国家の基本的な統治機構を国の内部から暴力的に変革・破壊する罪。本罪は、国の外部から暴力的変革・破壊を行う外患罪とともに、国家の存立そのものを危うくする罪であるだけに、いずれの国家においても、その犯人は厳罰に処せられる。ただ、内乱が成功し、新たな支配秩序が確立されれば、既存の刑法では犯人は処罰しえず、むしろ革命の英雄として賞賛されることにもなる。それゆえに、内乱罪は政治犯または確信犯の典型とされ、その犯人に対しては、その名誉を重んじる立場から「名誉拘禁」の対象とされるのが一般的であり、また、国際法上も、政治犯人不引渡しの原則が確立している(逃亡犯罪人引渡法2条1号)。
ところで、「内乱」とは国の統治機構を破壊し、またはその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動することである(刑法77条1項)。また、本罪の未遂罪のほか、予備・陰謀罪、幇助罪(ほうじょざい)をも広く処罰している(同法77条2項、78条、79条)が、暴動に至る前に自首すれば刑は免除される(同法80条)。
内乱罪が成立するためには、所定の目的で「暴動」をすることを要する。「暴動」は、多数人が結合して、暴行・脅迫を行い、一地方の平穏を害する程度に達することが必要である。このように、内乱罪は多衆犯または集団犯の典型である点で、騒乱罪(刑法106条、107条)と類似する。
本罪の刑罰はこれへの関与の形態に応じて、首謀者は死刑または無期禁錮、謀議参与者・群衆指揮者は無期または3年以上の禁錮、その他の職務従事者は1年以上10年以下の禁錮、単なる付和随行者・暴動参加者は3年以下の禁錮、にそれぞれ処せられる。
内乱罪を含め政治犯罪については、その対審は公開されなければならない(憲法82条2項但書)。また本罪にかかる第一審は、その重大性から高等裁判所が管轄することになっている(裁判所法16条4号)。
なお、内乱罪により有罪とされた事件として、第二次世界大戦前には1932年(昭和7)5月の「五・一五事件」や、翌1933年7月の「神兵隊事件」などがあるが、戦後には本罪が適用された事件は2009年(平成21)現在存在しない。
[名和鐵郎]
日本国の政治的基本組織を不法に変革・破壊すること(憲法の定める統治の基本秩序の壊乱)を目的とした暴動を行う罪(刑法77条)。刑法は,国の統治機構の破壊や領土において国権を排除して権力を行使することを目的の例として挙げている。前者は行政組織の中枢である内閣制度を不法に破壊・変革することをいい,単に個々の閣僚を殺害して内閣の更迭を目的とするだけでは本条にいう〈目的〉があったとはいえない。本罪の行為は暴動である。多数人が結合して暴行・脅迫を行い一地方の平穏を害する程度に達することをいう。騒乱罪のようにたんに多数人が集合するだけでは不十分であり,多数人が上記のような特定の目的のための集団として行動する必要がある。内乱罪は,集団犯罪の一つであるので,集団内の役割,地位に応じて処罰が異なる。最高の指導的役割を果たした首謀者は死刑または無期禁錮,謀議に参加した者や群衆を指揮した者は無期または3年以上の禁錮,謀議参加・群衆指揮以外の職務に従事した者は1年以上10年以下の禁錮,付和随行者は3年以下の禁錮に処せられる。予備・陰謀(78条)や幇助(ほうじよ)(79条)も処罰されるが,暴動に至る前に自首すれば刑は免除される(80条)。なお,破壊活動防止法においては教唆や扇動も処罰されている(38条,41条)。内乱罪に関する事件の対審はつねに公開されなければならない(憲法82条2項但書)。
内乱罪は国家の存立そのものを保護するためのものであり,革命等により国家の存立が破壊・変革されてしまった場合には内乱罪による処罰はありえない。したがって,内乱罪は政治犯ないし確信犯の典型的な例である。政治的主義・信条に基づき行動する政治犯罪人・確信犯罪人に対して刑事責任を問いえないとする見解もあるが,各国の刑法典とも極刑で臨んでいる。国際法上の慣習として政治犯罪人不引渡しの原則がある。
執筆者:堀内 捷三
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