翻訳|butadiene
共役二重結合をもつ最も簡単な脂肪族鎖式不飽和炭化水素(アルケン)。ふつうは1,3-ブタジエンCH2=CH-CH=CH2をさすが,ほかに異性体として1,2-ブタジエンCH2=C=CH-CH3が存在する。石油化学工業では,ブチレンの脱水素反応あるいはナフサ分解プロセスから得られるC4留分を原料として抽出分離によって生産される。その用途は,おもに合成ゴムやプラスチックであるが,ほかにヘキサメチレンジアミン,1,4-ブタンジオール,スルホラン,クロロプレンなどの原料となる。
常温・常圧では気体であり,無色で特別の臭気をもつ。融点-108.915℃,沸点-4.413℃。可燃性で,空気中では2~12%(容量)の濃度範囲で爆発的に燃焼する。水には溶けないが,アルコールやエーテルには可溶。二重結合をもっているので化学反応性が高く,とくに重合しやすい。貯蔵時には重合防止剤,酸化防止剤を添加する必要がある。
ブタジエンの合成は,現在は,ブタンまたはブチレンの脱水素反応による。反応温度600~650℃,ほぼ常圧下で,水蒸気を希釈剤としてブタンまたはブチレンを触媒上に通す。触媒としては,アルミナを担体とした酸化クロム,酸化鉄などが用いられる。また,ナフサ分解のC4留分から抽出分離してもつくられる。この中には1,3-ブタジエンが40%前後含まれているが,ほかに沸点の接近したいろいろな炭化水素が含まれているので,フルフラール,アセトニトリル,ジメチルホルムアミド,N-メチルピロリドンなどの溶媒を加え,比揮発度を変化させて蒸留を行う。
日本では年間およそ100万tのブタジエンが生産される。工業上の重要な誘導品を図に示す。
執筆者:冨永 博夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
C4H6(54.09).CH2=CH-CH=CH2.二重結合の位置により,1,3-ブタジエンと1,2-ブタジエンの2種類の異性体が存在するが,工業的には前者のほうがはるかに重要なので,単にブタジエンという場合は,1,3-ブタジエンをさす.石油系炭化水素の分解ガス中に存在する.従来,n-ブタンおよびn-ブテン類の脱水素により製造されており,アメリカでは現在でも行われているが,わが国ではナフサ分解によるエテンの生産が大規模に行われ,そこで副生するB-B留分より抽出蒸留で分離精製する方法に完全に転換されている.構造は,共役二重結合を有するもっとも簡単なオレフィンである.原子間距離C=C 0.137 nm,C-C 0.147 nm と二重結合間隔はエテンの場合より長く,C-Cはブタンの場合より短い.このことはブタジエンの共鳴状態に対する一つの論拠となっている.また,C-C結合における分子内回転より,シス形構造とトランス形構造が考えられ,後者のほうが約17 kJ mol-1 安定である.弱い芳香性を有する引火性の液化しやすい無色の気体.融点-108.92 ℃,沸点-4.41 ℃.爆発範囲2.0~11.5体積%.エタノール,エーテルに可溶,水に不溶.共役した二重結合をもつために化学反応性は高く,とくに重合活性が高いため,貯蔵には重合防止剤および酸化防止剤の添加が必要である.石油化学の重要な原料の一つである.おもにスチレン-ブタジエンゴム(SBR),アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR),ブタジエンゴムなどの合成ゴム,ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂)などの樹脂の原料となる.ほかにクロロプレン,アジポニトリル,1,4-ブタンジオールなどの合成原料としても用いられる.[CAS 106-99-0]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
ジエン(炭素間二重結合を2個もつ化合物の総称)のもっとも簡単なもの。炭素4個からなる直鎖でしかも2個の不飽和結合を含む炭化水素。不飽和結合のある位置により1,2-ブタジエンと1,3-ブタジエンの2種の異性体がある。前者はメチルアレンともよばれ、通常、ブタジエンというと後者をさす。ゴムはイソプレン(2-メチルブタジエン)が重合した構造をもつので、1920年代末にドイツでブタジエンを原料として合成ゴムのブナ(BUNA)が発明された。これを契機としてブタジエンの製造技術の開発が進んだ。さらに太平洋戦争初期に日本が東南アジアを占領してアメリカへの天然ゴムの供給を断ったことが、アメリカにおける合成ゴムの開発を促進したといわれる。現在では、ブタジエンは石油から製造されている。ナフサの分解でエチレンを製造する際に生ずる炭素数4個の留分から得るか、あるいはブタンまたはブテンの脱水素により製造する。可燃性で、常温では無色有毒の麻酔性のある気体であるが、圧力を加えると容易に液化する。
日本では年間約100万トン生産されているが、おもに合成ゴムの原料として利用される。これとスチレンとの共重合体はスチレン・ブタジエンゴム(SBR)で汎用(はんよう)合成ゴムとして、またアクリロニトリルとの共重合体(NBR)は耐油性の合成ゴムとして、アクリロニトリルおよびスチレンの双方との共重合体(ABS)は耐衝撃性の合成樹脂として利用される。また、ブタジエンの重合体のポリブタジエン(PBR)も汎用の合成ゴムとして用いられる。
[徳丸克己]
ブタジエン
(C4H6,分子量54.1)
1,2-ブタジエン
構造式 CH3CH=C=CH2
融点 -136.190℃
沸点 10.85℃
比重 0.676(測定温度0℃)
屈折率 (n)1.4205
1,3-ブタジエン
構造式 CH2=CHCH=CH2
融点 -108.915℃
沸点 -4.413℃
比重 0.650(測定温度-6℃)
屈折率 (n)1.422
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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