ビスマス(英語表記)bismuth

翻訳|bismuth

精選版 日本国語大辞典 「ビスマス」の意味・読み・例文・類語

ビスマス

〘名〙 (bismuth) 元素の一つ。元素記号 Bi 原子番号八三、原子量二〇八・九八。古くから知られていたが、他の元素と混同されていたこともある。単体は赤みを帯びた銀白色の金属で、金属としては電気・熱を伝えにくい。低融点の合金として用途が広く、医薬品としても用いられている。蒼鉛。ビスミュート。ビスミット

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デジタル大辞泉 「ビスマス」の意味・読み・例文・類語

ビスマス(bismuth)

窒素族元素の一。単体は赤みを帯びた銀白色のもろい金属。電気・熱の伝導性は小さい。塩酸硝酸に溶ける。融点が低いので易融合金に用いる。元素記号Bi 原子番号83。原子量209.0。蒼鉛そうえん

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改訂新版 世界大百科事典 「ビスマス」の意味・わかりやすい解説

ビスマス
bismuth

周期表第ⅤB族,窒素族に属する金属元素。蒼鉛(そうえん)ともいう。15世紀ころから文献に記載されているが,しばしば鉛,スズ,アンチモン,亜鉛,銀などと混同されており,18世紀になってようやく一つの金属元素であることが明らかにされた。19世紀には合金として,あるいは化合物が医薬品として使用されている。名称の由来ははっきりしないが,ドイツ名WismutはドイツのウィーセンWiesen地方の〈鉱山採掘許可願Mutung〉に由来するともいい,あるいはビスマスの鉱脈の色の美しさから坑夫の古い慣用語wis mat(weisse Masse,白い塊)に由来するともいわれる。天然に自然蒼鉛として遊離体でも産するが,そのほか硫化物(輝蒼鉛鉱Bi2S3),酸化物(ビスマイトBi2O3)として単独に,あるいはコバルトニッケルの鉱石といっしょに産出する。

少し赤みを帯びた金属様光沢をもつ銀白色固体。表面反射率67.8%(589.3nm)。電気および熱伝導性は実用金属中最も小さい。比熱0.0292cal/deg・g(50~150℃)。凝固のとき3~3.5%程度の体積膨張がある。モース硬度2.0~2.5。室温ではもろいが225℃以上で押出成形ができる。原子半径1.48Å。Bi3⁺のイオン半径1.08Å,共有半径1.52Å。熱中性子吸収断面積が非常に小さいので(ベリリウムに次ぐ),原子炉の冷却材として重要である。空気中で安定であるが,熱すると燃焼して黄色粉末の酸化物Bi2O3となる。フッ素,塩素,臭素,ヨウ素と反応して,それぞれハロゲン化物を与える。王水,硝酸など酸化性の酸とは反応するが,非酸化性の希酸には侵されない。アルカリ金属,インジウムタリウム,スズ,アンチモン,鉛,銅,銀,金,白金族元素などの多くの金属とは合金をつくりやすいが,クロムと鉄とは合金をつくりにくい。

ビスマスは鉛製錬のさいの副産物として回収される。硫化鉛の鉱石中に微量に含有されるビスマスは,製錬工程で粗鉛中に濃縮される。この粗鉛を電解して鉛精製を行うが,そのさいビスマスは金,銀,アンチモンとともに陽極スライムとなって,鉛から分離される。陽極スライムは還元溶融した後,空気で酸化する。まずアンチモンが酸化され,ついでビスマスと鉛の残分が酸化される。ビスマスを含んだ鉱滓を還元して粗ビスマスとし,ケイフッ酸とケイフッ酸ビスマスの電解液中で電解し,陰極に純ビスマスを析出させる。ほかに,粗鉛中のビスマスは,カルシウム,マグネシウムを加えてCaMg2Bi2の金属間化合物として取り出し(クロール=ベタートン法),これからビスマスを回収する方法もある。

