弘安8年(1285)11月17日に安達泰盛一族与党が滅亡した事件。霜月騒動,安達泰盛の乱,秋田城介の乱ともいう。1246年(寛元4)の寛元の乱(宮騒動,北条光時の乱ともいう)で一門に対する惣領権を確立し,47年(宝治1)の宝治の乱(宝治合戦)で三浦氏を倒した北条氏はモンゴル襲来のころには得宗(北条氏の当主)専制確立の途上にあり,その家臣団は,一般御家人の外様(とざま)に対して,御内人(みうちびと)と呼ばれて一定の勢力となり,幕政にも関与する傾向を見せていた。84年(弘安7)4月北条時宗が死に,貞時が執権と得宗の座につくと,その乳母の夫の平頼綱は,御内人勢力の代表として内管領(うちかんれい)となり,ひたすら得宗御内の利益と権力の強化を追求する立場をとろうとした。これに対抗したのが,外様御家人の代表安達泰盛である。4代にわたって幕閣に重きをなしてきた安達氏を継いだ泰盛は,引付衆,引付頭,評定衆,越訴奉行,恩沢奉行などを歴任し,秋田城介,陸奥守を兼ね,上野,肥後の守護職を兼帯し,時宗私邸における重要秘密会議にも参画し,時宗死後,時宗に嫁した娘が生んだ若年の執権貞時を補佐して,新制38ヵ条を制定するなど,その政治には見るべきものがあり,外様御家人の衆望と期待を集めていた。北条泰時以来の伝統を守り,得宗中心に北条一門,有力外様御家人の合議で幕政を運営しようとする立場をとる泰盛は,必然的に御内人勢力の代表平頼綱と対立を生じたのである。
頼綱,泰盛ともに貞時に讒言(ざんげん)し合ったが,内管領として貞時の側近にあった頼綱は,泰盛の息宗景が源家を詐称して将軍の地位をうかがったとし,軍勢指揮権のある侍所所司の地位を利して先手をうち,85年11月17日,出仕してきた泰盛を捕らえて斬り,兵を鎌倉甘縄(あまなわ)の安達氏邸に派して一族を攻め滅ぼし,その与党の外様御家人多数を滅ぼした。このとき,将軍惟康親王の居館も兵火にかかったという。これを弘安合戦という。乱に勝った頼綱は,安達一族と与党の外様御家人を各地に攻めたので,上野,武蔵の御家人多数が殺され,余波は信濃,常陸,三河,播磨,美作,因幡にも及び,筑前では少弐氏の惣庶の対立も加わって岩門(いわと)合戦を引き起こした。殺された者には,大江泰広,船木長朝,佐原泰親,佐々木宗清などのほか,殖田(うえだ),蘆名,池上,行方,伊藤,足立,南部,和泉,田中,小笠原,伴野,荒木,横須賀,有道,綱島,筑後,鎌田,有坂,武田,鳴海,秋山などがある。鎌倉で自害したおもだった者30人ともいい,死傷500人に及ぶともいう。北条一門でも,泰盛の女婿金沢顕時は下総国殖生荘に籠居している。この乱によって得宗専制は確立し,内管領平頼綱指導の恐怖政治がしかれた。頼綱自身は,93年(永仁1)貞時に殺されている。
執筆者:奥富 敬之
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…両人ともに貞時に讒言(ざんげん)し合ったが,妻が貞時の乳母であった頼綱のほうが有利で,泰盛の息宗景が源家を詐称して将軍の地位をうかがったとする頼綱の讒言が奏功し,ついに85年11月17日,泰盛は一族与党とともに貞時の討手に滅ぼされた。これを弘安合戦という。このとき,頼綱が軍勢動員の権限のある侍所所司だったことも,御内人勢力勝利の一因であった。…
…鎌倉時代,幕府の実権を握った北条氏得宗家の被官が御内人(みうちびと)と呼ばれたのに対して,将軍家に直属する一般御家人は外様御家人と呼ばれた。鎌倉時代後期には御内人と外様御家人の対立が深刻となり,前者の代表である平頼綱と後者の代表である安達泰盛が衝突した事変は,1285年(弘安8)の弘安合戦として著名である。室町時代以後は大名の家格を示す呼称として用いられ,外様衆とは幕府と疎遠な関係にある大名の称号となった。…
…1284年(弘安7)父の死により14歳で執権となる。初め安達泰盛の主導によって政治改革が推進されたが,貞時の乳父平頼綱ら得宗被官(御内人)は貞時を動かして85年泰盛派を粛清した(弘安合戦)。以後,内管領平頼綱のもとで御内人(みうちびと)による支配が公然化する。…
…ここに御内人の地位は一躍上昇し,御内人筆頭の得宗家の家令は内管領(うちかんれい)と呼ばれて強力な権限を握り,評定衆以下の幕府の人事をも左右した。このため御家人勢力との対立をおこし,1285年(弘安8)には御家人勢力を代弁する安達泰盛を内管領平頼綱が滅ぼす弘安合戦(霜月騒動)といわれる事件がおきている。御内人と御家人との対立はこの後の幕府政治に大きな影をおとした。…
※「弘安合戦」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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