中脳(読み)ちゅうのう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「中脳」の意味・わかりやすい解説

中脳
ちゅうのう

中枢神経系(脳脊髄(のうせきずい))の脳幹の一部で、上方間脳、下方は後脳(橋(きょう)と小脳)につながる。脳幹のうちでは、あまり発育していない部分であるが、重要な部位である。脳幹の中心部よりやや背側(はいそく)には、中脳水道(シルビウス水道ともよぶ細い中腔(ちゅうくう)の管)が貫通している。この上方は第三脳室、下方は第四脳室に通じている。中脳水道より背側を中脳蓋(がい)とよび、前後左右4個の隆起が、ちょうど椀(わん)を伏せた状態で突出している。このうち、前方の2個を上丘(じょうきゅう)、後方の2個を下丘とよび、全体を四丘体(しきゅうたい)ともいう。上丘には視神経の一部がきており、視覚の複雑な反射機能に関与していると考えられる。下丘には聴覚の神経路がきており、聴覚反射に関係するほか、音源の位置を判断するときに重要な役割をしていると考えられる。下等脊椎(せきつい)動物では、上丘が視覚の中枢にあたり、視蓋とよばれる。中脳水道より腹側は広義の大脳脚で、そのうち、背側部分を中脳被蓋、中脳被蓋から両側腹側に突出した部分を狭義の大脳脚とよぶ。中脳被蓋には滑車神経動眼神経の起始核があり、不随意運動に関係する赤核(せきかく)、意識の機序(メカニズム)に関係する網様体、また、脊髄から大脳半球に上行する神経路などがある。中脳被蓋と狭義の大脳脚との境の部分には、不随意運動に関係する黒質(こくしつ)がある。黒質の傷害はパーキンソン症候群に関係があると考えられている。なお、大脳脚(狭義)には、大脳皮質から下行する運動に関係する神経路(錐体路(すいたいろ)、錐体外路)がある。

[嶋井和世]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「中脳」の意味・わかりやすい解説

中脳
ちゅうのう
mesencephalon

大脳の一部。管状で,間脳,橋および延髄とともに脳幹を形成する。中腔は狭く中脳水道という。上は視床および視床下部に,下は網様体に連絡する神経細胞群がある。背面天井に視蓋と呼ぶ1対の隆起 (上丘) が,背面尾部にも1対の隆起 (下丘) がある。上丘は視覚に,下丘は聴覚に関係がある。腹面には大脳脚がある。中脳は視聴覚のほか,運動に関連した役割をになっている。また中脳から延髄にかけての網様体は,意識を支える部位として重要な機能をもっている。

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百科事典マイペディア 「中脳」の意味・わかりやすい解説

中脳【ちゅうのう】

脊椎動物の脳の一部で,間脳の後方,小脳および橋(きょう)の上方にある部分。下等動物では中枢としての機能を果たすが,高等になるほど,その機能は大脳に移り,中脳は小さくなる。ヒトの中脳は大脳半球から下る神経伝導路の通路となり,これらの神経繊維は集合して底面の大脳脚を構成する。背方部には視覚や聴覚に関係する四丘体があり,内部には錐体外路系に属する赤核や,動眼神経核,滑車神経核などの脳神経核が含まれる。
→関連項目大脳脳幹

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精選版 日本国語大辞典 「中脳」の意味・読み・例文・類語

ちゅう‐のう ‥ナウ【中脳】

〘名〙 脊椎動物の中枢神経系の一部で、間脳の後方、小脳・橋(きょう)の前方に位置する脳。個体発生において神経管の一部中脳胞に起因する。視覚・聴覚などに関係している他、中脳網様体に意識の調節に重要な機能のあることが明らかになった。〔医語類聚(1872)〕

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デジタル大辞泉 「中脳」の意味・読み・例文・類語

ちゅう‐のう〔‐ナウ〕【中脳】

脊椎動物の脳の一部。間脳の後方、小脳きょうの上方にある。中脳がいと大脳脚とに分かれ、間を中脳水道が通る。中脳蓋は上下二対の隆起をなすので四丘体しきゅうたいともよばれ、上丘は視覚に、下丘は聴覚に関係。

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世界大百科事典 第2版 「中脳」の意味・わかりやすい解説

ちゅうのう【中脳 midbrain】

中脳は脳幹の一部で,上は間脳に,下は橋に続く。脊椎動物一般にみられ,下等な動物では種々の中枢としての機能をもつが,動物が高等になるにつれて,それらの機能が間脳や大脳に移るために,脳全体に対する中脳の大きさは,高等になるほど小さくなる傾向がある。中脳は,ヒトでは著しく発達した大脳半球におおわれているので,自然のままでは,背面からも側面からもまったく認めることができず,腹面で大脳脚の一部をみうるにすぎない(以下,ヒトの中脳について述べる)。

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世界大百科事典内の中脳の言及

【脳】より

…脊髄管がその後も原形を比較的よく保ちながら脊髄に分化,発育するのに対して,脳管は胎児の成長につれて複雑に変形する。まず脳管は前脳胞,中脳胞,菱脳(りようのう)胞の三つの膨らみ(脳胞brain vesicle)に区分されるが,さらに前脳胞は終脳胞と間脳胞に,菱脳胞は後脳胞と髄脳胞に区分される。このように脳管が五つの脳胞から成立する時期は,ヒトでは胎生5週である。…

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