カドミウム,スズ,鉛,インジウムなどとの合金は一般に融点が低く,易融合金として利用される。含まれる金属の成分比によっては150℃から,なかには47℃程度のものまであり,ヒューズ,火災警報器,スプリンクラーヘッドなどに用いられている。たとえばウッド合金(融点約70℃),ローズ合金(融点約100℃)などがある。凝固時に体積が増加する性質を利用して,精密鋳造合金,活字合金としても用いられる。アルミニウムや鉄鋼材料に少量添加すると加工性が改善される。各種の化合物が医薬品として,梅毒,皮膚消毒,潰瘍(かいよう)などに用いられる。また,ビスマス化合物には三硫化二ビスマスをはじめとして光電効果を示すものがあり,近年オプトエレクトロニクスの分野においても重要なものとなっている。たとえばビスマス・シリコン・オキサイドBSO)と呼ばれるBi12SiO20単結晶は,その大きなポッケルス効果を利用して電圧の変化を光の変化に変換する光機能素子として有望視されている。また光導電効果が照射光の波長に大きく依存することを利用して画像記憶体としての活用もできる。これは光電特性の大きい青色光で結晶面に一時的に電圧の分布として画像を書き込み,次に光電特性の小さい赤色光を通過させてポッケルス効果により画像を再生するものである。Bi2Te3,Bi2(Se,Te)3,(Bi,Sb)2Te3などの半導体は,その大きなゼーベック効果,ペルティエ効果を利用して熱発電素子,電子冷却素子として用いられている。
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化学辞典 第2版 「ビスマス」の解説

ビスマス
ビスマス
bismuth

Bi.原子番号83の元素.電子配置[Xe]4f 145d106s26p3の周期表15族非金属元素.原子量208.98040(1).もっとも高い原子番号の非放射性元素.安定核種が質量数209の同位体のみの単核種元素.質量数184~218の放射性同位体がある.千年以上前から鉛,スズの混合物の一つとみなされて使われていたが,16世紀には純金属であることがわかっていた.Paracelsus Wismuthとよんでいるが,語源は酸化物が白いところから,ドイツ語の“白い塊”,weiße Masseにちなむとされる.ドイツ語の元素名はBismut,英語・フランス語名はbismuthである.アラビア語の“融けやすい”が語源という説のほか,諸説がある.1773年,フランスのC. Geoffroyにより新元素であることが示された.宇田川榕菴は天保8年(1837年)に出版した「舎密開宗」で,亜比斯繆母(ピスシュテュム)蒼鉛としている.
輝蒼鉛鉱Bi2S3,蒼鉛華Bi2O3,ビスマタイト(BiO)2CO3などが主要鉱石である.地殻中の存在度0.06 ppm.可採埋蔵量320百万t の75% が中国,以下ペルー,ボリビア,メキシコが各約3%.親銅元素の一つ.おもに鉛精錬の電解スライムから副産物として得られる.単体は赤味を帯びた銀白色.三方晶系.金属はもろい.密度9.747 g cm-3(20 ℃),液体10.05 g cm-3(融点).融点271.3 ℃,沸点1610 ℃.気相では Bi2 分子となる.第一イオン化エネルギー7.289 eV.イオン半径は,Bi3+(六配位)0.117 nm,Bi5+(六配位)0.090 nm.Bi3+/Biの標準電極電位は+0.32 V で,イオン化傾向は小さい.すべての元素のなかでもっとも反磁性が強く熱伝導率は水銀についで金属中最少である.またビスマスはガリウム同様液体から固化すると,体積が増加(3.5%)する数少ない金属の一つである.酸化力のない酸には溶けないが,硝酸,王水などに溶解し,ビスマス(Ⅲ)塩を生じる.空気中では,高温では燃焼しBi2O3となる.ハロゲンと反応し,BiCl3(白色),BiBr3(黄金色),BiI3(緑黒色),BiF5を生じる.化合物は,酸化数3が通常であるが,酸化数5の化合物は強酸化剤である(例:MBiO3).
無鉛はんだ,スプリンクラー用温度ヒューズなどに用いられる易融金属.おもな用途は,冶金添加剤,鉄鋼の機械加工性改良用添加剤,磁石・メモリー用フェライト,低融点合金用など.抗菌剤,医薬品(制酸剤など),石油化学用触媒などにも用いられる.新しい用途には,光記録(CD-R,CD-RW)媒体,光磁気記録(MD,MO)用保護膜用材料がある.高温超伝導体(ビスマス系)の成分としても知られている.[CAS 7440-69-9][別用語参照]ビスマス化合物

