入母屋(読み)いりもや

精選版 日本国語大辞典 「入母屋」の意味・読み・例文・類語

いり‐もや【入母屋】

〘名〙 日本建築における屋根形式一つ。上は切妻造(きりづまづくり)にし、下部四注造(しちゅうづくり)のように勾配(こうばい)をもたせた屋根の形。〔日本建築辞彙(1906)〕

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デジタル大辞泉 「入母屋」の意味・読み・例文・類語

いり‐もや【入母屋】

屋根の形式の一。上部切妻きりづま造りのように二方勾配こうばいをもち、下方寄せ棟造りのように四方へ勾配をもつもの。寺院などに多い。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「入母屋」の意味・わかりやすい解説

入母屋
いりもや

勾配(こうばい)屋根の形式の一つで、切妻(きりづま)の四周に庇(ひさし)を葺(ふ)き下ろしたような形となり、妻側の庇から相当内に入った所に破風(はふ)が立ち上がる形式になるのでこの名がある。古代の竪穴(たてあな)住居で円形または隅(すみ)丸の平面をもつものは、棰(垂木)(たるき)を穴の周辺に沿って立ち上げ、中央で束ねる円錐(えんすい)形の屋根となるのが自然であるが、これに煙出しをつくり、しかもそこから雨が降り込まないようにするため、頂点部分に短い棟(むね)をつけると、おのずから入母屋の形ができる。登呂(とろ)遺跡などの竪穴住居はこの形で復原され、家形埴輪(はにわ)でもこの屋根をもつものが多い。奈良時代までは最重要の建物(宮殿における大極殿(だいごくでん)、寺院における金堂(こんどう)など)には寄棟(よせむね)を用い、入母屋は一級下の建物(寺院における講堂、中門など)に用いられていたが、その後は重要施設のすべてを入母屋で統一するのが通例となった。現在でも高級木造建築で入母屋の用いられることが多い。

 通常の入母屋は、棟から平側の軒までを連続した面(普通は反(そ)り、まれに起(むく)りをつけた曲面)につくるが、切妻部分の勾配を急に、庇部分の勾配を緩くして屋根を折板(せっぱん)状につくるものを錣葺(しころぶ)きといい、玉虫厨子(たまむしずし)宮殿模型の屋根や復原された四天王寺伽藍(がらん)ではこの形が用いられている。

[山田幸一]


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改訂新版 世界大百科事典 「入母屋」の意味・わかりやすい解説

入母屋 (いりもや)

屋根を上部(上屋(じようや))と下部(下屋(げや))に分けて,上屋を切妻,下屋を寄棟でふき,これを一体化した屋根型。もともと,上屋の下の空間を“母屋(もや)/(おもや)”と呼び,下屋の下の空間を“ひさしの間”と呼んだところからこの名称が生まれたのであろう。屋根のふき方は,上屋と下屋を区別せずに連続的に同じ構法でふくことが多いが,上屋を瓦ぶきとし,下屋を銅板など金属板ぶきとする例もあるし,同じ瓦ぶきでも,上屋と下屋の境に段を設けた錣(しころ)ぶきというふき方もある。入母屋の屋根は,切妻と寄棟の特徴を兼ね備えており,力強い印象を与える三角形の妻をもちながら,建物の四周に軒びさしを巡らすことによって,外壁面を保護することができる。三角形の妻は破風(はふ)とも呼ばれ,その大きさは屋根こう配とは無関係に設定できる。すなわち,破風を小さくし,その立所(たてどころ)を深くした寄棟に近い入母屋とともに,江戸時代の寺社建築のように意識的に破風を大きく構えた,切妻に近い入母屋もある。
屋根
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百科事典マイペディア 「入母屋」の意味・わかりやすい解説

入母屋【いりもや】

屋根形式の一つ。上部が切妻屋根のように二方へ傾斜し,下部は寄棟(よせむね)のように四方に傾斜するもの。切妻と異なり四つの軒をもつので,寄棟とともに四阿(あずまや)とも呼んだ。寺院・城郭などで主要な建築は一般にこの形式。
→関連項目紫宸殿妻(建築)妻入日吉造屋根

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リフォーム用語集 「入母屋」の解説

入母屋

東アジアにみられる伝統的屋根形式のひとつ。上部においては切妻造、下部においては寄棟造となる構造をもつ。日本においては古来より切妻屋根は寄棟屋根より尊ばれ、その組み合わせである入母屋造はもっとも格式が高い形式として重んじられた。

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世界大百科事典(旧版)内の入母屋の言及

【民家】より

… 民家の外観的な特徴は,主として屋根の形式で分類される。まず屋根の形では,切妻(きりづま)造,寄棟(よせむね)造,入母屋(いりもや)造の種別がある。このような形式の屋根が一棟だけで構成されているものを直屋(すごや)と呼び,別棟が組み合わされる形式を西日本では角屋(つのや)と呼び,東北地方では曲り屋(岩手県など)や中門(ちゆうもん)造(山形県,秋田県など)と呼ぶ。…

【屋根】より

…その意味では,外敵から身を守る目的で壁を重視しているヨーロッパや乾燥地帯に比べて,日本の建築における屋根の重要性は高いといえる。
[屋根の形式]
 日本の木造建築における基本的な屋根形式は,切妻寄棟およびこの両者を合成した入母屋の三つであるが,軽微な建物では一方向に傾きをもつ片流れがよく使われるし,寄棟の特殊型である方形(ほうぎよう)も場合によって使われ,また,近年になって,鉄筋コンクリート建物の普及に伴って,水平な陸(ろく)屋根も数多く使われるようになった(図1)。 以上の6形式が基本的な屋根形式であるが,そのほかに,これらの形式を組み合わせたり,変形させた特殊な屋根形式もある(図2)。…

※「入母屋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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