口入(読み)くちいれ

精選版 日本国語大辞典 「口入」の意味・読み・例文・類語

くち‐いれ【口入】

〘名〙
① 横合いから言葉をさしはさんだり、世話をやいたりすること。干渉すること。口出し。くにゅう。
※発心集(1216頃か)二「云しが如くとかくの事なむど又口入(クチイレ)する人もなし」
② 対立する人たちの間に入って、関係をとりもつこと。
史記抄(1477)一七「中をなをらしめと云て、口入すれども」
③ 江戸時代、金銭の斡旋をすること。また、それを業とする人。金貸し。くにゅう。
浮世草子・本朝桜陰比事(1689)五「御金の入事有きも入申せとあれば、我も人も請合口入をせりあい壱万両てもやすき御用迚」
奉公口、縁談などを周旋すること。また、それを業とする人。桂庵(けいあん)
政談(1727頃)二「請人判銭を出し、口入に口入銭を出し」
人情本・恩愛二葉草(1834)初「口稼ぎの奉公に来れりとて、口入(クチイレ)の事を憑(たの)みけるに」

こう‐じゅ【口入】

〘名〙
① 口だしをして干渉すること。また、その人。くちいれ。こうじゅう。くにゅう。
法隆寺伽藍縁起并流記資財帳‐天平一九年(747)「此地者、他人口入犯事不在白而、布施奉
※中院本平家(13C前)三「主上さておはしませば、政務にこうしゅする計りなり」
口添えすること。世話すること。なかだちをすること。くちいれ。こうじゅう。くにゅう。
高野山文書‐文保元年(1317)三月二一日・大法師賢栄請文「賢栄依口入蹔如元可置之由承畢」
太平記(14C後)一「御前の評定、雑訴の御沙汰までも、准后の御口(コウジュ)とだに、云てければ」

く‐にゅう ‥ニフ【口入】

〘名〙 (「く」は「口」の呉音)
① 口をはさむこと。干渉すること。口出し。くちいれ。また、その人。→口入(こうじゅ)①。
② 口添えすること。世話すること。特に、金銭の貸借、不動産の売買奉公人の斡旋(あっせん)などのなかだちをすること。また、その人。くちいれ。くにゅうにん。→口入(こうじゅ)②。
塵芥集(1536)一一五条「くにうを相たて、物をかり候ところに、かりぬしふさたにいたっては、くにうのわきまへ、是をすますべきなり」
③ (平安末期から鎌倉時代にかけて) 伊勢神宮に御厨(みくりや)として寄進する土地荘園に関する仲介や周旋。また、それを職務とする人。

くち‐い・る【口入】

〘自ラ下二〙
① 口をさしはさむ。口を出して世話をする。口添えをする。
※宇津保(970‐999頃)蔵開下「父宮の、多くのたから、よき荘どもなど、〈略〉としごろくち入れざりしほどに」
② 周旋する。人の間にたって仲だちをする。口入(くにゅう)する。
※蜻蛉(974頃)下「大夫やがてはひのりて、しりにこのことにくちいれたる人と、のせてやりつ」

こう‐じゅう ‥ジフ【口入】

〘名〙 (「じゅう」は「入」の漢音) 口ぞえをすること。世話をすること。こうじゅ。くにゅう。
※色葉字類抄(1177‐81)「口入 秘隠分 コウシフ」
※高野本平家(13C前)三「俊寛は随分入道が口入(コウジウ)をもって人と成たる物ぞかし」

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デジタル大辞泉 「口入」の意味・読み・例文・類語

く‐にゅう〔‐ニフ〕【口入】

[名](スル)
口を挟むこと。干渉すること。また、その人。口出し。
「法皇去年の冬より政に御―もなく」〈著聞集・三〉
間に立って世話をすること。また、その人。仲介。くちいれ。
「跡は火に成る事も構はず、恐ろしき―に書き付けを出し、かたり半分の借りがね」〈浮・禁短気・六〉
中世、所領所職について仲介すること。また、その人。

こう‐じゅ【口入】

[名](スル)
くにゅう(口入)1」に同じ。
「今は何事も―に及ばず」〈盛衰記・一八〉
くにゅう(口入)2」に同じ。
「俊寛は随分入道が―をもって人となったる者ぞかし」〈平家・三〉

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改訂新版 世界大百科事典 「口入」の意味・わかりやすい解説

口入 (くにゅう)

口出し,干渉,仲介,斡旋といった意味で,古代から近代に至るまで長く使われた言葉。そのうち中世においては,特殊な状況のもとで使われる場合があって,〈口入神主〉〈関東御口入〉といった熟語が生まれた。口入神主とは,伊勢神宮に御厨(みくりや)が設定される際に寄進者との間を仲介した神主のことである。関東御口入とは,鎌倉幕府が荘園領主に対して,御家人を地頭にしてほしいといった申入れをすることをいった。また鎌倉幕府,室町幕府の裁判においては,第三者が訴訟当事者の一方に荷担して運動することがしばしば行われ,これが〈口入〉と呼ばれた。この場合,口入する人間は,訴訟当事者の〈縁者〉だと称するのが常であった。このことは,当時,縁者による訴訟への口入を正当とする社会通念があったことをうかがわせ,日本の中世社会のあり方を考えるうえで興味深い事柄といえる。
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山川 日本史小辞典 改訂新版 「口入」の解説

口入
くにゅう

(1)言葉をさしはさんだり干渉したりすること。人事や政策,裁判に関して,本来関係すべきでない立場の人物が口を出すのをいうことが多い。「建武式目」にも,「権貴ならびに女性・禅律僧の口入を止めらるべきこと」とある。(2)口添えすること。金銭や土地の売買,荘園の役職を仲介・斡旋すること。鎌倉時代に幕府が荘園の役職につく人物を推薦・斡旋することがあり,その土地を関東御口入地(ごくにゅうち)とよんだ。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「口入」の意味・わかりやすい解説

口入
くにゅう

一般的には,意見を述べる,干渉する,紹介するなどの意味であるが,歴史的には,中世における所領,所職に関して,口入地,口入権などとして用いられ,特に鎌倉幕府が,荘園領主に口入して荘園内に地頭職を設置した場所を,関東御口入地と呼んだ。

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世界大百科事典(旧版)内の口入の言及

【(■1)∥綺】より

…たとえば,謀反人の所領以外での〈地頭のを停止させよ〉とか,寺院の一元的な支配地であるので〈国衙のを止める〉というように。当時,同様の意味をもつ言葉として口入(くにゆう)があったが,口入が主として弁論をもってする,いわば口出し,交渉であり,またその言葉自体には非難の意はこめられていなかったのに対して,はむしろ実力行使をともなう,いわば手出し,干渉であり,その言葉自体に非難の意がこめられていたようである。【山本 博也】。…

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