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビスマス」の意味・わかりやすい解説

ビスマス
びすます
bismuth

周期表第15族に属し、窒素族元素の一つ。古く蒼鉛(そうえん)とよばれた。中世のヨーロッパではすでにその存在が知られていたが、スズ、鉛、アンチモンなどとの区別がつかないでいた。しかし、そのころから区別がつき始め、酸化ビスマス(Ⅲ)その他が顔料(がんりょう)などとして用いられていて、17世紀ごろには一般に英語でbismuth、ドイツ語でWismuthとよばれるようになっていた。18世紀になってドイツのポットJohann Heinrich Pott(1692―1777)と、スウェーデンのT・O・ベリマンの研究によって金属元素であることが確定された。自然ビスマスもまれに産出するが、輝ビスマス鉱Bi2S3やビスマス華Bi2O3として産出。普通、鉛製錬に際し、粗鉛の精製過程の副産物として得られる。精錬残渣(ざんさ)を炭素で還元してから、アルカリ融解で空気酸化し、他の金属を除き、電解精錬する。やや赤みを帯びた銀白色の金属。電気的性質は半金属で、温度が高くなると導電率が減少するが、260℃以上で増大する。空気中では安定。酸素、硫黄(いおう)、ハロゲンと直接反応して三価化合物をつくる。水では徐々に水酸化物を生じる。酸化力のない酸には侵されないが、硝酸や熱濃硫酸に溶けてビスマス(Ⅲ)塩を生じる。凝固の際体積が3~3.5%膨張する。融点が低く、鉛、スズなどと易融合金の形で、ヒューズ、火災報知機など非常に広い用途に使われる。生化学的作用をもつ化合物が多く、医薬品製造に多くが使われる。化合物はアクリロニトリル製造の触媒としても利用される。熱中性子吸収断面積が小さいため原子炉冷却剤として用いられる。

[守永健一・中原勝儼]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ビスマス」の意味・わかりやすい解説

ビスマス
bismuth

元素記号 Bi ,原子番号 83,原子量 208.98038。周期表 15族,窒素族元素の1つ。蒼鉛ともいう。主要鉱石は輝ビスマス鉱,蒼鉛赭がある。遊離状態で産出することもある。量的には,銅および鉛鉱石から副産物として回収されるものが圧倒的に多い。単体はやや赤みのある銀白色の金属。融点 271℃,比重 9.8,硬度 2.5。凝固するとき体積が3~3.5%膨張する。電気伝導度は低く,半金属的。希硝酸,熱硫酸,濃塩酸に可溶。一般に酸化数3と5の化合物をつくり,前者のほうが安定である。融点が低いので,鉛,スズとともにローゼ合金,ニュートン合金,カドミウムの入ったウッド合金 (ヒューズ用) などの易融合金の主要材料や低融点ハンダ,高温高圧プラグ,火災報知機,消火用スプリンクラ,防火扉の高温感知部などに用いられる。中性子吸収断面積が低く,原子炉冷却材として重要。化合物は医薬品や化粧品などにも用いられる。

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百科事典マイペディア 「ビスマス」の意味・わかりやすい解説

ビスマス

元素記号はBi。原子番号83,原子量208.98040。融点271.4℃,沸点1561℃。蒼鉛(そうえん)とも。元素の一つ。15世紀ごろすでにその存在は知られていたが,元素として確認されたのは18世紀。赤みを帯びた銀白色の金属。常温ではもろく,電気および熱の伝導性は金属中最小のものの一つ。空気中で熱すると炎をあげて燃え,酸に溶ける。各種合金をつくりやすく,固化するとき膨張するため,易融合金,活字合金などに利用され,化合物は医薬品となる。硫化鉱物中に含まれるが,遊離状態でも産する。工業的には銅・鉛製錬の副産物として得る。
→関連項目α崩壊

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栄養・生化学辞典 「ビスマス」の解説

ビスマス

 原子番号83,原子量208.98037,元素記号Bi,15族(旧Va族)の元素.窒素の同族体.

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世界大百科事典(旧版)内のビスマスの言及

【鉛】より

…また鉛蓄電池をはじめ,スクラップを原料とした鉛の再生も盛んに行われている。鉛精鉱には一般に鉛以外に金,銀,ビスマス,亜鉛,スズ,ヒ素,アンチモンなどが含有されるので,鉛製錬の際にはこれらも回収される。現在鉛製錬は主として溶鉱炉法で行われ,鉛精鉱を焙焼(ばいしよう)・焼結して酸化鉛鉱塊とする工程,この鉱塊をコークスで還元して粗鉛とする溶鉱炉工程,粗鉛の純度を高める精製工程の3工程から成る。…

※「ビスマス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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