事無し(読み)コトナシ

デジタル大辞泉 「事無し」の意味・読み・例文・類語

こと‐な・し【事無し】

[形ク]
何事もない。平穏無事だ。
手抱たむだきて―・き御代天地あめつち日月と共に万代よろづよに」〈・四二五四〉
変わったことがなく退屈だ。大した用事もない。
公私おほやけわたくしに―・しや何業してかは暮らすべき」〈・若菜上〉
面倒なことがない。容易である。
「わづらはしかりつる事は―・くて、やすかるべき事はいと心ぐるし」〈徒然・一八九〉
[類語]安全無事安泰平安安寧あんねい安穏あんのん小康セーフティー安心確実無難無害無毒大丈夫穏やか平穏平らか温和

こと‐なし【事無し】

[名・形動]
何もすることがないこと。また、そのさま。
常夏の花をだに見ば―にすぐす月日も短かかりなむ」〈後撰・夏〉
男女の間に特別のことが起こらないこと。また、そのさま。
「―にて過ぐしつる年ごろも悔しう」〈須磨

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「事無し」の意味・読み・例文・類語

こと‐な・し【事無】

  1. 〘 形容詞ク活用 〙
  2. 支障波乱心配事、変事などが起こらない。何事もない。平穏無事である。
    1. [初出の実例]「膝に伏す玉の小琴の事無(ことなく)はいたくここだくあれ恋ひめやも」(出典万葉集(8C後)七・一三二八)
  3. 心の中に、こだわりや心労がない。
    1. [初出の実例]「事にふれて心ぐるしき御けしきの、したにはおのづから洩りつつ見ゆるを、ことなく消ち給へるも、ありがたくあはれにおぼさる」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜上)
  4. これといってなす事もない。大した用事もない。無為である。
    1. [初出の実例]「帯刀(たちはき)捕へて、『雨ふる夜なめり。一人な寝そといひつれば、いざ給へ』といへば、女わらひて『そよ』と『ことなかり』といへど」(出典:落窪物語(10C後)一)
  5. 困難や面倒がない。たやすい事である。
    1. [初出の実例]「わづらはしかりつる事はことなくて、やすかるべき事はいと心ぐるし」(出典:徒然草(1331頃)一八九)
  6. 非難すべき点がない。欠点がない。非のうちどころがない。→事もなし
    1. [初出の実例]「大君の御笠に縫へるありま菅ありつつみれど事無(ことなき)吾妹(わぎも)」(出典:万葉集(8C後)一一・二七五七)

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