1970年代に入って世界は1973年と79年の2度の石油危機を経験した。この過程で,IEA(国際エネルギー機関)が1974年に設立され,その重要な政策の一つとして〈石油の90日備蓄〉が提唱された。これは,前年輸入量の90日に相当する石油をIEA各参加国が平時において備蓄するというもので,石油の供給途絶のような緊急時における重要な対応策の一つとみなされている。IEAで規定された緊急時とは,IEA参加国全体で基準消費量(過去1年間の平均消費量)の7%以上の石油供給削減があった場合と規定されている。この場合まず,参加国は基準消費量の7%の消費節約を行い,次いでこれによってもカバーされない不足分については,石油備蓄の取崩しで補充する,さらにそれでもカバーされない場合,IEA参加国からの融通に依存することができるとしている。これが〈石油緊急時融通システム〉と呼ばれているものである。このシステムについては,果たして緊急時に間に合うかどうか疑問とされ,緊急時が発生する以前の〈ミニクライシス〉の段階で備蓄の取崩しを行うことが重要とのアメリカの主張を受けて,現在IEA内で検討されている。
石油の供給途絶に対する対策としての石油備蓄についてアメリカでは,1975年〈エネルギー政策節約法(EPCA)〉において連邦石油備蓄が規定され,78年には同法に基づき,10億バレルの〈戦略石油備蓄(SPR)〉を保有することが決定され,実行に移された。その後,石油需給関係の緩和という事情もあり,目標は7.5億バレルに引き下げられた。84年6月末現在,アメリカの石油備蓄は15.02億バレル,うちSPRが4.14億バレル,民間備蓄は10.88億バレルとなっている。
日本では,IEAが設立される以前から石油備蓄への取組みが始められていた。しかし石油備蓄によって,石油供給不足時に,石油の安定供給を確保し,国民生活の安定と国民経済の円滑な運営に資することを目的とする石油備蓄法(1975公布)によって本格的な〈90日備蓄〉が始められたといえる。石油の備蓄は,民間備蓄が4440万kl,政府備蓄が4513万kl,合計8953万klとなっている(1995年度末)。
石油備蓄よりも歴史が古い備蓄に〈レアメタル(希少金属)〉備蓄がある。アメリカではすでに1930年代後半から議論が始められているが,〈戦略物資および緊急物資〉が備蓄対象とされ,現在では93品目が含まれている。レアメタルは,石油以上に資源の偏りがあり,しかも国の安全保障上重要と認識されたわけである。日本でも,ニッケル,クロム,タングステン,コバルト,モリブデンの5鉱種に加え,ニオブ,マンガン,パラジウム,ストロンチウム,アンチモン,バナジウムの6鉱種,合計11鉱種を国家備蓄の対象とし,消費量の2ヵ月分を目途に備蓄が計画されている。
執筆者:湯浅 俊昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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