改訂新版 世界大百科事典 「企業分割」の意味・わかりやすい解説
企業分割 (きぎょうぶんかつ)
単一の法人格を有していた企業組織を変革し,複数の法人とすること。国が分割を強制する場合と,企業自身の意思による場合とがある。
強制的分割の多くは,企業規模の巨大化に対する国家の消極的評価を前提とするものといってよい。製造における規模の利益の享受を可能とする現代技術は,経済単位としての企業規模の巨大化をもたらしたが,同時にそれはさまざまな市場における独占的企業の出現をもたらすことを意味した。これに対し,一方では,民主主義政治体制がいかなる種類の力であれ,その集中を本来的にきらう性質を持つことがあり,他方で,独占によってもたらされる資源配分におけるロスは経済政策的に好ましくないとする厚生経済学の理論が支えとなって,現代の資本主義国家において国が強制的に企業分割を命ずる制度を実現している例が見られるのである。
アメリカにおいては,19世紀末以来,アンチ・トラスト法(反トラスト法)の執行の一手段として,裁判所が判決によって企業分割を命ずる制度が定着しており,今世紀初頭には,スタンダード・オイル・トラストやアメリカン・タバコの著名な大企業の分割が実施された。日本においても,第2次大戦終了後,アメリカの反トラスト政策の影響を強く受けた占領政策の一環として,財閥解体と過度経済力集中排除法による企業分割がなされた。その後,1947年に制定された独占禁止法は,53年改正によって削除されるまで,不当な事業能力の格差がある場合に公正取引委員会が営業施設の譲渡を命ずる企業分割規定を置いていた。この規定は結局一度も適用されることなく終わったが,石油危機を契機とする77年の独占禁止法改正は,独占的状態に対する措置の規定を新設し,法定の規模を超える巨大企業が悪しき市場成果を示している場合に,公正取引委員会が営業の一部の譲渡を命ずることができることとし,企業分割規定を復活させた。しかし,現実には企業の自由意思を完全に否定する分割命令は,対象企業が巨大化すればするほど発動しがたいことは否定しえず,独占禁止法の規定にもさまざまな留保条件が加えられている。この企業分割規定が適用された例は,いまだない。
他方,企業は経営上のメリット(専業化,危険の分散等)を求めて,一営業部門を分離独立させたり,会社の一部を他の会社と合併させるために,みずからの意思で企業分割を行うこともある。
しかし,現行商法は企業分割のための特別の制度を設けていない。そこで実際上は,国家から強制される場合にしろ,企業がみずからの意思で行う場合にしろ,現物出資による新会社の設立や営業譲渡(営業)の方法によって企業が分割される(事実上の企業分割)。この場合,営業用財産の個別的移転等,手続はきわめてめんどうである。したがって,企業分割が現実に問題となる株式会社について,会社分割ないしは分割合併制度を商法上設けることが立法論として主張されている。会社分割制度は会社合併と逆の制度であって,会社財産の一部の新設会社への包括的移転および分割会社の株主に対する持株比率に応じた新設会社株式の交付を法律上当然に認めるものである。会社分割制度には節税効果も期待されている。この制度が実現すれば,独占的状態の排除措置を効率的に行うことができる。
→親会社・子会社 →私的独占
執筆者:来生 新+森本 滋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報