翻訳|yak
哺乳(ほにゅう)綱偶蹄(ぐうてい)目ウシ科の動物。カシミールのラダック県、チベット、甘粛(かんしゅく)省の海抜4000~6000メートルの山岳地帯に生息する。雄は体長2.5~3メートル、肩高1.6~2メートル、尾長80~100センチメートル、体重800キログラムと大きいが、雌では体長2~2.2メートル、肩高1.5メートル、尾長60~70センチメートル、体重300~350キログラムと小さい。雌雄ともに角(つの)があり、雄の角は黒色で長さ80~90センチメートル、雌では小さい。肩は隆起しているが、背はほぼ平らで、体の下面と側腹には50~60センチメートルに及ぶ長毛が密生し、尾のほとんどにも長毛が生えている。体色は、雄は黒褐色ないし暗褐色、雌ではやや淡色を示す。家畜化したものは野生種より小形で、体色も赤、褐色、黒、白、斑(はん)などさまざまである。山岳地帯に群れをなしてすむが、雄と、雌および若獣は別の群れをつくる。日中は斜面で休息し、早朝と夕刻に草などの植物質をあさる。繁殖期は6~11月、255~300日の妊娠期間を経て、1産1子を産む。家畜種は運搬用、毛用、肉用、乳用などに用いられる。
[中川志郎]
野生の黒褐色のヤクは神聖視された。儀礼的に行われるヤクの踊りでは、ヤクは神聖な山の神を表す。ボン教の経典でも、野生のヤクを土地の主とし、天幕をつくるためにヤクの毛をむしったので、土地の主の憎しみを招いたという伝えを記す。家畜のヤクは、荷役に使うほか、犂(すき)を引かせて耕耘(こううん)にも用いる。チベットでは、土地の広さはヤクの耕耘の量で示される。乳用としてもヤクは重要である。そのほか、乾燥させた糞(ふん)は炊事の燃料、毛皮は衣服に利用する。シェルパの人々は、角(つの)はチョルテン(堆石(たいせき)塚)に供える。チョルテンには、死者の名を記した紙を納めてあり、おそらくはヤクの霊もともに供養するのであろう。
[小島瓔]
体が長毛でおおわれた大型のヤギュウ。偶蹄目ウシ科の哺乳類。チベットとヒマラヤ,中国西部の高地に分布。雄は体長3.25mに達し,肩高2mを超すものもあり,体重は1000kgほどだが,雌は小型で体重は雄の1/3くらいである。体をおおう長毛は黒褐色で,角も黒い。高山生で,夏は万年雪のある標高6100mあたりまで姿をみせるが,その他の時期は下方で生活する。雌と子は大きな群れをつくるが,雄は単独かあるいは12頭くらいまでの小群でいて,それぞれ別々に行動し,種々の草や地衣類を食べる。9月に始まる交尾期には雄は雌をめぐって争う。妊娠期間約9ヵ月,1産1子で,寿命は25年の記録がある。
原住民はヤクを家畜とし,荷役用と乳用に飼育する。ラマ教ではヤクを殺すことは禁じているが,病気のものを殺すことはあり,皮をテントなどに用いる。地方によっては肉用とする。また,糞を乾かし燃料として用いる。家畜ヤクの雄とウシの雌を交配してゾーdzoと呼ばれる雑種がつくられるが,ゾーは比較的低地での荷役に,ヤクを高地での荷役に使用することが多い。近年では雌ウシにイギリス産肉用種のハイランド種を用いて雑種をつくり,それをヤーコウyakowと呼び,寒冷地での飼育に適した肉用品種としている。
なお,家畜のヤクが増加するにつれ,野生種はきわめて少なくなり,絶滅が心配されている。
執筆者:今泉 忠明
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…東はチベットから西は北アフリカまで,乾燥地域に広くみられる。チベットでヤクの毛を素材として用いる以外,ほとんどの地域では黒ヤギの毛で織った織布をテント地として使用している。北アフリカなど一部の地域では,ヤギの毛にヒツジやラクダの毛をまぜて使うこともある。…
…カシミール人は色の白いコーカソイド型の特徴をもち,インド語派ダルド語群の母語を話す。耕地では,稲,麦類,トウモロコシなどが作られ,豊かな牧野では,羊,ヤギ,ヤクなどの家畜が放牧される。
[チベット文明圏の人々]
ヒマラヤにおけるチベット文明の世界は,主嶺の北側,チベット高原の縁辺をなす高原,谷間に展開する。…
※「ヤク」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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