(読み)トツ

デジタル大辞泉 「咄」の意味・読み・例文・類語

とつ【咄】[漢字項目]

[音]トツ(漢) [訓]はなし
〈トツ〉舌打ちする音。「咄嗟とっさ咄咄
〈はなし(ばなし)〉落とし話。「咄家はなしか小咄三題咄

とつ【×咄】

[感]《舌打ちの音から》
激しくしかるときに発する語。ちょっ。
「―、国賊」〈木下尚江良人の自白
事の意外さに驚き怪しむときに発する語。

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精選版 日本国語大辞典 「咄」の意味・読み・例文・類語

とつ【咄】

  1. 〘 感動詞 〙 不満、注意、驚きなどの気持を込めて発することば。舌打ちの音を表わす語。ちょっ。
    1. [初出の実例]「其後の事は未審(いぶかし)。怎麽(いか)なるかしらず。咄(トツ)」(出典談義本・教訓雑長持(1752)四)
    2. 「咄(とツ)、何の揚気ぞ。臍下、茶を沸す」(出典:江戸繁昌記(1832‐36)三)
    3. [その他の文献]〔漢書‐東方朔伝〕

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普及版 字通 「咄」の読み・字形・画数・意味


8画

[字音] トツ
[字訓] しかる・おどろく・はなし

[説文解字]

[字形] 形声
声符は出(しゆつ)。〔説文〕二上に「相ひ謂(い)ふなり」とよびかける意とし、〔漢書李陵伝〕に「咄、少(李陵)よ」とみえる。「咄咄」はあやしむ、「咄(しつとつ)」はる、「咄嗟(とつさ)」は急なことに驚く意。舌をうつ擬声語である。

[訓義]
1. しかる、しかる声。
2. おどろく、あわてる、なげく。
3. よびかける、おいとよぶ。
4. 国語で、はなし、こばなし。

[古辞書の訓]
名義抄〕咄 ヤア・ツタナシ・カタラク・アハフク・オレノ・イサフ 〔立〕咄 アヒカダシ・ヤ・イサフ・ツタナシ・クフ・アハフク 〔字鏡集〕咄 アラ(ハ)フク・カタラフ・クチツツナリ・ツタナシ・イサフ・ハク

[語系]
咄tut、出thjiutは声近く、咄は強く息を吐き、また舌うちする擬声語。出の声義を承ける。吶tut、訥nutは言を出そうとして、語をなさぬような発声をいう。

[熟語]
咄呵・咄嗟・咄・咄児・咄・咄咄咤咄諾・咄・咄咄咄罵
[下接語]
呵咄・訶咄・驚咄・苦咄・咄・納咄

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改訂新版 世界大百科事典 「咄」の意味・わかりやすい解説

咄/噺/話 (はなし)

落語に関してさまざまなレベルで言及する場合の用語・用字。必ずしも厳密な区別がなされているわけではないが,咄・噺・話のそれぞれの字の成立事情,歴史的慣用等の違いによって,しばしばこれらの字が以下のように使い分けられる。

 〈咄〉という漢字に,本来〈はなし〉の意味はなく,〈アア〉というような叱る声,舌打ちする音などの擬声語であったが,室町時代ごろから〈ハナシ〉という訓(よみ)が付けられたらしく,16世紀初頭成立の《文明本節用集》にその例を見る。この訓が一般化したのは室町後期らしく,諸大名の側近に侍して慰安役をつとめた御伽衆(おとぎしゆう)を〈咄の衆〉〈咄の者〉などと呼び,そのなかに機知に富んだおどけ咄をする者がいたことから,江戸時代になると,当意即妙の短いおどけばなしの意味を持つようになった。ただし,落語関係用語以外の用法としても,〈咄したい事もあれども〉(《西鶴諸国はなし》)のように,現在の〈話〉と同様に使用されていた。

 〈噺〉の字は,日本製の国字で,《延宝三年書籍目録》(1675,江戸版)に,《一休噺》《三国噺》などとあるあたりから使用されたらしいが,一般に普及したのは1776年(安永5)からと考えられる。すなわち,この年に,大坂では《年忘噺角力(としわすれはなしずもう)》《立春噺大集(りつしゆんはなしのおおよせ)》などが,江戸では《夜明茶呑(よあかしちやのみ)噺》《新落噺初鰹(しんおとしばなしはつがつお)》などがそれぞれ刊行されており,これらの書名がその証左となっている。このころからしだいに〈噺〉の字がむしろ主流になり,《江戸前噺鰻(えどまえはなしうなぎ)》(1808),《落噺屠蘇喜言(おとしばなしとそきげん)》(1824)などが刊行された。そして〈噺〉の字もまた〈咄〉とおなじように,〈噺した〉というように,一般的な動詞としても使用された。

 最後に〈話〉の字は,幕末の1867年(慶応3)に初版が刊行されたJ.C.ヘボンの《和英語林集成》に〈ハナシ--話〉と記載されたころ以来,一般的に〈ハナシ〉〈ハナス〉などという場合に使用されるようになったと考えられる。このころからは〈咄〉の字は小咄,〈噺〉の字は人情噺,芝居噺,怪談噺などといった場合に用いられるといったように,〈話〉の字とは区分けして主として落語関係の分野において使用されるようになった。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のの言及

【人情本】より

…人情本の源流の一つは,式亭三馬,梅暮里谷峨(うめぼりこくが)らが,寛政の改革以降に著した物語性に富む連作洒落本(しやれぼん)に求められるが,それとともに読本(よみほん)を通俗化し,講釈などの話芸をとりいれた中型読本と呼ばれる大衆読み物からの転化が考えられる。前者の系譜を引くのは《娼妓美談(けいせいびだん) 籬の花(まがきのはな)》(1817)など,末期洒落本作者として出発した鼻山人であり,後者の中型読本から市井の男女の情話を描く人情本様式への転回を告げたのは,新内の名作《明烏(あけがらす)》の後日談として書かれた,2世南仙笑楚満人(なんせんしようそまひと)(為永春水)・滝亭鯉丈(りゆうていりじよう)合作《明烏後正夢(のちのまさゆめ)》(1819‐24)と素人作者の写本《江戸紫》を粉本とした十返舎一九の《清談峯初花(せいだんみねのはつはな)》(1819‐21)であった。 《明烏後正夢》で戯作(げさく)文壇に登場した2世楚満人は,その後,狂言作者2世瀬川如皐(じよこう)や筆耕松亭金水(しようていきんすい)らの助力を得て,二十数部の人情本を出版するが,いずれも未熟な習作で世評もかんばしくなかった。…

※「咄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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