女性性器のしくみとはたらき(読み)じょせいせいきのしくみとはたらき

家庭医学館 の解説

じょせいせいきのしくみとはたらき【女性性器のしくみとはたらき】

 女性の生殖(せいしょく)に直接関与する臓器を、女性性器といいます。
 女性性器には、体表に現われている外性器(がいせいき)と、体内にかくれている内性器(ないせいき)とがあります。
◎外性器のしくみ
◎内性器のしくみ
◎性器の分化と発育

◎外性器(がいせいき)のしくみ
 女性の外性器(図「女性の外性器(外陰)」)は外陰(がいいん)とも呼ばれ、恥骨(ちこつ)の上部から会陰(えいん)に至る部位で、恥丘(ちきゅう)、大陰唇(だいいんしん)、小陰唇(しょういんしん)、陰核(いんかく)、腟前庭(ちつぜんてい)および会陰からなります。
●恥丘(ちきゅう)
 恥骨結合の前上方に隆起した部分で、その組織は皮下脂肪に富み思春期をすぎると陰毛(いんもう)でおおわれます。
●大陰唇(だいいんしん)
 陰裂(いんれつ)をはさんで、左右2枚にわかれた弁のような構造をした皮膚組織で、内側にある性器と尿道口(にょうどうこう)を保護しています。皮脂腺(ひしせん)、汗腺(かんせん)に富みますが、陰毛は恥丘に比べて少なく、男性器の陰嚢(いんのう)に相当します。
●小陰唇(しょういんしん)
 大陰唇の内側にある、左右2枚の薄い扁平(へんぺい)な無毛の皮膚組織で、大きさや形状には個人差があります。男性の陰茎(いんけい)部尿道に相当します。
●陰核(いんかく)(クリトリス
 陰裂上方の端にあって、外尿道口の前に突き出た小さなつぼみの形をしており、男性の陰茎に相当する部分です。女性器のなかでもっとも敏感で、性的に興奮すると勃起(ぼっき)します。
●腟前庭(ちつぜんてい)
 左右の小陰唇にかこまれた粘膜(ねんまく)部をいい、そこには外尿道口、腟口(ちつこう)、大前庭腺(だいぜんていせん)(バルトリン腺)などが開口しています。
 外尿道口(がいにょうどうこう) 陰核と腟入り口の間にある小さな孔(あな)で、尿道の左右両側にはスキーン腺(副尿道ともいいます)という分泌腺(ぶんぴつせん)が開口しています。女性の尿道は男性に比べて短く、つねに湿っている腟前庭に開口しているために、膀胱炎(ぼうこうえん)をおこしやすくなっています。
 腟口(ちつこう) 腟前庭の後方にあり、すぐ内側には、処女膜(しょじょまく)という薄い膜があります。処女膜の中央には、小指を挿入できる程度の孔があり、そこから月経血(げっけいけつ)やおりものが出てきます。またタンポンの使用、激しい運動、性交などにより処女膜は裂け、出血をともなうこともあります。
 大前庭腺(だいぜんていせん)(バルトリン腺) 腟口の両側にあるえんどう豆大の分泌腺で、性的に興奮すると粘液を分泌します。外部からの化膿菌(かのうきん)などの侵入により、バルトリン腺炎(せんえん)(「バルトリン腺嚢胞/バルトリン腺炎/バルトリン腺膿瘍」)をおこすことがあります。
●会陰(えいん)
 小陰唇と肛門(こうもん)との間の部分で、長さには個人差があります。
●外性器のおもな病気
 外陰部は、腟や子宮(しきゅう)からの分泌物によりつねに湿っているため、細菌・ウイルス・真菌(しんきん)(カンジダなどのかび)などの病原微生物、衣類・尿・便などの刺激にさらされることによって、感染や炎症(外陰炎(がいいんえん)(「外陰炎」))をおこしやすく、ときにはくり返すこともあります。
 そのほか、前述のバルトリン腺炎や、性感染症の1つである性器ヘルペス(「性器ヘルペス」)などの病気もおこります。

