957― )を中心とする研究グループが、亜鉛原子核をビスマス原子核に衝突させる実験を長期間継続して行い、2004年(平成16)に113番元素合成の成功例を報告した。その後、アメリカ、ロシアからも合成や観測の報告があったが、国際純正・応用化学連合(IUPAC:International Union of Pure and Applied Chemistry)と国際純粋・応用物理学連合(IUPAP:International Union of Pure and Applied Physics)の共同作業部会(JWP:Joint Working Party)は、理研森田グループの実験結果をもっとも確実な研究報告と評価した。IUPACは2015年12月に元素名提案権を理研森田グループに与え、2016年6月に理研が113番元素名称を日本国名にちなんでnihonium(ニホニウム)、元素記号をNhとする案を公表、2016年11月にそれらが確定した。

 日本にはニホンとニッポンの2通りの読み方があるが、1908年(明治41)に東北大学の小川正孝(まさたか)(1865―1930)が、事実上は当時未知だった第7族の75番元素レニウムを発見していながら、これもまた未知だった同族の43番元素と誤認し、それが一時期、留学先であったロンドン大学教授ラムゼーの薦めもあって、新元素ニッポニウムnipponium(元素記号Np)とされた歴史的経緯があった。それとの混同を避けるため、113番元素の名称はニホニウムとされた。ニホニウムはアジアで合成された初めての元素とされる。

 これまで質量数278、282、283、284、285、286の同位体報告例があり、いずれもきわめて短い半減期でα(アルファ)崩壊してレントゲニウムになる。

[岩本振武 2016年12月12日]


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知恵蔵 「ニホニウム」の解説

ニホニウム

理化学研究所仁科加速器研究センター超重元素研究グループが発見した113番元素の名称のこと。
113番元素は、2004年7月23日に初めて合成された。15年末に国際的に新元素として認定されて、国際純正・応用化学連合(IUPAC)からグループディレクターの森田浩介・九州大学大学院理学研究院教授宛に新元素認定が通知された。16年1月、命名権が正式に与えられ、日本化学会が提案した元素名と元素記号をIUPAが非公開で検討し、同年6月8日、「推奨される案」として名称案「ニホニウム」及び元素記号案「Nh」が発表された。
16年11月30日、IUPACは5カ月間の意見募集を経て正式に名称を決定した。元素記号についてもNhで確定した。アジアの国で誕生した初めての新元素として元素周期表に載る。
113番元素は、これまでウンウントリウムという仮の名称がつけられてきた。「ウン」は1、「トリ」は3を表す。元素記号はUut。IUPACがラテン語などから0~9に当たる文字を決めていて、規則通りに組み合わせる。 
IUPACによると、ニホニウムの名称は「日本」にちなんだもので、森田教授はこれまでに「日本の子どもたちが周期表を見た時に親近感を持つきっかけになるような名前を考えたい」などと話していた。
元素の名称はIUPACの定めたルールにより、「神話上の概念または人物(天体も含む)」「鉱物または類似物質」「場所または地理的領域」「元素の性質」「科学者」などの名前をもとに末尾に「-ium」と付けて命名することが決まっている。また、正式でなくとも1度つけられた名前は混乱を避けるため使うことはできないとされており、かつて43番元素に対していったんつけられ、後に発見は間違いと分かって取り下げられた「ニッポニウム」は使えなかった。
新元素がつくられた仁科加速器研究センターは埼玉県にあり、日本の量子力学や加速器研究に貢献した仁科芳雄博士にちなんだ施設である。亜鉛(原子番号30、陽子数30個)の原子核とビスマス(原子番号83、陽子数83個)の原子核を衝突させて融合させることで、113番元素(原子番号113、陽子数113)が合成できることは理論的に分かっていたが、原子核の大きさが1兆分の1センチメートルと小さいことと、衝突したとしても融合する確率が100兆分の1と小さいことから、実現は容易でなかった。仁科加速器研究センターでは、線形加速器RILAC(ライラック)と分離装置GARIS(ガリス)を用いて、原子核の融合と新元素の検出を試み、成功した。
森田教授はニホニウムの発見により16年度の日本学士院賞を受賞した。

(葛西奈津子 フリーランスライター/2016年)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニホニウム」の意味・わかりやすい解説

ニホニウム
nihonium

人工元素の一つ。元素記号 Nh。原子番号 113。2004年に理化学研究所仁科加速器研究センターの森田浩介(九州大学大学院理学研究院教授)らの研究グループが,亜鉛ビスマスに衝突させることで合成に成功した。このとき,4回の連続したα崩壊と,二つに分裂する自発核分裂が続いて観測された。研究グループはその後もこの元素の合成に 2度成功し,2009年には,113番元素がα崩壊を 3回起こした際に生成される元素ボーリウムを直接合成する実験から,113番元素の合成を裏づける証拠を得た。一連の実験で,国際純正・応用化学連合 IUPACによる新元素認定にあたって重要視される,既知の同位体(アイソトープ)への崩壊が確認された。一方,ロシアとアメリカ合衆国の研究グループは 2004年に,カルシウム同位体(質量数 48)をアメリシウム同位体(質量数 243)と融合させることで生成された 115番元素(→モスコビウム)が崩壊する際に,113番元素が初めてつくられたと主張したが,崩壊後に既知の同位体にいたっていないという問題点があったため,113番元素の発見は認められなかった。113番元素の化学的特性はタリウムに似ていると考えられる。名称のニホニウムは,発見国名である日本にちなんで命名された。

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知恵蔵mini 「ニホニウム」の解説

ニホニウム

理化学研究所仁科加速器研究センター超重元素研究グループが発見した113番目の元素の名称案のこと。化学に関する国際機関である「国際純正・応用化学連合(IUPAC=アイユーパック)」が2016年6月8日、「日本」という言葉を含んだ「ニホニウム」に名称案を決めたこと、元素記号の案を「Nh」としたことを発表した。同名称は公益社団法人である日本化学会が提案したものである。同元素の名称はIUPACが5カ月間、一般からの意見を募った上で元素名を正式決定し、それを受け、日本化学会も同元素の日本語名を正式に決定する。

(2016-6-14)

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