翻訳|polyethylene
エチレンCH2=CH2を重合して得られる高分子の総称。
低重合度のものは古くからワックスとして利用されていたが,高重合度,結晶性のものが得られるようになって成形品として用途が大きく広がった。乳白色,半透明の熱可塑性樹脂であるが,その得られる特性によって,柔らかい低密度ポリエチレンlow density polyethylene(略号LDPE)と,硬くて強靱(きようじん)な高密度ポリエチレンhigh density polyethylene(略号HDPE)とに分けられる。後述するようにそれぞれ製法が異なり,前者は高圧法ポリエチレン,後者は低・中圧法ポリエチレンと呼ばれる。最近,低圧法でも低密度ポリエチレンが得られるようになり,これは直鎖状(線状)低密度ポリエチレンlinear low density polyethylene(略号LLDPE)と呼ばれている。低密度ポリエチレンは1933年イギリスのICI社で高圧ラジカル重合によって初めて得られ,軍事的要請から工業化にあたっての多くの問題点が克服され,第2次大戦中にイギリス,アメリカで工業化された。低圧法による高密度ポリエチレンの製造は,53年にK.チーグラーが発見したいわゆるチーグラー触媒によって可能になったものであり,イタリアのモンテカチーニ社(現,モンテジソン社)が工業化した。つづいてアメリカのフィリップス・ペトロリアム社が,酸化クロム系触媒による中圧法を工業化している。
同じポリエチレンであっても,その製法の違いによって密度,物性が異なるのは,ポリエチレンの構造の差が原因である。高圧法では,分岐が多く,線状高分子に短い枝がついたポリエチレンが得られるのに対し,低圧法では,直鎖状のポリエチレンが得られ,結晶化度が高くなるためである。両者のおもな物性は表に示すとおりである。
ポリエチレンは,軟化点は低いが水よりも軽く,耐衝撃性にすぐれ,強く,耐水性,耐寒性,電気特性にもすぐれている。さらに,ナフサの熱分解で安く多量に得られるエチレンを原料として製造され,繊維,フィルム,成形品のいずれにも容易に成形できるため,石油化学の発展にともない急速に用途を拡大した。第2次大戦中は軍事用の電気絶縁材料として貴重品扱いされたが,現在では最もポピュラーな汎用樹脂として知られるようになった。低密度ポリエチレンは農業用フィルム,台所用品,バケツ,灯油容器,テープ,玩具に,高密度ポリエチレンはビール用コンテナー,バケツ,ロープ,テープ,およびスーパーマーケットなどの包装用極薄フィルムなどに用いられている。
高圧法ポリエチレンは,高純度のエチレンに微量の酸素を加えて,1000~2000気圧に圧縮し,オートクレーブ中で200~300℃に加熱してつくる。エチレンからポリエチレンへの転化率は20~25%である。アクリル酸エステル,酢酸ビニルとの共重合も可能である。低圧法では,トリエチルアルミニウム-四塩化チタンAl(C2H5)3-TiCl4を触媒とし,炭化水素溶媒中で,3~7気圧,30~70℃でエチレンを重合させる。中圧法は酸化クロム系触媒を用いて,20~70気圧,100~200℃で重合させる。用途に応じ,プロピレン,ブチレンなどを共重合させることもある。これらの方法によって得られたポリマーは,洗浄して触媒,低重合物を除いたあと,ペレット化して110~130℃で押出成形,射出成形,中空成形などにより成形される。
直鎖状低密度ポリエチレンは,低圧法と同様にチーグラー触媒を用い,高圧法よりも低温,低圧で重合させてつくられるもので,この製法は低コストで低密度ポリエチレンが製造できる省エネルギープロセスとして注目されている。
→橋架け
執筆者:森川 正信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
略称PE.エテンの重合体で,一般式で表される.一般に重合体は,酸,アルカリ,溶剤に耐えるが,炭化水素,ハロゲン置換炭化水素には高温で溶解する.電気絶縁性,耐水性,耐寒性がすぐれ,押出し,射出,吹込み,真空成形などの成形加工もきわめて容易なので,代表的な熱可塑性樹脂として各種容器,電線被覆,パイプ,繊維,包装材料などに多く用いられる.ポリエチレンの工業的製法としては,高圧法,中圧法,および低圧法がある.
(1)高圧法(図(a))では,まずエテンを100~300 MPa に加圧し,酸素,有機過酸化物などの開始剤を加え100~200 ℃ に加熱後,冷却管つきの管状重合反応器に送り込む.重合の進行に伴い反応熱(106 kJ mol-1,25 ℃)のために反応系は150~300 ℃ に昇温する.反応器を出てくる混合物は減圧後,ポリマーとワックス状の低分子量体を除去し,未反応エテンは再使用される.水などの溶媒を用いる懸濁重合法もある.このような高圧法で得るポリマーは,0.915~0.935 g cm-3 の低密度ポリエチレンである.