◎内性器(ないせいき)のしくみ
 内性器は外から見えない性器で、腟 ・子宮・卵管(らんかん)・卵巣(らんそう)からなります(図「女性性器(断面)」図「子宮・卵管・卵巣」)。
●腟(ちつ)
 腟は膀胱と直腸の間にあり、長さ8~10cmのH状の内腔(ないくう)をもつ筋肉性の管で、腟前庭に開口しています。後上方にのびた管の先端は子宮につながっています。腟粘膜(ちつねんまく)には、平らで滑らかなひだが横に走っていて、伸縮性があり、出産時には胎児が通る通路になります。
 正常な腟内には、デーデルライン桿菌かんきん)が常在し、乳酸を産出するために、腟内は高い酸度(pH3.8~4.0)に保たれ、病原微生物の感染を防いでいます(腟の自浄作用)。
●腟のおもな病気
 カンジダという真菌に感染し、白色のおりものやかゆみのあるカンジダ腟炎(ちつえん)(「腟カンジダ症(カンジダ腟炎)」)、トリコモナスという原虫に感染し、泡沫(ほうまつ)状のおりものが出るトリコモナス腟炎(ちつえん)(「腟トリコモナス症(トリコモナス腟炎)」)、閉経後にみられる老人性腟炎(ろうじんせいちつえん)(「老人性腟炎(萎縮性腟炎)」)などがあります。
●子宮(しきゅう)
 子宮は、骨盤内腔(こつばんないくう)のほぼ中央にあります。大きさは鶏卵大で、扁平(へんぺい)な西洋ナシのような形をし、腟の上端と接続している子宮頸部(しきゅうけいぶ)と、その奥の子宮体部(しきゅうたいぶ)に分けられ、内側は子宮内膜(しきゅうないまく)という粘膜でおおわれています。
 この子宮内膜は、思春期になると厚さを増し、月経周期の開始とともに、周期性変化がみられるようになります。
 女性ホルモンの影響で、子宮内膜は妊娠に備えて厚くなりますが、妊娠しないとはがれて、出血をともない体外に排出されます。これが月経(げっけい)です。
 子宮頸部(しきゅうけいぶ) 腟内に突き出た部分を子宮腟部(しきゅうちつぶ)といい、腟の奥に指を入れると、触れることができます。子宮腟部には子宮口(しきゅうこう)が開いていますが、ふだんは小さく、指やタンポンを入れることはできません。しかし、出産の際には、腟とともに産道(さんどう)となり、陣痛(じんつう)により子宮口が大きく開きます。
 子宮体部(しきゅうたいぶ) 子宮の上3分の2のふくらんだ部分で、内側に子宮腔(しきゅうくう)、子宮腔をおおう子宮内膜、そして子宮内膜の外側にはよく発達した子宮筋層(しきゅうきんそう)があり、この子宮筋層で子宮壁の大部分を構成しています。
 妊娠すると子宮体部は容積を増し、胎児は子宮腔で成長します。
●子宮のおもな病気
 子宮腟部にみられる子宮腟部(しきゅうちつぶ)びらん(コラム「子宮腟部びらんとは」)、子宮頸管(しきゅうけいかんポリープ(コラム「子宮頸管ポリープ」)、子宮の筋組織から発生する良性の子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)(「子宮筋腫」)、子宮内膜が子宮腔以外の場所で増殖する子宮内膜症(しきゅうないまくしょう)(「子宮内膜症」子宮筋層内で増殖するものは子宮腺筋症(しきゅうせんきんしょう)とも呼ばれます)、子宮頸部にできる子宮頸(しきゅうけい)がん(「子宮頸がん」)、子宮体部にできる子宮体(しきゅうたい)がん(「子宮体がん」)などがあります。
●卵管(らんかん)
 卵管は、子宮体部から出る長さ10~12cm、太さ約5mmの左右一対の細い管です。卵管の一方は子宮腔、もう一方は卵巣に接し、腹腔内(ふくくうない)に口を開いた部位は、花びらのようにひろがっていて、卵管采(らんかんさい)(図「子宮・卵管・卵巣」)と呼ばれます。
 排卵によって卵巣から出た卵子(らんし)は、卵管采でとらえられ、卵管内を子宮にむかって移動し、卵管の膨大部に達します。このとき、腟内から子宮内にのぼってきた精子と卵子が出会うと、受精がおこります。
●卵管のおもな病気
 卵管内に、細菌やクラミジアが感染する卵管炎(らんかんえん)(「子宮付属器炎(卵管炎/卵巣炎)」不妊の原因になったりします)や、子宮外妊娠(しきゅうがいにんしん)(「子宮外妊娠」)のおこりやすい場所でもあります。
●卵巣(らんそう)
 子宮の両側、卵管の後外方にある親指大で扁平な楕円形(だえんけい)の臓器で、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロン(表「おもなホルモンとはたらき(2)」)を産生して分泌します。ホルモンの影響を受けて、卵胞は成熟して月に1度排卵し、卵子が排出されます。
●卵巣のおもな病気
 袋状の良性腫瘍である卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)(「卵巣嚢腫」)には、内容物により漿液性嚢胞腺腫(しょうえきせいのうほうせんしゅ)(「卵巣嚢腫」の漿液性嚢胞腺腫)、ムチン性嚢胞腺腫(せいのうほうせんしゅ)(「卵巣嚢腫」のムチン性嚢胞腺腫)、類皮嚢腫(るいひのうしゅ)(デルモイド嚢腫(「卵巣嚢腫」の類皮(性))、卵巣内膜症性嚢胞(らんそうないまくしょうせいのうほう)(「卵巣内膜症性嚢胞(卵巣チョコレート嚢胞)」)などがあります。
 また、悪性腫瘍では、卵巣(らんそう)がん(「卵巣がん」)が発生します。

