夫または妻が相互に相手に対し負っている貞操義務に違反する行為。一方がこれを行った場合には,他方の配偶者が離婚の訴えを提起できる(民法770条1項1号)。一般には,姦通より広い意味をもち,特定の異性との特別に親しい交際まで含むと説かれている。ただしそのような行為は,法定離婚原因の5号(その他婚姻を継続し難い重大な事由)で対処できるので,姦通に限定したほうがよいという説もある。貞操義務は,夫婦がお互いに負う性的純潔を保つ義務で,婚姻のもっとも本質的な効果である。民法旧規定は妻の姦通のみを裁判上の離婚原因としていた(旧813条2号)ので,戦前は夫には貞操義務がないとする主張もあった。改正民法になってはじめて,夫婦平等の義務であることを明記した。
認知訴訟において,被告とされた男性から,女性が問題の子の懐胎可能期間中に,被告以外の男性とも性交関係があったと主張することを〈不貞の抗弁〉ないしは多数関係者の抗弁という。明治以降の判例は,この抗弁が提出されると,その事実がなかったことの立証責任を原告たる女性側に負わせたので,勝訴をきわめて困難にしていた。しかし,1954年の最高裁判決以降は,被告である男性の子たることを推認させる事実があり,女性と他の男との性交関係の存在を被告が立証できなければ,被告の子であると認知できるようになった。不貞の抗弁は通りにくくなったのである。
執筆者:湯沢 雍彦
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…(3)貞操の義務 貞操は婚姻の基調であり,夫婦は互いに貞操を守らなければならない。不貞は離婚原因となる(770条1項1号)。また,不貞行為は不貞をなした配偶者と相手となった第三者の共同不法行為となるから,その第三者に損害賠償を請求できるというのが最高裁の考えである(最高裁判決1979年3月30日)。…
…妻の固有財産は夫によって管理処分されることとなっており,妻の財産的地位は弱かった(旧799条以下)。離婚原因においても夫の不貞は姦通罪として処罰されなければ離婚原因にならなかったが,妻の不貞は直ちに離婚原因に該当し(旧813条),刑法上も夫は妻の姦通を告訴できたが妻には告訴権はなかった(刑法183条)。また,夫が庶子をつくり認知して夫の〈家〉へ入籍する場合,妻は同意権を持たず嫡母庶子関係を設定されることになっていた(旧728条)。…
※「不貞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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