(2)中圧法(数 MPa)には,8% 程度の酸化モリブデンをアルミナに担持した触媒を用いる標準法と,酸化クロムをアルミナに担持した触媒を用いるフィリップス法(図(b))とがある.後者の場合,重合は不活性溶媒中で行われ,重合温度が130 ℃ 以上ではポリマーが可溶なため溶液重合に,また130 ℃ 以下では不溶なため懸濁重合となる.重合終了後,未反応のエテンは,気液分離器で分離され再使用される.一方,ポリマーを含む液相部は熱溶媒で希釈され,沈殿触媒を除去後,溶媒を分離する.ポリマーは押出成形を経て製品となる.なお,溶媒を用いない気相重合も可能である.このような中圧法で得られるポリマーは,0.960~0.970 g cm-3 の高密度ポリエチレンである.
(3)低圧法(常圧)(図(c))では,チーグラー触媒が用いられ,炭化水素溶媒中,常圧付近60~100 ℃ で懸濁重合が行われる.重合終了後,アルコールなどを用いて触媒を分解分離し,ポリマーを濾別する.このような低圧法で得られるポリマーは,0.940~0.965 g cm-3 の高密度ポリエチレンである.
(4)以上の方法のほか,ユニオンカーバイド社の,0.7~2 MPa,60~100 ℃ の条件下で気相重合により触媒分離を必要としない(無脱灰)低密度ポリエチレンの製造法(図(d))がある.[CAS 9002-88-4]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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…また硫酸の存在下で水の付加反応によりエチルアルコールを生ずる。さらに,ある種の触媒の存在下で重合してポリエチレンをつくる。これらの化学反応については用途のところで述べる。…
…アメリカでは,当初石炭系の原料から出発したものでも,つぎつぎに石油系原料へと転換が進んでいった。 この時期に各国で工業化された高分子化合物には,ポリスチレン(1930工業化),合成ゴム(1932),メタクリル樹脂(1936),塩化ビニル樹脂(1938),ナイロン,高圧法ポリエチレン(ともに1939),ケイ素樹脂(シリコーン。1944),フッ素樹脂(1950)などがある。…
…化学繊維の微細構造は,高分子鎖が規則正しく配列した結晶性の部分と,配列していない非晶性の部分から成る。高分子は,その構造によって,たとえばポリエチレンのように結晶性部分を多くもつものがある。繊維の強さを上げるには結晶性の部分を多くしたり,高分子鎖の配列を増加させる必要があり,そのため紡糸したばかりの繊維を約4倍に室温で延伸(冷延伸cold‐drawing)する。…
…黒鉛C,水晶(二酸化ケイ素SiO2),炭化ケイ素SiC,窒化ホウ素BNもその構成原子が共有結合した巨大分子である。数百から数万の炭素原子が鎖状に結合してできた炭化水素であるポリエチレンも巨大分子に分類されるが,繊維やゴムなどとともに高分子化合物と呼ばれている。分子の定義を拡張して,ナトリウムイオンと塩化物イオンが多数イオン結合で結ばれた塩化ナトリウム(食塩)結晶や,分子が水素結合によってでき上がっている氷も巨大分子と呼んでいる。…
…ドイツの研究は石炭を直接の原料とするものが多かったが,その多くは石油への応用が可能なものであった。1920年代に幕があいた石油化学工業は,30年代に入って,ナイロンと低密度ポリエチレンという,合成繊維とプラスチックを代表する製品が開発されたことにより,本格的な発展への足掛りをつかんだ。ナイロンは,38年デュポン・ド・ヌムール社(以下デュポン社)のW.H.カロザーズが発明したものだが,その開発は,爆薬の生産により第1次大戦中に急成長を遂げたデュポン社が,新たな発展の場を求めて豊富な資金を有機合成化学の基礎研究に注いだことによって成功したといえる。…
…このような結合を橋架け結合あるいは架橋結合という。ポリエチレン,ポリ塩化ビニル,ナイロンなどの線状高分子には,加熱すると軟化,流動化し,冷却すると再び硬化する性質があり,溶媒にも比較的溶けやすい。一方,橋架けにより高度に三次元網目構造を形成したフェノール樹脂や尿素樹脂などは,加熱しても流動化せず,溶媒に対しても不溶となる。…
※「ポリエチレン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」