◎性器の分化と発育
 子宮内で発育する受精卵は、初め未分化の状態にありますが、胎生(たいせい)の第3週から第8週にあたる胚子期(はいしき)に、性の分化が始まります。
 その遺伝的な性(性染色体の組み合わせによる性)は受精時にすでに決定されており、この時期には、生殖腺(せいしょくせん)、生殖管(せいしょくかん)系の分化が進行するのです。
●生殖腺の分化
 胚子に生殖堤(せいしょくてい)が現われ、この部位の細胞は増殖をくり返して生殖索(せいしょくさく)を形成します。そして原始生殖細胞は、胎生第6週に生殖堤に入ります。
 活発な細胞増殖をくり返すこの時期の生殖腺を、未分化生殖腺(みぶんかせいしょくせん)といいます(図「生殖腺の分化(3)」)。
 Y染色体のない遺伝的女性胚子では、これらの部位は卵巣の髄質(ずいしつ)に位置し、後にここは卵巣髄質(らんそうずいしつ)と呼ばれる組織にかわります。
 さらに生殖索は、皮質索(ひしつさく)となり生殖腺の表層近くにとどまり、やがてその中に原始生殖細胞を囲む細胞塊となり、生殖腺の表層にとどまります。
 引き続き分裂をくり返し、生殖細胞は卵祖細胞(らんそさいぼう)に、表面上皮(じょうひ)は卵胞細胞(らんぽうさいぼう)になります。
●生殖管の分化
 男女とも二対の生殖管をもち、このうち中腎傍管(ちゅうじんぼうかん)(ミュラー管(かん))は頭のほう(上方)では卵管を、また尾側(下方)では左右が癒合(ゆごう)して子宮管、後に子宮体部(しきゅうたいぶ)、子宮頸部(しきゅうけいぶ)を形成し、そこにミュラー丘ができます。
 癒合した部位からは幅広くヒダが形成され、後に子宮広間膜(しきゅうこうかんまく)となります。そして、中腎傍管の尾側端より洞腟球(どうちつきゅう)の組織が増殖し、後の腟壁(ちつへき)を形成します。
●外生殖器(がいせいしょくき)の分化
 排泄腔膜(はいせつくうまく)周囲の細胞の増殖により排泄腔ヒダが形成され、これが左右合体して生殖結節(せいしょくけっせつ)となります。
 このころ、さらに生殖隆起(せいしょくりゅうき)が排泄腔ヒダの両側に現われてきます。
 生殖結節は陰核(いんかく)を形成し、排泄腔ヒダの一部より小陰唇(しょういんしん)、生殖隆起より大陰唇(だいいんしん)が形成されます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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