最も簡単な構造の芳香族アルデヒド。植物界に広く分布し,クヘントウ(苦扁桃)油,野生のオウトウ(桜桃)の樹皮油などの主成分。独特の芳香をもつ無色の液体。融点-56.5℃,沸点178℃。水には難溶であるが,有機溶媒にはよく溶ける。
容易に空気酸化され,安息香酸C6H5COOHとなる。還元すれば,ベンジルアルコールC6H5CH2OHあるいはトルエンC6H5CH3を生成する。アルカリの作用によって2分子間で不均化が起こり,ベンジルアルコールと安息香酸塩を与える(カニッツァーロ反応)。
またシアン化カリウムの作用を受けると縮合しベンゾインC6H5CH(OH)COC6H5を生成する(ベンゾイン縮合)。無水酢酸および酢酸ナトリウムとの混合物を加熱すると,ケイ皮酸C6H5CH=CHCOOHが得られる(パーキン反応)。さらに塩基あるいは酸触媒の存在下で,種々の活性メチレン化合物と縮合する。脂肪族,芳香族第一アミンと縮合し,シッフ塩基を生じる。
ベンズアルデヒドは塩化ベンザルを加水分解するか,あるいはトルエンの接触酸化によって合成される。マラカイトグリーン,ベンゾフラビンなどの染料の合成原料として,また香料としても重要な用途をもっている。さらにマンデル酸,ケイ皮酸の出発物質として用いられ,これら工業的用途のほか,医薬品合成へも広く利用されている。
執筆者:奈良坂 紘一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
代表的な芳香族アルデヒドで、苦扁桃油(くへんとうゆ)ともいう。モモやアンズの芯(しん)の精油の主成分として植物界に分布し、ネロリ油など一部の精油中に含まれている。
トルエンを接触的に酸化するか、トルエンを塩素化して塩化ベンジリデンにしたのちに加水分解する方法により製造されている。アーモンドに似た特有な芳香をもつ無色の液体で、水にはほとんど溶けないが、エタノール(エチルアルコール)、エーテルなどの有機溶媒によく溶ける。酸化されやすく、空気中で徐々に安息香酸になる。水酸化アルカリを作用させると、酸化と還元が同時におこり、安息香酸塩とベンジルアルコールになる。この反応は、発見者にちなんでカニッツァーロ反応とよばれている( )。
また、シアン化カリウムの存在下で加熱すると、2分子が縮合してベンゾインC6H5CH(OH)COC6H5になる。この反応をベンゾイン縮合という。
ベンズアルデヒドは安価な香料として、せっけんなどに用いられる。
[廣田 穰 2016年2月17日]
ベンズアルデヒド
分子式 C7H6O
分子量 106.1
融点 -26℃
沸点 178℃
比重 1.0498(測定温度20℃)
屈折率 (n)1.5456
C7H6O(106.12).C6H5CHO.天然には,クヘントウ,モモ,アンズなどの精油中に存在する.工業的には,トルエンの塩素化によって得られる塩化ベンザルを,アルカリで加水分解するか,あるいは酸化モリブデンなどを触媒として,トルエンを直接空気酸化してつくられる.クヘントウに似た香りをもつ無色または淡黄色の液体.融点-26 ℃,沸点179 ℃.1.049.1.544.エタノール,エーテルなどに易溶,水に難溶.空気中で酸化されて安息香酸になりやすい.せっけん用,そのほかの安価な香料として,香料工業において多量に用いられる.また,ベンズアルデヒドは芳香族アルデヒドの代表的な化合物であり,アルデヒドとしての種々の反応性に富んでいるので,染料,香料,医薬品などの中間物としてしばしば用いられる.[CAS 100-52-7]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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