1887年(明治20)に起こった自由民権運動を継承する政治運動。1886年政府は初めて条約改正会議を開催したが、10月の第8回会議で外務大臣井上馨(いのうえかおる)は、内地雑居、外人判事任用を内容とする改正案を12か国代表に呈示した。法律顧問ボアソナードは翌1887年に改正案は日本の独立、名誉、安全にとって有害であり撤回すべきだとの意見書を提出、このことが漏洩(ろうえい)するや、欧州視察から帰国したばかりの鳥尾小弥太(とりおこやた)や谷干城(たにかんじょう)は強硬に反対し、とくに谷は徹底的な反対意見書を首相伊藤博文(いとうひろぶみ)に提出し、かつ上奏して辞職した。これを機に、1884年の自由党解党後も懇親会などを通じて結合を持続していた民権家たちは、各地で反対運動に立ち上がった。豪農(地主)たちも運動に参加した。このなかで高知県代表片岡健吉(かたおかけんきち)らは、(1)言論の自由、(2)地租軽減、(3)外交の回復を内容とする三大事件建白を元老院に提出し、各府県代表も建白書を携えて続々入京した。その後星亨(ほしとおる)や尾崎行雄の指導で運動は3府35県にまで拡大した。事態の進展を恐れた政府は、7月条約改正会議の無期延期と井上外相の辞職を決め(実際の辞職は9月17日)、さらに12月保安条例を発布して運動の中心人物570名を東京から追放した。井上の条約改正案を撤回させることには成功したが、逮捕、投獄される者が続出した。これにより三大事件建白運動はしだいに終息していったが、これはこの運動のなかで提起された大同団結運動、自由党の再興、初期議会下での民党運動へと引き継がれていった。
[猪飼隆明 2018年9月19日]
『指原安三編「明治政史 上」(『明治文化全集 第2巻』1928/『明治文化全集 第9巻』1968・日本評論社)』▽『平尾道雄著『子爵谷干城伝』(1935・冨山房/複製・1981・象山社)』▽『升味準之輔著『日本政党史論 第2巻』(1966/新装版・2011・東京大学出版会)』▽『井上清著『条約改正』(岩波新書)』
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1887年に,外交失策の挽回,地租軽減,言論集会の自由の3件を掲げて,旧自由党派を中心とする民権派が展開した建白運動。きっかけは,条約改正交渉の実態がボアソナードの反対意見書や谷干城農商務大臣の辞職などによって明らかになったことであり,条約改正交渉も政府の内部対立によってこの年7月末に中止された。自由民権運動沈滞の中にあって,民権派の大同団結を企てていた星亨らは,この機会に乗じてボアソナードの反対意見書や政府の憲法審議資料の一部などを秘密出版し,条約改正交渉反対を軸とする反政府運動をもりあげようとした。上記の3件はそのために選ばれたスローガンであり,各地の有志者は元老院に対する建白書を携えて府県庁に押しかけ,また代表委員を上京させて元老院や政府高官の門をたたいた。10月に後藤象二郎が民権各派の連合を策して丁亥俱楽部を創設した前後から年末にかけて,建白運動は関東・東北から西南地方にまで広がり,東京には各地の有志者・壮士が結集して騒然たる空気が伝えられた。脅威を感じた政府は,12月26日保安条例を発して彼らを皇居から3里以遠に追放し,運動を鎮静した。元老院事業報告によればこの年の建白書数は146件で,前年に対して81件の増加である。この3件の中心は外交問題にあり,その点で国会開設請願運動とは異質である。
→自由民権
執筆者:永井 秀夫
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1887年(明治20)の自由民権派を中心とする反政府運動。第1次伊藤内閣の井上馨(かおる)外相の条約改正案は領事裁判制度の撤廃とひきかえに,外国人裁判官の任用や外国人への内地開放(内地雑居)を認めることになっていたため,政府部内からも反対の声があがった。同年7月に条約改正交渉は中止されたが,反藩閥勢力の結集を図り大同団結運動を進めていた民権派は,これを機会に地租軽減,言論・集会の自由,外交失策の挽回の3項目を要求にかかげ,高知県はじめ各地の有志が続々上京し,建白書を提出して政府に迫った。同年11~12月,運動はいっそう活発となったが,政府は12月25日に保安条例を公布し,運動を鎮静化させた。
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…そこでは両党の過去のいきがかりを忘れ〈小異を捨てて大同を採らざるべからず〉と発起人は訴えた。翌年には条約改正問題で世論は沸騰,三大事件建白運動(地租軽減,言論集会の自由,外交失政の挽回)のため各地から有志が上京したが,保安条例による要注意人物の皇居外三里への追放により,かえって地方における運動が広がる結果となった。大同団結運動が起こるのはこの時である。…
※「三大事件建白運動」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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