改訂新版 世界大百科事典 「バレーズ」の意味・わかりやすい解説
バレーズ
Edgard Varèse
生没年:1883-1965
フランス出身のアメリカの作曲家。パリで生まれ,当時家族と暮らしていたトリノの工科大学に入学したが中退し,1904年,パリのスコラ・カントルムに入学。作曲をダンディ,ルーセルに師事。08年からベルリンに滞在,ときどきパリに戻るという生活を続け,15年春,アメリカに移住。19年ニューヨークでニュー・シンフォニー・オーケストラを創設,世界の現代曲を紹介した。21年には作曲家の生活権と現代音楽の演奏の必要性を宣言して,ハープ奏者サルセドと国際作曲家組合をつくった。27年にはカウエル,アイブズ,チャベスらとパン・アメリカン作曲家協会の設立に尽力するなど,精力的に活動した。
初期の作品は,管弦楽曲《ブルゴーニュ》(1908)を除いて,すべて第1次大戦中のベルリンで焼失。ニューヨークでの最初の作品《アメリカ》(1921)は多数の打楽器群を含む142楽器による大オーケストラ曲で,消防自動車用サイレンなども用いられている。彼は自分の作品を〈音楽〉とは呼ばずに〈組織された音響organized sound〉と称した。8楽器のための《オクタンドル》(1923),11管楽器と4人の打楽器奏者による《アンテグラル(積分)》(1925),大オーケストラの《アルカーナ》(1927)などは,いずれもそうした音響の運動と空間のプロジェクションの特色をみせる作品である。《イオニザシヨン(電離化)》(1931)は,旋律楽器をいっさい省き,40種類近い打楽器,ピアノ,さらに2個のサイレンによって作曲されており,リズムの複雑な構造と音色構造を形づくっている特異な作品。ケージはバレーズを〈20世紀音楽における先駆的な存在〉と評価したが,それは彼の想像力と科学的な思考がひとつとなり,従来の平均律的な音楽のありようを否定して,まったく独自な音響の力学の世界を展開していったことをさしている。
その後,合唱と電気楽器を含めた器楽の《エクアトリアル》(1934),フルート曲《デンシティ21.5》(1936),オーケストラとテープ音楽の《砂漠》(1954),テープ音楽《電子の詩》(1958)など,電子テクノロジーと音楽を結びつけた独自な音楽を生み出した。
執筆者:秋山 邦晴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報